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「介護事業経営概況調査結果」から
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財務諸表の公表制度概要を探る

厚生労働省は、2040年を見据えた制度の持続可能性などに的確に対応するため、介護事業経営実態調査を補完する目的で介護サービス事業者における財務諸表の公表制度を創設しました。
定期的に実施される報酬改定において、中小零細の介護サービス事業者の実態を考慮した改定となっていないという指摘が多く挙げられていました。これは特定の、特に大手の事業者の統計をもとに改定を行っているからという問題があり、これを是正すべく基本的にすべての介護サービス事業者から情報を吸い上げ、適正な報酬改定につなげていく狙いがあります。
この制度は、すでに2024年4月1日に施行されているものの、公表システム開発の構築に時間がかかっていることから全貌がまだ見えず、介護事業者の中では不安だけが募っている状況です。そこで今回は、この財務諸表の公表制度についてポイントをまとめていきたいと思います。

財務諸表の公表制度は原則、すべての介護サービス事業者が報告対象です。ただし、小規模事業者等に配慮する観点から、「過去1年間の介護サービスの対価が100万円以下の事業者」または「災害その他報告を行うことができないことにつき正当な理由がある事業者」は、報告対象から除外されます。
報告期限は毎会計年度終了後3力月以内となりますが、初年度に限り2024年度内の提出で可とするようです。また報告手段としては、社会福祉法人等で活用されているようなシステムが開発されていると想像しますが、実際のシステムの施行は今年秋頃、開始は今年冬頃を見込んでいるようです。

報告する内容は“事業ごと”の会計

報告を求められるのは「事業所・施設の収益および費用の内容」ですので、まず貸借対照表は報告対象となりません。
報告の対象となるのは収益及び費用の内容を示す損益計算書になりますが、注意が必要なのは対象が法人全体ではなく、“事業所・施設の収益および費用”となっていることです。つまり、複数の事業を行っている介護サービス事業者であれば、「部門別会計」を実施することが求められているということです。
さらに、この部門別会計が求められるのは今回の財務諸表の公表制度から始まるものではなく、もともと厚生労働省令で求められているということをご存じでしょうか?厚生労働省令27号第38条に「指定訪問介護事業者は、指定訪問介護事業所ごとに経理を区分するとともに、指定訪問介護の事業の会計とその他の事業の会計を区分しなければならない」とあります。ここでは訪問介護事業所と記載されていますが、すべての介護サービスに準用されます。つまり、厚生労働省令では介護サービス事業と他の事業の会計を区分することと同時に、介護サービス事業のなかでも事業ごとに会計を区分することを求めています。適正な会計の区分を行っていない場合、運営基準違反として指導対象となります。最悪の場合、指定取り消しもあり得ます。

会計区分の方法と問題点とは

厚労省では、運営基準を満たすための会計区分の処理方法として次の4つを例示しています。それが、①会計単位分割方式、②本支店会計方式、③部門補助科目方式、④区分表方式――です。①②が損益計算書と合わせて貸借対照表まで区分する方法で厳密な管理ができる一方、区分する手間がかかります。③④は損益計算書のみを区分する方法で、その簡便さから多くの介護サービス事業者が利用している方法です。

また、会計を区分するにあたり「共通費の配賦」という問題があります。共通費とは、管理部門の人件費や複数のサービスが入っている施設の水道光熱費など、1つの事業や施設に直接配布することができない費用です。
この共通費は適切な配賦基準により配賦することが求められており、厚労省でも延べ利用者数割合や各事業別収入割合、床面積割合など複数の例示を示していますが、多くの事業者では事業別収入割合を適用しているところが多いです。実態と大きく乖離しない限り、一番簡便的であることからも事業別収入割合が適切と考えられます。なお、この配賦処理ですが会計ソフトなどを活用すれば、一括して簡単に計算してくれますので、時間をかけずに効率的に処理していただければと思います。

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前述した部門別会計や共有費の配賦というものは、厚労省から一定の基準は示されているものの、本来は会社内部の管理や戦略のために、自由に設計することが可能な「管理会計」と呼ばれるものです。どのような単位で区分していくか、共通費をどのような基準で配賦するか、または配賦しないか、なども踏まえて経営者の判断で設計できるのもこの管理会計の特徴です。
たとえば、部門別に会計を区分した場合、法人全体では利益が出ているが部門ごとに見てみると赤字の部門があった場合、その部門の立て直し、または撤退を検討する情報を提供してくれます。

いずれにしても重要なことは、制度に合わせるために部門別会計を導入するのではなく、サービスごとにどのような経営成績になっているかを把握することです。そして、必要に応じて選択と集中戦略へとつなげていけるような仕組みとして活用していただくことだと思います。(『地域介護経営 介護ビジョン』2024年8月号)

横溝大門
C-MAS東京国分寺支部
アシタエ税理士法人代表
よこみぞ・だいもん●公認会計士。「税理士。50先を超える介護事業者の支援に力を入れている。中小企業の事業を飛躍させる仕組みづくりに特化した「となりのブレイン」を展開し、顧問税理士の枠を飛び越えた中小企業の統合型支援の仕組みづくりを模索している。自らも「結いごと」「となりのブレイン」と多くの事業を起業しており、公認会計士・税理士でありながら経営者として、経営の仕組みについての提案力に定評がある
アシタエ税理士法人
●東京都国分寺市本町2-12-2 大樹生命国分寺ビル7F TEL:042-321-9583
URL:ashitae-tax.jp/
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