モバイルデバイス管理 MDMサービスが担う攻めと守り
第9回
病院DXが加速するなか スマートデバイス活用も急拡大
運用・安全の確保に注力
岡山赤十字病院ではこの数年、スマートデバイスの導入が急速に進みつつある。そこで浮上したのが運用管理だが、その中核を担う情報システム課が中心的なツールとして選んだのが株式会社アイキューブドシステムズの「CLOMOMDM」だ。初期設定にあたってはゼロタッチを実現し管理者負担を軽減するなど、効果はすぐに表れたという。
現場主導のスマートデバイス活用
キッティングや運用管理が課題に
岡山赤十字病院において、病院によるスマートデバイスの一元管理の必要性が浮上したのは2021年頃のこと。当時、医師が診療にあたってiPadを用いて文献を検索したり、手術時の全身麻酔などの説明動画を患者に参照してもらったりといった用途で、現場レベルでスマートデバイスの導入が進みつつあった。
一方、スマートデバイスは個人向けのアップルアカウントで運用し、デバイス管理、ソフトウェア管理などは統制できておらず、作業が煩雑な各種設定やソフトウェアのインストールといったキッティング作業はIT関連業務や端末管理を担当する情報システム課に「丸投げ」される状況だったという。
iPadが導入された当初から、同課ではスマートデバイスの管理が課題だった。中村雄大・情報システム課情報システム係長は当時の様子を振り返る。「パソコンの導入についてはあらかじめ情報システム課によるキッティングを経て、現場に渡すという流れがありましたが、『スマートデバイスはパソコンではない』という認識があったためか、各部署で購入していたのです。ただ、キッティングは煩雑なので、購買部門から『iPadを買ったので、設定をお願いします』と依頼が来ていたのです」

原田和明情報システム課長(左)と中村雄大情報システム課情報システム係長
病院レベルでのDX推進に本腰
それでも導入台数が10数台にとどまっていたこともあって対応は可能で、目立ったトラブルも起きなかったが、附属する看護専門学校で教職員用の教科書にデジタルブック採用が決まると、管理が必要なスマートデバイスは30台を超え、現場レベルでの対応は限界を迎えた。
同院でも、IT活用に力を入れ始めているところだった。23年にはDXチームが立ち上がり、現場レベルでなく、病院主導でのDX推進の気運も高まっている。たとえばアイキューブドシステムズが提供する書類共有アプリ「SecuredDocs」を用いて治験委員会での資料の事前配布に用いている。さらに、連絡ツールとしてスマートフォンの導入も進めている。
途を絞って「ゼロタッチ」実現へ
「CLOMO MDM 」を選択
こうした背景もあり、MDMサービスの導入はすんなりまとまった。導入にあたっては、端末購入から利用者が使用開始するまで、情報システム課のスタッフも含め、誰も端末に触れることなく、初期設定を完了させる「ゼロタッチ」の実現をめざした。
情報システム課で選んだのが「CLOMO」だった。初めてのMDMサービス導入、かつ当面の用途も限定的であったため、他社と比較検討し、「シンプルで使いやすいアイキューブドシステムズのものを選びました」と中村係長。自ずと価格帯もリーズナブルな水準に落ち着いた。
21年12月に導入し、その成果について中村係長は「情報システム課スタッフの負担軽減」を真っ先に挙げる。Wi-Fiに接続すれば設定が自動でダウンロードされるので、動作確認をすれば現場に渡すだけという状態になったのだ。実質、キッティング作業はゼロという状況になった。あとは物品管理のためのシール貼付程度だという。
導入後、現場からの問い合わせは皆無だ。
「『使いにくい』というクレームが届かないことが大事です」(中村係長)
マニュアルも充実しているため、アイキューブドシステムズの問い合わせセンターを利用する機会もなく、同社の担当者から「何でも聞いていただければすぐにお答えします」と念押しされるほどだ。
今後に向けた課題として、「CLOMO MDM」の用途拡大を挙げる。セキュリティ対策の要となるため、現在はスマートデバイスとスマートフォンにとどまっているが、院内のパソコン管理や地域連携など、院内全体での活用を見据えている。
スマートデバイスの用途を明確にし、最適なシステムを導入することで、現場、管理、経理部門に効果をもたらしている同院の進め方に学ぶことは多そうだ。
(『最新医療経営PHASE3』2025年5月号)
※MDMサービスとは、スマホ・タブレット・PCを遠隔で一元管理することができ、盗難紛失対策として端末のロック・データ消去、業務効率化としてアプリの配布・管理、機能制限などを簡単に行うことができるサービスのこと。
日本赤十字社 岡山赤十字病院

日本赤十字社岡山赤十字病院
がん、脳卒中、心臓病、糖尿病、精神疾患などの5疾病をはじめ、多くの疾患に対する急性期医療はもとより、救急医療、赤十字社ならではの災害時医療、周産期医療、小児医療、へき地医療支援、さらには新興感染症対策などの6事業にも積極的に取り組んでいる。
所在地:岡山市北区青江二丁目1番1号
病床数:500床(一般病床500床)
職員数:約1300人
▼前の記事を読む
→序章 ひろがる! 医療現場のスマホ活用 安心の“要”MDMに注目
→ケーススタディ1 国家公務員共済組合連合会 舞鶴共済病院
スマホの用途拡大を視野に入れつつ「安全確保」をMDM通じて追求
→ケーススタディ2 医療法人社団東山会 調布東山病院
訪問看護でもスマホ活用を開始 安全対策も万全を期す
→ケーススタディ3 医療法人弘仁会 板倉病院
医療機関専用スマホ第1号病院で注目される「セキュリティ」機能
→ケーススタディ4 地方独立行政法人佐賀県医療センター好生館
最先端を行く、日本最古参の挑戦病院のデジタル改革をつき進む
→ケーススタディ5 学校法人聖路加国際大学 聖路加国際病院
コロナ禍で安全確保のためタブレット端末を緊急導入 「安全性」念頭に用途拡大を図る
→ケーススタディ6 ソフィアメディ株式会社
事業の急成長で浮上したユーザー支援と保守・管理 MDM活用で対応進展
→ケーススタディ7 株式会社麻生 飯塚病院
スマホ導入で働き方改革を実現 現場の声からさらなるDX化を推進
→ケーススタディ8 日本赤十字社福岡赤十字病院
「操作性」と「安全性確保」を両立
スマホの活用範囲拡大でより働きやすい環境をめざす