産学連携による学びと実務の両輪構造で支える人材開発
― Seiwa.C教育プログラムの実践 ―

広島国際大学健康科学部 教授 飯野矢住代/株式会社誠和 代表取締役社長 河本一志

株式会社誠和(広島県尾道市)は、企業が現場での学びを支え、大学が理論と教育を補完する「Seiwa.C教育プログラム」を開発した。大学と企業が互いの専門性を生かして支援することで、学習者は学びと実践を行き来しながら広い視点を獲得し、現場で生かすことが可能になる。ここでは、広島国際大学飯野矢住代教授の論文を以下に掲載する。プログラム開発の経緯、特色、今後の目標等については、「最新医療経営Phase3」2026年5月号に掲載の同社代表取締役社長・河本一志氏と飯野矢住代教授の特別対談をご一読いただきたい。

Ⅰ.背景と課題

日本社会は今、急速な少子高齢化の中で「誰もが福祉に支えられ、誰もが老いる社会」をどう継続していくかという課題に直面している。介護福祉人材の確保と定着は全国的な課題であり、採用の工夫だけでは解決できない「育て続ける仕組み」の再構築が求められている。一方、大学では、養成校の減少や進学希望者の減少により、教育の場そのものが縮小している。学びの場が社会から離れ、教育と実践が分断されつつある。この乖離をどう埋め、教育と現場を結びなおすかが、今、大学に問われている。

こうした課題に対して、広島県尾道市を拠点とする株式会社誠和(以下、誠和)は、地域の介護福祉事業を通して実践的な人材育成に取り組んできた。1973年2月の設立以来、「人を大切にする経営」を理念に掲げ、2005年(平成17年)から本格的に福祉事業へ参入した。現在では、入居施設・通所サービス・訪問介護など多様な介護福祉サービスを展開し、地域と共に歩む企業としての基盤を築いている。

筆者らは、約6年前から産学それぞれの立場で連携を重ね、大学での学びを修了し現場で働く卒業生を中心に、学びの継続を共に見守ってきた。その経験の積み重ねと意見交換が、教育と実践をつなぐ仕組みづくりの必要性の確信となり、2024年度に体系化されたのが「Seiwa.C教育プログラム」である。

このように、大学と企業が手を携え、産学連携による新たな人材育成モデルとして「Seiwa.C教育プログラム」を共同で設計・実践している。企業が現場での学びを支え、大学が理論と教育を補完する。両者が対等に協働することで、学びと実践を往還する仕組みを構築している。この連携は、介護福祉の未来に向けて、教育と現場が手を取り合いながら歩む一つの形を示している。本稿は、こうした産学連携による教育と実践の取り組みを、大学教員と企業がまとめたものである。

Ⅱ.プログラムの理念と目的

「Seiwa.C教育プログラム」は、単なる資格取得支援を超えた“人づくりの教育”を目的としている。教育とは、知識や技能を身につけることにとどまらず、日々の実践を通して自分をつくりかえていく営みである。誠和では「自らキャリアを創り出す人を育てる」ことを理念に掲げ、新人教育と現任教育を統合した学びの仕組みを整えている。仕事をしながら学び、学びを仕事に反映し実践する。その往還を繰り返すことで、自ら課題を見出し、考え、解決していく力を育てていく。教育費用は会社が全額負担し、勤務との両立を支援する体制を整備している。国家試験対策の時間を勤務扱いとするなど、学びを生活の中に無理なく取り入れられる仕組みを整えており、修了後に勤務年数の制約を設けない点も誠和ならではの特色である。「育てた人が他の地域や国で活躍してくれたら、それも誇りである」—そう語る経営姿勢には、“人を信じる経営”が根づいている。結果として、社員が自ら学び、成長しようとする風土が生まれ、定着率の高さにもつながっている。

この理念のもと、学びを支えるのが大学の役割である。教育理論を提供するだけでなく、現場の課題や人材の成長段階を理解しながら、企業とともに未来の教育のかたちを模索していく。大学と企業が互いの専門性を尊重し、理論知と実践知を往還させながら「共に育つ教育」を築いていくこと―それこそが、このプログラムの根幹であり最大の特徴である。本プログラムの根底には、社会福祉学の理念と視点がある。人の暮らしを支える福祉実践は、知識・技術・感性のいずれか一つでは成り立たない。理論を「頭」で理解し、実践を「手」で積み重ね、人を思い、社会を見つめる「心」を育む。この3つが有機的に統合されることで、初めて専門職としての成熟が可能になる。とりわけ、この「頭」の部分を深める学びの場として重要なのが、学士課程における社会福祉学の教育である。制度や支援の理論を学ぶことで、現場の実践に根拠を与え、多職種連携や組織運営といったより広い視点を獲得できる。学びと実践を往還することは、知識と経験を結びつけ、現場で活かす力を育む統合のプロセスである。

Ⅲ.教育体系とキャリアステップ

Seiwa.C教育プログラムは、単なる教育メニューの組み合わせではない。企画の初期段階から、企業と大学が対等な立場で議論を重ねてきた。企業からは「現場で育つ実践力」と「働きながら学ぶ柔軟な仕組み」、大学からは「教育理論と支援体制」が提示され、相互の要望と制約をすり合わせる形で設計が進んだ。とくに、介護福祉士実務者研修の開講準備では、講師養成や申請書類の整備、スケジュール調整など膨大な実務が伴った。申請書類には、学則・教育規程・カリキュラム・時間割など複雑な要件が含まれており、大学教員の教育的知見が大きな支えとなった。企業と大学がそれぞれの強みを持ち寄ることで、こうした制度整備も着実に進めることができた。こうした「設計段階からの協働」が、現在の体系化の土台となっている。

こうして生まれたSeiwa.C教育プログラムは、「頭(思考)・手(技能)・心(感性)」を統合する体系的な学びの構造をもつ。新人から専門職、そして管理者層まで、学びと実践を両輪としてキャリアを描けるよう設計されている。本プログラムは、介護職員初任者研修から始まり、介護福祉士実務者研修、介護福祉士国家資格、そして学士課程(社会福祉学を基盤)へと続く段階的な構造をもち、基礎から専門、理論へと発展する学びのプロセスが実践と理論の往還を可能にしている()。

表 Seiwa.C教育プログラムにおける教育体系とキャリアステップ

ステップ 年次(目安) 目的・学修内容 到達目標
介護職員初任者研修 1年目 福祉・介護の基礎知識と技術を学び、実践の基盤を築く。 利用者の生活を理解し、基本的な介護技術を適切に実践できる。
介護福祉士実務者研修 2年目 初任者研修で得た知識・技能を基盤に、より高度な介護技術や医療的ケア、専門職としての視野を広げる。 チームの一員として協働し、複雑な課題に主体的に対応できる。
国家資格取得
(介護福祉士)
3年目 国家試験合格を目指し、専門的知識と倫理観を養う。 専門的判断と倫理観に基づき、社会福祉学の視点を活かした介護実践ができる。
学士課程
(社会福祉学を基盤)
2〜5年目
(通信教育併用)
社会福祉学を基盤とし、心理・経営などを含む学修を通じて、介護福祉士としての実践に理論的裏づけを与える。大学教員の伴走支援のもと、キャリア面談・履修設計・学修支援を行い、学びと実践を往還する。 社会福祉学の理念を土台に、介護福祉士としての実践力と応用力を高め、組織運営・地域福祉の発展に貢献できる。

この体系は、単なる研修の積み上げや人と仕事のマッチングにとどまらず、個人が経験を通して成長を意味づけ、自らキャリアを築いていくという、いわば「キャリア構築理論」に通じる考え方を基盤とする構造である。このキャリア構築の道筋は、一人ひとりの職員の「成長の物語」として具体的に描かれる。たとえば、ある職員は高校卒業後に誠和へ入社し、1年目に介護職員初任者研修を修了し、介護の基礎的な知識と技能を身につけながら現場での実践経験を積む。2年目からは学士課程(社会福祉学)を正科生として履修開始し、同年に介護福祉士実務者研修を修了して、専門的な介護技術や医療的ケアに関する知識・実践力を高める。3年目の終盤には介護福祉士国家試験を受験し資格を取得、その後も4〜5年目にかけて学士課程の学修(福祉経営学を基盤に心理・経営も含む)を継続し、理論に基づく判断力と組織・地域を見通す視点を養いながら、現場リーダーとしての役割を担っていく。

こうした成長の軌跡は、「働きながら学ぶ」ことを前提に設計されているため、ライフステージや勤務形態に応じて学士課程開始の時期や履修ペースを調整できる柔軟なルートが可能である。介護職員初任者 → 介護福祉実務者 → 介護福祉士 → 学士(福祉経営学) というステップは、単なる制度的な階段ではなく、社会福祉学の理念を核に「頭(思考)・手(技能)・心(感性)」を統合し、専門職として成熟していくための教育的道筋である。このような体系のもとで、現場の中堅職員が研修企画に関わり、教育を“次世代を育て、共に成長していく取り組み”として捉えるようになっている。これにより、新人・中堅・ベテランがそれぞれの立場で学び合い、支え合う文化が生まれている。年度内には、介護福祉士実務者研修を自社で開講できるよう準備が進んでおり、「きららグループブランド」としての教育の内製化が現実に近づいている。教育を外部委託せず、自社の理念と一貫した形で行うことが、誠和の“共育”の特徴であり象徴でもある。教育の内製化といっても、大学との連携を軸に、現場での学びを自律的に継続できる仕組みを整えるという意味である。大学との協働を保ちながら、教育の理念を企業文化に根づかせるプロセスとしての内製化である。

Ⅳ.実践事例:介護福祉士国家試験対策

2024年度には、介護福祉士国家試験対策をモデル事業として実施した。10月から翌年1月まで、オンライン授業・オンデマンド教材・模擬試験・個別面談を組み合わせ、受講者は日本人2名、外国人2名の計4名。外国人職員2名はいずれも日本語能力は日常業務を行う上で支障はなかったものの、国家試験特有の長文設問や複合的な専門用語の読解に課題を抱えていた。講義では、文章を意味のまとまりごとに区切って読む方法を指導し、「セルフマネジメント」「インフォームド・コンセント」「自己決定支援」「日常生活自立支援事業」などの複合語や難読漢字を分解し、意味をイメージしながら理解する練習を実施した。特に東南アジア出身の職員は英語理解力が高く、日本語の医療・福祉用語については英語への置き換えを活用することで、より効果的な理解支援が可能となった。こうした支援により、設問内容の理解力が格段に向上し、自信をもって問題に取り組む姿勢が見られるようになった。単なる語彙力の強化ではなく、“読み解く力”を育成することが有効であることが確認された。

受講者は勤務と学修を両立しながら参加し、企業側も受講時間を勤務として認定するなど、勤務調整を含めた支援体制を整えた。授業は全10回構成とし、さらに模擬試験を3回、個別面談を含めると約15回におよぶ取り組みとなった。国家試験合格という具体的目標を重視しながらも、事例や倫理的な問いかけを取り入れ、“質と量のバランス”を意識した授業設計とした。学びの進捗は個別面談で確認し、授業および模試・面談は大学教員(筆者:飯野)が担当した。現場の状況を踏まえながら、一人ひとりに応じた学修支援を行ったことで、受講者の理解度と学習意欲の向上が見られた。結果、1名が国家試験に合格した。受講者からは「勉強方法が確立できた」「試験中に勉強会で学んだ内容を思い出せた」「面談で自分の弱点を把握できた」との声が聞かれ、合否を超えて学びが自己理解や成長の契機となったことがうかがえる。このプロセス全体を通して、“学び”が会社の文化として共有されていったことは大きな成果である。学ぶ姿勢は職場全体に波及し、支援する立場の管理者や教育担当者にも成長が見られた。

Ⅴ.企業理念と教育支援

誠和の経営理念は「人を大切にする経営」である。学びたいと願う社員を信じ、学びの機会を最大限に提供する。「育てて縛らない」姿勢こそが、結果として社員の定着と信頼につながっている。教育への投資は単なる費用負担ではなく、“人を信じる投資”である。学びに対して報酬的な条件を付さないことで、社員が主体的に学びに向かう土壌が育つ。教育を支える仕組みとして、経営層・教育担当者・大学教員が定期的に情報を共有し、現場の声をプログラムに反映している。これは単なる教育支援ではなく、組織内の信頼関係を育むマネジメントそのものと言える。

Ⅵ.成果と展望

Seiwa.C教育プログラムは、単なる資格取得支援にとどまらず、制度知・技術知、倫理や人間理解を実践に結びつけることを目的としている。これらは介護福祉士の専門職実践に直結する中核的な要素であり、企業がこうした学びを継続的に支援することが、長期的な専門職育成の土台となっている。このような理念に基づく取り組みは、年度ごとの実践のなかで具体的な成果として表れ始めている。

年度によって各々のプログラム進行状況は異なる。2024年度は現場の多忙や自信のなさから学士課程への志願者はいなかったが、介護職員初任者研修と介護福祉士国家試験対策が着実に進み、介護福祉士実務者研修の自社開講準備も整いつつある。講師資格の取得に向けた職員の育成が進むとともに、学則やカリキュラム、時間割など、多岐にわたる申請書類の整備も進められている。この制度設計のプロセスでは、企業と大学がそれぞれの強みを持ち寄り、役割を補い合うことで、実現可能な形に組み上げていった。特に大学教員が教育制度設計の経験を活かして伴走したことで、企業単独では難しい部分がスムーズに進んだ。このことは、産学連携の具体的な成果のひとつでもある。大学という大きな組織の中で教育観を実践することは容易ではない。しかし、誠和は、大学と挑戦の場を共有し、教育の理念を実践へとつなげてきた。その信頼と協働により、教育と理念の芽を現場に根付かせている。

キャリア構築理論における学びは、制度の中ではなく、人と人との信頼関係の中に息づく。企業と大学が互いを信じ、教育を社会に開き、現場での実践とつながるとき、そこに本当の“人材育成”が生まれる。こうした取り組みを通して、大学と企業が互いに補完し合いながら、地域福祉を支える人材育成の新たなモデルを形成しつつある。このモデルの基盤には、社会福祉学の理念と、人を信じる企業経営の姿勢がある。制度や資格取得にとどまらず、「頭・手・心」を備えた専門職が地域を支える。この連携と育成の形は、福祉分野に限らず、他分野の人材育成にも応用可能な示唆を含んでいる。

さらに、この成果の根底には、「失敗も含めて支える」姿勢がある。 国家試験に不合格となった職員に対しても、学びを途切れさせない仕組みを整え、再挑戦を支援している。その姿勢は後輩のロールモデルとなり、“学び続ける姿勢”を職場に浸透させている。企業が失敗のプロセスも含めて伴走し続けることが、この教育プログラムの大きな強みである。不合格という経験を企業・大学がともに支えることで、再挑戦への道筋が開かれる。

今後も、大学と企業が連携して教育基盤をより強化し、Seiwa.C教育プログラムの継続と発展を通じて、地域社会に根ざした人材育成のあり方を広げていきたい。

付記
著者は論文作成に関与し、最終原稿を確認した。

外国人材も参加するプログラム

プログラムは外国人材も参加し、会社全体に学び合う文化が生まれている

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