介護業界深読み・裏読み
骨太方針の策定に向けて
財務省の苦心が見える

介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!

今回も経済の成長と社会保障費抑制が狙い

介護報酬改定が施行されてようやくひと息というところだが、早速4月2日に開催された政府の経済財政諮問会議で、「経済・財政一体改革の点検・検証と中長期政策の方向性」について審議された。当日、「中長期的に持続可能な経済社会の検討に向けて②」として示された資料はいかにも財務省作というムードで、5月に予定される財政制度等審議会(財政審)の「春の建議」、そしてそれを土台にした「経済財政運営と改革の基本方針」(俗にいう「骨太の方針」)の2024年版の策定に向けた下準備という感がありありと出ている。
中身を見ると、「少子高齢化や人口減少を克服し、豊かさと幸せを実感できる経済社会の実現に向けて、日本経済の新たなステージへの移行を検討するに当たっては、将来の経済・財政・社会保障に関する定量的な展望を踏まえることが重要」とし、目下の経済前提を踏まえて、2034~2060年度を対象として「マクロの経済・財政・社会保障の姿を試算した」としている。

「社会保障(医療・介護)の姿」については、「医療・介護の伸びは、自然体では経済の伸びを上回る見込み」「医療費について、高齢化や人口要因による伸びは、今後、縮小傾向となる一方、医療の高度化等のその他要因による伸び(現状では年率1%程度)は、高額医療へのシフト等により、更に高まる可能性も」「介護費については、高齢化等の要因により、一貫して増加」などの問題意識を示した上で、「給付と負担の改革」の必要性を指摘。試算の上では「経済の伸びを上回って給付が増加する医療・介護については、毎年の医療の高度化等のその他要因による増加を相殺する改革効果を実現できれば、長期安定シナリオの下で、制度の長期的安定性の確保が見通せる結果」となったとし、「そのためには、DX活用等による給付の適正化・効率化、地域の実情に応じた医療・介護提供体制の構築、応能負担の徹底を通じた現役・高齢世代にわたる給付・負担構造の見直し等、様々な努力の積み重ねが必要」としている。

あれこれ書かれているので幾分わかりにくいのだが、簡単に言うと、経済前提を一定以上の成長シナリオにもっていく努力(生産性、労働参加、出生率)は行った上で、社会保障については人口動態上やむを得ないもの(高齢化等要因)以外の「高度化」による部分は可能な限りカットし、効率化等を図りながら給付費を削減することにより保険料負担・公費負担を抑えたい、ということらしい。

課題だらけの財政に財務省も姿勢が変化?

この考え方自体は、往年の財務省的思考と言える。ただ少しスタンスが変わったと感じるのは、これまでのお仕置き的な書きぶりではなく、「うまく改革できれば制度の持続性が保たれるから、そこをめざしてがんばりましょう」という、前向きとでも言うべき姿勢だ。実は今回の介護報酬改定もこれに関係していて、例えば毎回触れている訪問介護のマイナス改定についても、単にダブついているからカットしましょうというような性格ではなく、様々なことを一体的に考慮しなければならなかったことの一環だという。

代表的なものでは、政府肝いりの「こども未来戦略」。この財源確保のため財務省は歳出改革による公費節減を掲げ、色々なやりくりをして2023年度は0.18兆円、2024年度は0.19兆円捻出したというのはあまり知られていない話で、しかも政府はこども・子育て政策の予算は将来的に倍増させようと言っている。かつ、保険料負担の問題、大阪市では介護保険料が9,249円にもなったとメディアが取り上げていたが、全国平均でもとうに6,000円を超えているなかで、社会保障費の伸びを抑制するためには一定程度報酬削減による効果も稼働させていかなければならないところ、診療報酬も介護報酬もプラスになってしまった。ただ、その大半を占める賃上げについては、介護分野においても必要であることは財務省だってわかっている。何とか利用者負担(2割負担)の範囲について拡大させたかったがそれもダメ。医療と違って介護は「診れば良くなる」という性格ではないことがわかっているので、強行はできない。そうなれば、せめて収支差率に忠実にメリハリぐらいはつけさせてよという気持ちはわからなくもないし、そんな背景を踏まえて、今回「議論の向きを「めざすべきもの」に置き換えて、制度の持続性に関する危機感を共有したかったのかもと思うと、気の毒にも思えてくる。

財政審での社会保障に関する提言は、4月中にも下案が出て、前述の「建議」でまとまる。それが骨太の方針にどの程度、どういうかたちで反映され、令和7年度予算編成(例えば8月の概算要求)に向けて含みをもたせられるかというのは、報酬改定議論のない今年でも、やはり将来を占う重要なものであることは言うまでもない。読者各位におかれてはぜひ、4月以降の議論に注目しつつ、これからを俯瞰していただきたい。(『地域介護経営 介護ビジョン』2024年6月号)

あきのたかお(ジャーナリスト)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。

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