介護業界 深読み・裏読み 期待される「アフター・コロナ」への変革

介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!

人材バブルを活かせるのは
介護事業者のマネジメント力次第と理解せよ

新型コロナウイルス感染症に国をあげた対策が進められてきたが、次第に介護施設・事業所での感染、クラスター発生が報じられるようになった。実際に介護従事者や利用者が感染した場合には、施設や事業所の閉鎖などにも及びかねない。補正予算の編成、福祉医療機構による運転資金貸付など支援策が示されているが、現場からは不十分との声が強い。
利用者から感染者が出れば、原則として入院措置をとることとされている。しかし、都市部を中心に病院は満床状態。重症化リスクが高く、認知症状など特有の状態像を有することも多い利用者が、安心して受け入れを求められる場所は、現実的には限られる。

そのためやむなく当面の間、施設内でのケアを継続するケースが増加している。対応する介護従事者には大きな感染リスクが伴うことになるが、ある調査では3割以上の介護施設・事業所で衛生・防護用品が揃っていないとする結果が出ており、丸腰で感染リスクに立ち向かうことになる恐れも拭えない。厚生労働省は、感染発生時に必要な衛生・防護用品は都道府県から調達する旨の事務連絡を発出しているが、温度差や環境によって対応に格差が生まれることは否めないだろう。

アフター・コロナに訪れる不況で、他産業から介護分野に人材が流入するという観測もある。これを楽観視する向きもあるが、いささかリアリティを欠くと言わざるを得ない。まず、コロナ禍において「尊いが危険な仕事」というレッテル貼りがされつつあることは、最大の懸念材料だ。杜撰なコロナ対応が明らかになったある施設では、危機を感じた職員が大量退職したと聞く。業界団体等がこぞって求めた危険手当も、(それ自体は反対するものではないが)いざというときの物資資源の確保やノウハウの提供、法人単位での支援体制の確立などが並立せず、「いさぎよく散ってこい」が透けて見えるようでは逆効果になる。

某社会福祉法人の理事長は平然と「こんなコロナ騒ぎでも働く場所があるんだから、介護職員は私たちに感謝してほしい」と語る。そんなところに他産業からの人材参入があるだろうか。あったとしても、どの程度根付くとお考えになるだろうか。これまで介護業界という小さなコップで限られた人材を取り合ってきたが、今後は産業の枠を超えた獲得競争が始まる。あるかも知れない一過性の人材バブルをモノにするマネジメント力をもたない職場には、数年後に再び人材不足の波が襲うだろう。
また、コロナ禍で倒産する事業者は少なからず出るだろう。医療体制もかなりのダメージを受け、地域包括ケアが分断された結果、介護難民・福祉難民が生まれる可能性は否めない。サービスの早期かつ現実的な再構築が急がれる。

ある大学の卒業式で、著名なハリウッドスターが「君たちの人生は、永遠にコロナ以前として定義されることになる」とスピーチしたそうだ。コロナ禍を通じて変容した人々の思考や行動、ひいては産業構造や働き方、働くことへの意識はコロナ以前の元通りになることは決してないだろう。今後、介護施設・事業所に求められるものは、大きな変革への挑戦だ。

軸となる理念は、新型インフルエンザ等対策特別措置法において「新型インフルエンザ等が発生したときにおいても、医療の提供並びに国民生活及び国民経済の安定に寄与する業務を継続的に実施するよう努めなければならない」(第4条3)とされた登録事業者に不可欠な「社会資源としての持続可能性」だろう。事業規模は適正か。ビジネスモデルやサービス提供体制がオンタイムに課題を押さえているか。コロナ禍を通じて痛感したリスク管理の強化(強靭な感染症対策、IT・オンライン等コミュニケーションツール確保、サービスを質量ともに落とさない仕組みづくり等)。また有事に活路を見出す柔軟な組織づくりなど、学ぶべき事例が浮上している。

「利用者の生活を支える」という、介護の使命は不変だ。しかし、その矜持を貫くためには、絶え間ない変化を遂げていかなければならない。未来へのアイデアを貪欲に収集し、具現化して地域を再び創造していける事業者こそ、アフター・コロナに求められるメイン・プレイヤーになる。こんな時代だからこそ、活発なアクションを期待したい。(介護ビジョン 2020年7月号)

※本原稿は5月末時点での状況をもとにしています

あきのたかお(ジャーナリスト)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。