モバイルデバイス管理 MDMサービスが担う攻めと守り
第1回
スマホの用途拡大を視野に入れつつ
「安全確保」をMDM通じて追求
国家公務員共済組合連合会舞鶴共済病院(300床、布施春樹院長)は、PHSが21年1月でサービス終了となるタイミングを踏まえて、2020年8月に45台のiphoneを購入、切り替えた。端末は現在、常勤医全員と非常勤の麻酔科医1~4人、看護部長をはじめとする部門長に配布している。スマートフォンの機能を活かした用途拡大策が膨らんでいるが、その一方で「安全策が最重要」とし、MDMサービスの導入を通じた端末管理にも力を入れる。
iPhone機能をフル活用していく
布施春樹院長は「医師への情報伝達を確実、かつ迅速に進めたかったのです」と、当時の問題意識を説明する。
たとえばCTやMRIがメンテナンスを行う等の理由で使用できない日がある。当然、それまでもPHSのメールや回覧板を用いて周知していたが、常勤医だけで33人、非常勤医も含めると相当数にのぼるだけに、全員に確実に周知するのは難しかった。
「CTやMRIが使用できない日があれば、検査の進め方も変わります。医師からは時折、『前もって知らせてほしかった』という声もありました」(布施院長)
スマートフォンならば、より確実に見てもらえ、かつ既読歴も残るという期待もあったという。
もちろん、用途はPHSに比べて格段に広がる。
まずPHSがあくまで院内に限定した使用を前提としていたのに対し、iPhoneは院外での使用が想定される。好例が麻酔科医だ。その日に行われる手術内容もアプリケーションによりチェックできるようになっているので、どのような体制で臨むかといったこともあらかじめ検討できるのだ。
また夜間の救急現場ではコンサルテーションに役立てている。内科医が当直を担当している時に、骨折疑いの患者が搬送されてくることがあるが、患部をiPhoneで撮影し、自宅にいる整形外科医に送付して診断の助言を仰ぐこともできる。
「脱臼の見落としがわかったケースもありました」(布施院長)と、その効果はさっそく現れている。
今後、用途はさらに広げる予定だ。来夏に同院は電子カルテの更新を行うが、その機に合わせてiPhoneからも閲覧できる仕組みを整え、患者のバイタルデータやCT画像の閲覧も可能にする。
医師以外の医療スタッフへの支給も視野に入れる。在宅がん患者を訪問する認定看護師に支給し、患者情報の確認に役立てることも検討している。
院外使用を前提としたセキュリティ対策
このようにiPhoneの機能を活用した用途はいろいろ考えられているが、「それだけにセキュリティ対策が一層重要になります」と強調するのは電算管理課の藤川広誉氏だ。
そもそも機種としてiPhoneを選んだのも、基本ソフト「iOS」の運営指針がセキュリティ対策に適していたことが大きい。藤川氏は次のように説明する。
「今後、アプリケーションを導入して活用の幅を広げていくことになりますが、iPhone用のアプリに関してはApple社が一定の質のチェック機能を果たしている安心感があります」
もちろん、セキュリティ対策をApple社に任せきりというわけにはいかない。患者情報をやりとりする人数や範囲が拡大していけば、当然、病院としての対策が求められる。
用途拡大を見越した「CLOMO MDM」導入
そこで浮上したのが「質の高いMDMサービスを選ぶ」という課題だった。「病院の外に持ち出した際のセキュリティ確保、端末の管理は最も重視しました」
白羽の矢を立てたのがアイキューブドシステムズの「CLOMO MDM」だ。その理由として、藤川氏は「操作のしやすさ」を挙げる。
「当院にはシステムエンジニアは在籍していないので、ブラウザ上で見てわかりやすいシステムが望ましいと考えました。細かい設定もある程度、自分たちで行える点も魅力的です。スタッフがベンダーの助言に頼らず自力である程度は使えるものでなければ、せっかくのiPhoneも宝の持ち腐れになります」
PINポートというパスワード入力を10回間違えると強制的に初期化される設定になっているほか、遠隔操作で初期化できるので、仮に紛失した際も悪用されることはまずない。これらはいずれも病院独自に設定したものだ。
「CLOMO MDM」はiPhone以外の端末の管理も行える。用途や院外との情報共有が起きた際も、一括で管理できる。「院外での診療に情報を役立てるケースは当然出てきますが、それにも対応できる備えが必要です」(藤川氏)
布施院長はiPhoneと「CLOMO MDM」導入の費用対効果についてこう語る。「医療の質を高める効果は間違いなくあるし、それに伴って職員のモチベーション向上も期待できます。それに医師の働き方の効率化はますます求められるし、取り組んでいる病院かどうかは、医師も見ています。医師を大事にする病院という姿勢も伝えられると考えています」
(『最新医療経営PHASE3』2021年1月号)
国家公務員共済組合連合会
舞鶴共済病院
1906年3月、舞鶴海軍工廠職工共済会病院として設立。45年10月、財団法人共済協会舞鶴共済病院として一般市民の診療も開始。現在は京都北部地域の基幹病院として位置づけられ、特に循環器科・心臓血管外科における症例数と診療実績は近畿地方全体の中でもトップクラスを誇る。また、「da Vinci」も導入し、高度医療を推進している。介護老人保健施設すこやかの森を併設。
所在地:京都府舞鶴市字浜1035番地
病床数:300床(7対1病床254床、地域包括ケア病床36床)
職員数:532人(常勤医32人、常勤看護師212人)
2019年病床機能報告より
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