実践的看護師マネジメント
第3回
内罰的な管理職と外罰的なスタッフの組み合わせが離職者を生む

スタッフの落ち度まで自ら背負い込む先輩は一見、「頼もしい人」と思われがちだが、組織運営の観点で言うと、むしろ組織崩壊を招く要因ともなり得る。「言うべきときは言う」姿勢は、スタッフの育成、定着の観点からも不可欠なのだ。

内罰的な人とは

内罰的な人とは、ストレスがかかったときに「すべて自分が悪い」と自分を責めてしまう傾向の強い人のことを言います。人間には、ストレスがかかったときに無意識のうちに自分を守る仕組みが自身の身体に標準装備されていて、それは「防衛機制」や「適応機制」と言われます。

たとえば、新人看護師が「ここの教育システムに自分は合わない」といって退職したとします。そのことで、新人のOJTを担当する役目の実地指導者が、「新人が辞めたのは自分の指導がよくないせいだ」「もっと自分が親身になってさえいれば辞めなかったのに……」と、新人が退職したことを自分自身のせいだと思いすぎることを「内罰的防衛」と呼びます。

優しい方に多いこの内罰的防衛は、看護師がよく持っている機制の一つです。新人がミスしたときも「もっと私が注意しておけばよかったんです」「私の教え方が曖昧だったから新人が迷ったんです」と、すべての責任を背負ってくれる天使みたいな先輩。これが内罰的な看護師です。

問題行動の多いスタッフや接遇の悪いスタッフを注意できない管理職

教わる側としては、内罰的な看護師は、何かあったときに他人のせいにせず、全部自分が悪かったと引き受けてくれるので、とても優しくてあこがれの対象になるかもしれません。
しかし、内罰的な人が問題の解決能力が高いかというと、そうでもありません。自分を責めることにエネルギーと時間を使いすぎているので、問題を解決するだけの力が残っていないことがほとんどです。
また、それ以上の負荷がかかるとメンタル不調を訴えたりすることが多いのも、この内罰的な人です。

「注意したいけどなかなかできない」──。こうした方が管理職になっている病棟は、学校でいうところの「学級崩壊」が起きていることが多くあります。病棟の学級崩壊とは、離職率が高く、病院や他のスタッフの悪口や不平・不満ばかり言って周囲のモチベーションを下げる外罰的なスタッフが誰からも注意されずに放置されていたり、メンタル不調で休職するスタッフが多く出現したりする病棟のことを指します。

いわゆる外罰的な人々のやりたい放題の病棟で無法地帯。必要以上に自分を責めすぎる人は外罰的な人をビシッと注意できないので、内罰的な管理職+外罰的看護師=病棟崩壊となりやすいのです。役職についたらやはり、「自分だけを責め続ける」「注意したいけどなかなかできない」から脱皮する必要があります。

外罰的なスタッフを注意しないといい人が辞める

窓ガラスの割られた車を一台放置しておくと、その近隣ではたちまち凶悪犯罪が増加すると言われ、これを「ブロークンウインドウズ現象」と呼びます。
「ある実験」では、家の郵便ポストの周辺に落書きがあったり近くにゴミが捨ててあったりすると、その郵便受けから郵便物が盗まれる割合は25%に及ぶという結果がでました。ゴミや落書きは、節度ある大人を泥棒に豹変させてしまうのです。
でも、周囲を徹底的にキレイにすると窃盗はなくなるそうで、この実験は「郵便受け実験」と呼ばれます。2008年に行われたフィールド調査では、落書きや花火の打ち上げの跡を放置すると、通りすがりの人もこぞって同様の行為をすることが示されています。

なぜ、こうした連鎖が起こるのでしょうか。自分に置き換えて考えてみると、家の前に停められていた車の窓ガラスが壊されたまま放置されていたとすると、「みんな見てみぬふりだ、ここではいざというとき、誰も自分を守ってはくれないだろう」と不安な気持ちになります。こうした「不安」や「恐怖」が募ると自己防衛本能が働き、交感神経がピリピリとし始め、それが高じることで暴力的になっていくのではないか──と推測されています。

人は急激なストレスよりも弱くても長いストレス(この場合は社会的放置)に敏感にできており、放置(ネグレクト)が人を攻撃的にしていくとも言われています。よくない言動のスタッフを注意しないということは、その他の健全なスタッフへのネグレクトであると言えるでしょう。
「この病棟ではよくない言動のスタッフをしっかりと注意してくれる」と思うと、上司への信頼も厚くなり、だんだんと風土もよくなっていきます。すると「この病棟は変わらないな」と、いいスタッフが辞めていくという最悪のパターンに陥らなくてすみます。注意する人はやはり役職がついた方が望ましく、しっかりとした采配に部下はついていくものです。
「内罰的な管理職だ」と自身で思う方は、この機会にぜひ「言いたいけど言えない」自分から脱却しましょう。

奥山美奈(TNサクセスコーチング株式会社代表取締役)
おくやま・みな●教育コンサルタントとして管理者育成、人事評価制度構築、院内コーチ・接遇トレーナーの認定を行う。病院、介護施設のコンサルティングの他、全国各地の病院、看護協会等で講演も行う。