介護業界深読み・裏読み
財務省色の強い骨太方針に
介護業界は「常在戦場」の構えを

介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!

今年の方針は現政権カラーが全面に

今年も、「経済財政運営と改革の基本方針(以下、骨太方針)」の策定に向けた議論が進められている。本稿執筆時点ではまもなく最終案が了承され、閣議決定へ進む直前。各分野の族議員・団体等が盛り上がりを見せている。介護分野では6月6日に全国介護事業者連盟や介護人材政策研究会などが中心となり、5団体連名で与党のとりまとめ役である自民党の渡海紀三朗政務調査会長へ要望書が提出されている。物価高や「電気・ガス価格激変緩和対策事業」終了の影響等を踏まえ、必要な支援の継続を求めるとともに、深刻な介護人材課題に対する施策の充実を訴えており、関係者によれば、公定価格で運営する介護分野への支援について、政調会長からも理解を示すコメントがあったという。

同様のアクションが各分野で繰り広げられた結果、骨太方針本文の案が示されたのは6月11日の経済財政諮問会議だった。「30年間上がらなかった賃金や物価が動き出し、企業の成長期待や投資の見通しも高まっている」という自己評価のもと「長期にわたり染み付いた『デフレ心理』を払しょくし、社会全体に、賃金と物価が上がることは当たり前であるという意識を定着させ、デフレからの完全脱却、そして、経済の新たなステージへの移行へとつなげていく」としたのは、いかにも財務省がリードする現政権らしい書きぶりだ。

社会保障分野についても、その色合いは強い。大看板としては「全世代型社会保障制度の構築を進める」ことがめざされているが、念のために厚生労働省のホームページで調べていただくと、お年寄りに加え、子供たち、子育て世代、さらには現役世代まで広く安心を支えていくために「少子化対策を大きく前に進めます」「現役世代の負担上昇抑制が課題です」とある。そのために医療や介護等、他分野における改革をもって財源を見出す方向性がとられていることも、当欄の読者各位ならご存知のはずで、今回の骨太方針も、言ってみればその角度を高めていこうという中身になっている。

具体的には、各分野横断的に「賃上げ支援を強力に推進する」なかで、「医療・福祉分野における賃上げを着実に推進する」としつつ「賃上げの状況等について実態を把握しつつ、賃上げに向けた要請を継続する」と記載、「ちゃんとできているか確認するぞ」と言わんばかりだ。政府が重点的に取り組みを進める医療・介護DXを「確実かつ着実に推進する」としたり、認知症施策推進基本計画の策定を通じた認知症施策の推進、技能実習制度等の見直しにより創設される「育成就労制度」について「必要な体制整備、受入れ見込数・対象分野の設定、管理支援機関等の要件厳格化に関する方針の具体化等を行う」こと、タスクシフト/シェアの推進等を通じて多様な政策を連携させること等は粛々と進めていただければ良いが、「主要分野ごとの基本方針と重要課題」として「医療・介護等の不断の改革により、ワイズスペンディングを徹底」と書き込んだあたりは、むしろ厳しい目線の方が強い本音を隠してもいない様子が伺える。

改革案の列挙は財務省の決意の表れ!?

また、財務省のめざす改革案についても、今回はずいぶん丁寧に書き込まれている。▽介護事業者のテクノロジーの活用や協働化・大規模化、経営の見える化を推進した上で処遇改善や業務負担軽減・職場環境改善を行うこと、▽介護保険外サービスの利用促進等が明記されたばかりでなく、▽利用者負担が2割となる「一定以上所得」の判断基準見直しや、▽ケアマネジメントに関する給付の在り方、▽軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方について、第10期介護保険事業計画期間の開始前までに結論を得る旨が改めて宣言されている。その他にもいわゆる高齢者向け住宅における「囲い込み」の問題や、不適切な有料人材紹介事業者への規制強化などについて実効性ある対策を講じることが触れられており、例年にないほど財政制度等審議会の「建議」における提言がそのまま載せられている。報酬改定が終わったばかりのタイミングでマイナス改定など直接的な書き方がされないことから、幾分機械的に見えるせいかそれほど危機感をもちにくいかもしれないが、介護分野にはリップサービスさえないようなものであることは確かと言えるのではないだろうか。

さて、報酬改定の翌年度に、永田町から必ず聞こえてくる声があるのでご紹介したい。それは「改定のときだけ“くれくれ”とねだりに来て、その後は顔も見ない」というものだ。口の悪い関係者が、報酬改定に係る団体の要望活動を「3年ごとのお祭り」と揶揄することがあるが、事実として今回の骨太方針に係るアクションも前述の5団体によるものが目立った程度で、他からはほぼ音沙汰がなかった。これでは真剣に取り合われるはずもない。古くから説かれてきた「常在戦場」の心構えがまだまだ浸透していない介護業界に、改めて警鐘を鳴らしたい。(『地域介護経営 介護ビジョン』2024年8月号)

あきのたかお(ジャーナリスト)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。

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