制度と経営に強くなる!
利用者に淘汰されていく通所サービス
“ありきたり”では生き残れない時代に

介護事業所のリーダーが、今、知っておくべき知識を、業界に精通したC-MASのプロフェッショナルが伝授

差別化するポイントは「提供しない」ものを考える

通所介護事業(以下、デイ)の数は大小合わせて4万以上。利用者は約1,500万人です※1。つまり、ディ1事業につき約390人が利用していることになります。
これが多い数字なのか、まだ少ないのか。いずれにせよ現時点では、地域によっては「デイの飽和状態」で、勝ち組と負け組がはっきりと分かれているようです。今回の報酬改定では基本報酬は微増ではあったものの、この状態では経営スキルはより高度なものを求められ、「新規」参入の障壁は高くなったと思われます。

では、これから参入する場合は何を売りにすれば良いのでしょうか?その答えは「『何をしないのか?』を考える」ことにつながります。
たとえば、ドッグセラピーや園芸療法を売りにしているデイがあります。それ自体にリハビリ機能を上げる効果はあるのですが、体験利用した人が「こんな犬や園芸でなく、もっと本格的な機能訓練をやりたい」と希望するのであれば、経営者は「どうぞ他のデイに行ってもらっても結構」と強気な態度で出るそうです。それで他のリハビリデイを探しても、これもまた似たり寄ったりで同じようなプログラムが増えてきているため、有象無象にあるデイの中から自分に合ったデイを探すのは、大変だと予想できます。
また、せっかく選んだデイでもちょっと「嫌な人がいる」だけでリハビリをやっている場合ではなくなってしまい、「もう辞めた!」という人が急増して稼働率が一気に下がってしまうこともあるかもしれません。
その一方で、男女を分けるつもりはないのですが、ゴルフや麻雀、ゲーム、カラオケに特化して男性を惹きつけているデイがあります。そこでも「うちはありきたりのリハビリプログラムではない」と、やはり強気です。さらに、事業所のスペースに余裕があれば、たとえばラーメンチェーン店「一蘭」のような個室を設けると、男性のニーズに垂涎すいぜんのサービスになるかもしれません。

また、認知症はあるけれど身体はまだ衰えていないという人は、いっそのこと「デイでの雇用」も検討する価値があるかもしれません。「自立支援の可能性の提案」として、管轄行政へ働くことに承諾を得て、働いてもらうというのもいいでしょう。実際、筆者の事業では昨年4月に利用者を職員として採用しています。もう「集団で何かをやらなければならない」という強制型のデイは、昭和100年以降ではあり得ないかもしれません。

方向転換の鍵は“ライドシェア”にあり

今回の報酬改定事項のなかで機能訓練加算、入浴加算の研修必、虐待防止、BCP、LIFE、処遇改善等の改定が見られましたが、私はそのなかで「通所送迎に係る取扱いの明確化」に注目しています。
これは、複数事業所の共同送迎を認めるというものです。介護職やドライバーの確保が難しくなっているなかで、介護も運転も両方上手な人材を確保するのは難しい現状にあります。また、専門的な技術は専門家に任せたほうが事故も起きにくいですし、より効率的で利便性の高い仕組みをつくれる環境の整備が重要となります。
さらに、厚労省は「障害福祉サービス利用者の同乗も可能」と、一気に制度を緩和させる動きになりました※2。具体的な例として、群馬県で取り組まれている「福祉ムーバー」があります。その構想が始まったのは5年前。その頃はまだ触れてはいけないような、アンタッチャブルな制度への挑戦であったはずです。私も3年ほど前に大阪公立大学の修士論文の取材として、京都府京丹後町でライドシェア実装体験をしましたが、「行きは使えるが帰りは法律違反」だとかで、まだ複雑な制約にがチガチに縛られていました。それが政権が変わり、介護福祉に限らずライドシェアの必要性が全国的に議論されて緩和され、令和6年度の報酬改定では、前述のように明記されるという運びになりました。これは、デイのこれまでの“囚われたイメージ”を壊して「送迎の保険外サービス」に挑戦するチャンスではないでしょうか。

ITのうまい活用が今後もっと求められる

前述のライドシェアもスマホ等のITを活用した新ビジネスに適用されますが、人手不足を解消する手段として、「カイテク」というアプリがあります。これは、介護資格保有者がスキマ時間に働く単発バイトアプリです。
カイテクはライドシェアに比べると規制がそれほど縛られていないので、ここ3年で一気に広がっています。働く側にとっても、1日単位の仕事を最短5分で見つけられるだけでなく、面接・履歴書等が不要というメリットがあります。すでに27万人以上の介護福祉士など介護の有資格者が登録しているとのことです。
実は、当社でも人材の30%はこのアプリによる働き方です。もし、これがなかったらと思うとゾッとします。なぜなら、職員の急な休みを補てんするのは経営者である私だからです。あー、よかった。今の時代に経営ができて。読者の皆様も、自分がまだ知らないITを模索して活用し、ストレスフリーなデイの経営をめざしましょう。(『地域介護経営 介護ビジョン』2024年11月号)


※1:令和4年度介護給付費等実態統計の概況(厚生労働省)
※2:介護保険最新情報Vol.1225の問66、67

西村栄一
C-MAS専門スペシャリスト
にしむら・えいいち●全国の介護事業向け、行政向けに運営指導対策、ISO9001審查、BCP等リスク対策支援。運営指導専門コンサルティング特化15年で1,050事業所以上。ヘルプズ&カンパニー代表。熊本済々黌高校、早稲田大学卒業、大阪公立大学院修論「地域包括ケアシステムと地域ケア会議」上梓。混合介護導入運営実践事例集(日総研出版)等著書多数、国立情報学研究所Ciniiに6作収納、専門誌コラム連載中
株式会社ヘルプズ・アンド・カンパニー
●大阪府大阪市港区築港 3-3-1-511 TEL:06-7173-2055
URL:helpz.jp/
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