介護業界深読み・裏読み
急転直下の改定劇、
パラダイムシフトは確実に進む

介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!

これまでまるで取れ高のなかった改定議論が、11月に入ったところで一気に動いた。そこに込められたメッセージと背景は極めて興味深い。
まず、10月末に公表された介護事業経営実態調査の結果については、いまさら詳細に触れる必要もないだろう。収支差率は前回調査からマイナス0.7%。2.4%という「総じて悪化」の結果だった。
一方で、注目されたコロナ禍による影響については、人件費はほぼなし。物件費について1%増という結果で、逆の意味で驚いた方も多かったのではないか。

それを受けて、財務省は11月2日に開いた財政制度分科会で「収支差率は中小企業並み、コロナの影響もほぼ無い」として、「プラス改定(国民負担増)をすべき事情は見出せない」とし、16日には「令和3年度予算の編成等に関する建議」の案をまとめるという手際の良さを見せた。この時点で、コロナによるダメージを主張してきた介護業界の声に対して同調する向きは下火になった。それでも例年とは違い、「マイナス改定」を求めなかったのは財務省として異例のことで、そこには衆院選を控えた政府の立場や世論への配慮があったのだろう。この点で微増の改定ムードは消えていない。むしろ概算要求で設けられたコロナ対策に係る「緊要な経費」が野放図に膨らむことへの危機感の表れといった印象と言うべきで、それに比してずっと小さな予算規模の介護報酬改定を主たるターゲットにするとは考えづらい。

一方で厚生労働省はどのような動きをとったか。じつは10月半ば、関係議員に「財務省が相当固い」という感触を伝えている。その下敷きもあり、コロナの影響がなかったとする調査はプラス改定の楽観ムードを抑える効果は大きかったと言える。そこに並行して、介護給付費分科会では矢継ぎ早に方向性が示されており、そこには注目すべきポイントが多々盛り込まれていたものの、委員は情報過多で思考停止したのか、ほぼ「無風」で通過する結果となった。

特に印象的なのは、アウトカム評価やそれに向けた体制整備だ。基本的には計画書等の範囲で行うことが想定されているというが、複数の加算に「CHASEへのデータ提出とフォードバックによるPDCAサイクルの推進・ケアの質の向上の取組を行うことを(上乗せ)評価する」とする記載がされた。言ってみればインフラ整備。加えて、通所介護では個別機能訓練加算について(I)(II)を統合し、機能訓練指導員の直接実施を求めたり事実上集団指導を認めないかたちにすることや、入浴介助加算についても、利用者宅の環境を踏まえた個別入浴計画の作成と個別入浴介助を評価する「実質評価」の仕組みが導入される。また、褥瘡、排せつ等の加算にもアウトカムが求められることになった。栄養・口腔ケアへの力の入れ様も印象的。さらにはかねてから象徴的なものとして注目されていたADL維持等加算も大幅なてこ入れがされる見込みだ。

その他のところでは、一時は猛烈な反対にあったグループホームの夜勤緩和についても、結局譲歩され爪痕を残した。小規模多機能型居宅介護で軽度要介護者や訪問機能等を重視する見直し、訪問介護の看取り推奨やデイケアの包括報酬化は、厚労省が積年の課題としてきた「在宅まるめ」への下ごしらえだろう。
大ナタが振るわれるとされる2024年に向けて、布石としては十分な成果と言える。

さて、今回の改定に関してあまり動きがなかった業界団体だが、そのなかで存在感を発揮したのは、全国老人保健施設協会(全老健)の東憲太郎会長と、全国介護事業者連盟(介事連)の斉藤正行理事長だ。東会長は三重県に本拠地を置き、田村憲久厚生労働大臣とも懇意な関係であることが知られ、その行動力が高く評価されてきた。今回も10月の段階で全老健単独で菅義偉首相に面会、11月には他団体を従えて再訪するなどリーダーシップを示した。一方介事連は立ち上げから2年あまりの新興団体ながら、独自に官邸とのパイプを獲得するなど政治力を伸ばし、若く感度の高い斉藤理事長を中心に全体の意欲も上がっている。この2団体については、少なくとも筆者の知る限り厚労省とも対等に交渉を行った形跡があり、今後のメインプレイヤーになっていくだろう。

数年前、官邸が打ち出した「介護のパラダイムシフト」は、必ずしも当時の目論見通りではなかったが、確実に進んでいる。潮流を読む目がすなわち生き残るためのよすがになる時代に入りつつあることを示した今回の改定劇である。(『地域介護経営 介護ビジョン』2021年1月号)

あきのたかお(ジャーナリスト)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。