社会保障短信(1月9日号)
医療・介護福祉など社会保障関連の情報をお届けします。
◆トピックス…賃上げに向けた点数設定の議論が進む
◆ひとこと…保険事業と政策の境界について
◆今週の数字…86.4%
トピックス:賃上げに向けた点数設定の議論が進む
▼1月中旬以降に「とりまとめ」
「医療機関等における職員の賃上げ」についての議論が、中央社会保険医療協議会入院・外来医療等の調査・評価分科会で進んでいる。2024年度診療報酬改定についての大臣折衝事項で示された、診療報酬本体の改定率₊0.88%のうち、看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種についてのベースアップを実施するための₊0.61%分の対応を検討するためだ。12月21日に第1回、1月4日に第2回の会合が開かれた。1月中旬以降に「とりまとめ」を行う予定になっている。
この日、厚生労働省が示した論点は以下の3つ。
▽診療所等において、簡素な制度設計が求められるなかで、賃上げのためにどのような評価を行うか
▽診療所等で一律の評価を行った場合に、極端に低い賃金増率の施設が想定されることについて、どう考えるか
▽病院では、さまざまな施設があるなか、病院ごとに評価を分けることにより、賃金増率が収束する傾向にあることを踏まえ、賃上げのためにどのような評価を行うか
▼初再診料、訪問診療料、入院料の順で設定
厚労省の賃上げ案は、
①初再診料等
②訪問診療料
③入院料
――の順で設定するというもの。
①では、賃上げに必要な金額を初再診料等の算定回数×10円で割り、個々の診療所で必要となる点数の中央値を賃上げ必要点数として設定する。それに基づいてシミュレーションを行ったところ、中央値は初診料で6点、再診料で2点となった。
②では、①で賃上げに必要な金額が不足した分を、在宅患者訪問診療料の算定回数×10円で割り、個々の診療所で必要となる点数の中央値を必要点数として設定する。それに基づいてシミュレーションを行ったところ、中央値は同診療料(同一建物居住者以外)で28点、同診療料(同一建物居住者)で7点だった。
③では、賃上げに必要な金額を入院料の算定回数×10円で割り、必要となる中央値を賃上げ必要点数として設定する。これに基づいてシミュレーションを行ったところ、中央値は62点だった。
▼過不足のバラつきを抑える方向か
このうち、病院と有床診療所における評価の設計について、①一律の評価、②点数を複数に分け、病院ごとに評価――の2つの評価方法でシミュレーションを行っている。
②では、入院基本料における賃上げ必要点数を5区分に分けるパターンと、1~150点に分けるパターンの2つが示された。
①は、制度設計が単純で事務負担は少ないと想定できる一方で、過不足のバラつきが大きくなることが分かった。②は、過不足のバラつきを最小限に抑えられるが、事務負担は大きくなるほか、同様のサービスに対する評価が異なることになることが分かった。
厚労省の論点では、「病院ごとに評価を分けることにより、賃金増率が収束する傾向にあることを踏まえ」とあることから、②で進めるものと考えられるが、1~150点となるとかなり作業は煩雑になると考えられる。一方、「外れ値」があまりに大きくなると、病院の収益や人材採用にも影響しかねないだけに、落としどころに向けた議論が注目される。
ひとこと:保険事業と政策の境界について
「どこからどこまで保険の事業でカバーをし、そして政策でどこをやらなければいけないか、非常にその境界線が難しくなってきているなというのは、私ども地方自治の最前線に立っていて実感しているところでございます。今後もこちらの医療保険部会でしっかりとした医療保険の議論をしながら、一方で、政策でカバーしていくということに関しては、今後も首長の立場としてしっかりやっていかなければいかんと思いますが、その際、全国一律で決められていくべきことが地方に任されると、地方自治の中でなかなかうまく受け止めをしにくい、あるいは水準を合わせにくいというようなことがあります」
前葉泰幸
全国市長会相談役・社会文教委員/津市長
~2023年12月8日 第172回社会保障審議会医療保険部会会
今週の数字:86.4%
医療療養病棟に入院する患者を対象とした調査において、摂食嚥下機能が改善した患者に対して実施した内容として、「口腔清掃ケア」が占めた割合。食形態の変更(83.2%)や食事姿勢の調整(80%)を上回って最も多かった。慢性期療養病棟に入院する患者の歯科治療のニーズとしても「口腔ケア」が最も多いということが報告されている。(出典:中央社会保険医療協議会 総会(第575回)資料「個別事項(その20)慢性期療養病棟入院患者の歯科治療の必要性」12月22日)
(文/ヘルスケア・マネジメント.com)