迫られる世代交代の波 ニチイ学館MBOの狙いとは? Part1
ニチイ学館に何が起こっているのか 突然のMBOと上場廃止は 何を意味するのか?

介護業界最高の売上高を誇るニチイ学館が、突然アナウンスしたMBOとは何なのか? なぜ上場を廃止しなければならないのか? ニチイ学館が何をしようとしているのかを解説する。

経営陣が株式を公開買い付けする

介護業界ではなかなか聞かれない言葉が飛び出した。介護事業と医療事務では国内のトップ企業である株式会社ニチイ学館が、5月8日に行われた決算発表のオンラインカンファレンスにおいて、突如として、6月22日までのMBO(Management Buyout、マネジメント・バイアウト)とTOB(Take-Over Bit、テイク・オーバー・ビット)、株式上場の廃止(ニチイ学館は東証1部上場)、6月24日付の副社長人事などの体制の刷新の方針を公表したのである。

そもそもMBOとは何なのだろう?
それは日本語に訳せば、「経営陣買収」となる。正確に言えば、経営陣による自社株の買収である。
まず、経営陣が投資会社などとペアを組んで、「受け皿会社」を設立する。ニチイ学館の場合、米国の投資会社のベインキャピタルの日本法人と組み、BCJ-44を受け皿会社として設立した。
経営陣は、自分たちが所有する自社株をそこに譲渡して集約するとともに、受け皿会社により一般株主から株の公開買い付け=TOBを行うと宣言する。

TOBは、企業を吸収合併する手段として知られる。市場で株式を購入することで、ある会社の株を購入し、支配的な株主になることで、その会社を自分の会社に合併する意思決定を行う。特に、その会社が他社との合併を望んでいない場合には、「敵対的TOB」と呼ばれ、「乗っ取りか」と経済ニュースを騒がせることもある。
だが、この場合、TOBを行うのは、最終的には自社の経営陣である。概ね市況より高値となるよう、株価を設定して買収を行うから、一般株主も売却益が大きくなる。「敵対的TOB」と違ってきな臭い話でもないから、多くの株主が積極的に買い取りに応じる公算が高い。市況も買収価格に近い価格へと高騰していくから、敵対的な株主による株の買い取りは難しくなる。

こうして受け皿会社は圧倒的な量の株の保有ができる。株を買われた上場企業は、受け皿会社の子会社という立場になる。そこで、受け皿会社と子会社を合併統合する。
それと同時に上場を廃止する。上場の廃止にはデメリットが多く、その最たるものは、会社の信用が低下することにある。上場した会社の株は、株式市場で取り引きが公開されており、株価が高ければ、それだけ資金調達力に優れ、株主に対する配当も高い会社だと評価されていることになる。会社は株を発行することで資金調達できるのだから、株式市場で公開されている株価で株が取り引きできることは、会社の信用力の証明で、多くの企業が株式市場への上場を狙う。上場を廃止することは、普通とは逆コースである。

だが、上場廃止にもメリットはある。それは経営陣主導の大きな経営改革が行いやすくなることである。
経営陣がつくった受け皿会社に一般株主が株を売却するので、受け皿会社が圧倒的なシェアを持つ筆頭株主となる。株主総会での評決は、株数に支配される。株主のなかに敵対的な株主がいたとしても、経営陣の意思決定が株主総会で通りやすくなり、経営に横槍が入れられなくなる。TOB終了後に上場を廃止ししてしまえば、会社が再上場されるまで自社の株の取引も非公開となる。それならば、株式市場を通じて敵対的な株主が、大量の株を入手する心配もしなくて済む。

事業承継においてメリットの大きいMBO

特に、事業承継期においては、経営方針の見直しは、どんな企業でも起こりえる。会社は大黒柱となる人物を失い、後継者となる経営陣は大きな不安を抱えている。
ニチイ学館の場合、2019年9月に、創業者である寺田明彦氏が物故した。強力なカリスマ性を持つと謳われる人物である。全国区の巨大な組織だからこそ、強大な影響力を持った経営者が亡くなったことは、残された者にとって大きな衝撃になったはずだ。後に残された者たちが、集団的な経営体制をしっかり築きたいと思って不思議はない。

5月8日のニチイ学館のMBOの公表においては、MBO後の経営体制の変更もアナウンスされたが、①故・寺田明彦氏の一族もMBOに協力し、受け皿会社に株を集約すること、②現・代表取締役社長の森信介氏は留任すること、③6月24日をもって取締役副社長で長男の寺田大輔氏は現職から退任すること、④同時に取締役常務で二男の寺田剛氏が、交替で取締役副社長に就任すること、⑤これらとともに、医療事務系、介護、保育の3事業を大きな柱として重点化すること——などである。
こうした経営体制の変革が、なぜ必要とされているのか。また、改めて世間に知らしめる形で行わなければならないのか。介護業界の巨人が今、どこへ進もうとしているのかを改めて問う。(介護ビジョン 2020年7月号)

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