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BCP未策定による減算
要件や単位数を振り返り

介護事業所のリーダーが、今、知っておくべき知識を、業界に精通したC-MASのプロフェッショナルが伝授

策定していても「減算」の対象になることも

業務継続計画(以下、BCP)は2024年4月から義務化され運営基準です。2024年度介護報酬改定において、「業務継続計画未実施減算」が創設されました。介護施設と居住系は3%、それ以外は1%の減算となります。訪問系サービスと居宅介護支援は2025年4月からの適用となり、それ以外のサービスにおいても、感染症指針と災害対策計画が策定されていても措置を講じていなければ、同様の扱いになります。

問題点は、減算は算定要件であり、策定が運営基準で義務化されていること。運営指導において業務継続計画未策定が発覚した場合は、運営基準違反になります。運営指導の対象になり、従わなければ指定取り消しなどの行政処分になります。運営基準確認項目には感染症BCPと自然災害BCPどちらも策定および必要な措置を講じ、従業者に対する周知、研修および訓練の実施、計画の見直し、とあります。

厚生労働省の資料によると、介護サービス事業所の感染症BCPは「策定完了」が29.3%、「策定中」が54.9%、「未策定(未着手)」が15.6%。自然災害BCPは、「策定完了」26.8%、「策定中」54.9%、「未策定(未着手)」17.1%であったとされています。まだまだ策定中が大部分を占めているのが実情のようです。
介護施設と居住系はすでに2024年から義務化されたため、まだ未着手であれば早急に策定が必須です。訪問系サービスと居宅介護支援は2025年4月からの適用ですが、こちらも早々に着手するべきです。現在策定中、またはこれから策定するにあたり陥りがちなのが、厚労省のひな型の項目を見て「全て埋めなくてはならない」と思い込んでしまうこと。まず、ひな型は必要なところだけを使えば良いのです。

※厚生労働省社会保障審議会介護給付費分科会「介護サービス事業者における業務継続に向けた取組状況の把握及びICTの活用状況に関する調査研究事業(速報値)」より

「最悪の事態」を見据え「実用性」がある計画を

BCP策定には、「命を守る」「万が一のとき、利用者を守り職員を守る」、そしてその先には「事業の縮小、廃業、倒産をさせない」「業務をいち早く回復させる」という意義があります。万が一災害や感染が起こった最悪の事態を想定して策定し、一早い回復のために頭で考えてつくるものです。実際に研修、訓練をすると、想像とのギャップの大きさに気づかされるでしょう。そのために、研修、訓練、見直しまでが義務化されているのです。
研修訓練に参加した職員の感想を聞き、何が問題なのか、何が必要なのか、皆で検討していくことが必要です。実用性が重要なので、管理者が作成して机の中にしまい、いざという時になっても機能しないBCPでは意味がありません。

厚労省のひな型を見ると、後半は地域との連携や共同訓練などのテーマが出てくるため、一気にハードルが上がります。今すぐの検討が難しいときは後日検討、または「何年何月までに検討」などとしても問題ありません。また、居宅サービスに必要のない項目があった場合、削除しても良いのです。全てを埋める必要はありません。

研修、訓練は実施だけでなく「見直し」までがセット

定着には研修、訓練が必要不可欠になります。しかし、職員全員参加での研修、訓練が無理な場合は複数回に分けて対応するのか。それは現実的ではありません。対策として研修、訓練はビデオに撮るなど、後から参加できなかった職員が確認できるようにしてください。さらに、研修、訓練で気になる点や問題点を職員からアンケート方式などで提出してもらい、皆で対策を検討し、さらにBCPの見直しをしてください。

自然災害のBCPなら、まずは地域のハザードマップを見て、最悪の災害を想定し策定していく。それによって、自分たちの置かれている環境に気づき、危機感が生まれるはずです。さらに、自宅はどうなのか、通勤は可能なのかと、一人ひとりの意識が高まります。
感染症のBCPは、新型コロナウイルスの初期のことを思い出してください。今では5類になりましたが、新種のウイルスは10年サイクルで発生すると言われています。新しいウイルスに感染すれば2週間の自宅待機、または濃厚接触者としての隔離が想定できます。自然災害、感染どちらも最悪の被害を想定し、最悪の場合は最低限の出勤率でどう対応していくかを検討し、BCPを策定してください。策定後は研修、訓練して振り返り、バージョンアップする。ここが定着のメインになります。

BCP策定には「平時」の想定が肝要

ひな型の後半にはメンタルケアも出てきます。「惨事ストレス」と言い、非常時のストレスは早い段階で対応しないと、心身に大きな影響を及ぼします。そのために、平時のストレスケアができていないと「非常時のストレスケアは無理」と捉えるべきです。これはBCPも同じで、平時にどれだけの想定をし、対策を考え新たな対処法を見つけられるかで実用性のあるBCPができ、定着につながるのです。実際にはなかなか策定、研修、訓練の取り組みが難しいこともあるかもしれません。その場合は、他の事業所と共有し補完するのもありです。または経験豊富な専門家にアドバイスをもらうのも有益でしょう。

今後は感染ウイルスも進化し、災害のハザードマップも常に見直されます。そうなると、BCPの見直しは永遠に続きます。まずはできるところから策定し、研修、訓練からの見直しで、定着につなげるべきです。(『地域介護経営 介護ビジョン』2024年7月号)

小林香織
C-MASプロフェッショナル顧問
こばやし・かおり●株式会社ベストワン代表取締役、一般社団法人コグニティブ・サポート代表理事。全国の介護保険施設、障害福祉施設にてBCP作成コンサルティングを手がけ、最大拠点120カ所を有する医療介護法人のBCP作成実績は稀有。セミナー講師としても活躍しており、BCP講座、感染症対策などをテーマに、介護施設の個別研修、個別指導を手がける。著書は「これならわかる(スッキリ図解〉介護BCP(業務継続計画)」「コロナ時代の介護事業戦略」(以上、翔泳社)
株式会社ベストワン
●埼玉県草加市花栗4丁目16-38-101 URL:bestone-fun.com
◆介護事業に特化した経営・税務の専門家集団

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