介護業界深読み・裏読み
来夏の参院選に向けた各団体の動向……
老施協5万票の行方は
介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!
園田氏が比例回避で代表不在の選挙に?
来夏の参院選まで1年を切った。介護業界でも、様々な動きが出てきている。
前回(2022年)の参院選では、全国老人福祉施設協議会(以下、老施協)や全国老人保健施設協会(以下、全老健)ら名だたる介護団体が一致団結して推薦した園田修光氏が、9万3,380票で落選した。蓋を開けてみれば、実質稼働していたのは母体である老施協と園田氏の地元後援会だけで、他団体がほぼ票をもっていないことが明らかになった機会でもあった。むしろ、「介護業界における票とは老施協の票である」ことが改めて確認されたと言っても過言ではない。
しかし、このとき老施協は参院選2連敗。執行部の分裂なども続き、以降もパワーダウンが顕著だ。それを憂慮してか、園田氏は今回の参院選で比例代表を回避、地元鹿児島選挙区から出馬すべく名乗りをあげ、他の候補者と公認を争っている。参院鹿児島と言えば自民党の強固な地盤であり、事実上落選はない「プラチナチケット」。同県連の森山裕会長は新政権で幹事長となり、「森山政権」と呼ばれるほどの影響力をもっているなか、懇意とされる園田氏が党本部から指名され、復活する可能性は十分にあるだろう。
しかし、園田氏が選挙区に転身することで、介護団体が一致団結して推せる「業界代表」の候補者がいなくなったことも確かだ。懸念された令和6年度介護報酬改定でのマイナス改定こそなかったが、「業界代表の議員がいればもっと良い結果だったはず」(都内の特別養護老人ホーム施設長)というのは多くに共通する見方だろう。その点から、各団体が誰を推すのかについて注目が集まっている。
候補者推薦に向けた各団体の動きは
介護老人保健施設を母体とする全老健は、当然ながら今回は日本医師会(以下、日医)の組織内候補・釜范敏氏を推すとされている。釜范氏は日医の常任理事として、政府の新型コロナウイルス感染症対策の分科会委員を務めたことなどで知られている。全老健の東憲太郎会長は、前述の園田氏への団結支援を発起した経緯から、その後もことあるごとに他団体を従え、共同調査や要望活動等を牽引している、いわば介護業界の盟主。今回も「介護は釜萢で一本化」の功をもって日医へ恩を売りたいと躍起になっているという。というのも、前回参院選では同じく日医から出馬していた自見英子参議員の周辺から強いクレームがあったとされており、東会長にとっても挽回の機会にせねばならないのだろう。
一方で、かねてから障害福祉分野を中心に影響力をもってきた衛藤晟一参議員を支援してきた全国社会福祉法人経営者協議会(以下、経営協)は、衛藤氏の政界引退を受け、後継として和田政宗参議員を支援するとされている。関連の議員連盟のメンバーから衛藤氏が指名したと聞くが、経歴を見ても、和田氏がこれまで介護業界に特段の尽力をした形跡はない。しかし、和田氏はそれなりに選挙に強く、落選はないという見込みから、経営協の磯彰格会長周辺から他団体へ、勝ち馬に乗るべしと支援を呼びかけているという。
ほかにも参院議長を務めた山東昭子参議員や、看護協会の石田昌宏参議員を推す団体も確認されており、今回は一致団結ということにはならなさそうだ。
組織票を取り込めるかが勝負の分かれ目
そんななかで、注目を集めているのが老施協の動向だ。いまのところ、支援先を明らかにはしていないが、全老健(釜萢氏)と経営協(和田氏)から協力要請を受けていると言われている。ここにはそれぞれの団体のわかりやすい目論見があるのだが、例えば全老健では、前回の園田選挙で旗振り役であったにもかかわらず、東会長のお膝元である三重県では2,000票にも届かなかったこと、さらに前々回では全老健の組織内候補として出馬した山本左近氏を惨敗させた経緯から、「おそらく老健には全国で1万票程度しかない」と噂されている。
一方で経営協も、支援する国会議員の陣営から「何度か集会をしてくれるだけ。本気で選挙をしたことがない」とため息をつかれており、全老健とそう変わらないだろう。
老施協は、いまでも少なくとも5万票は確実に出せる組織だ。これを陣営に引き込めば、老施協票を自分の名前で候補者に提供することができ、大手柄になる。「1万票が5万票を利用する」というのは非常に滑稽ではあるが、負けが込んで選挙に自信を失くしている老施協にしてみれば、苦労が少ないだけ「悪くない」と考えるかもしれない。
こうした歪な現状は、ひとえに衆目の一致する「介護業界を背負って立つ代表」が存在しないことによるのかもしれない。時間的猶予がないなか、突如としてスターが現れるシナリオは考えにくいが、少なくとも数回の選挙を経て、そうした存在を育てていくことも、介護業界に必要なことなのではないだろうか。参院選まで、残すところ7~8ヵ月。経過をしっかりと見届けたい。(『地域介護経営 介護ビジョン』2024年12月号)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。