介護業界深読み・裏読み
【過去News】骨太の方針2023の「霞が関文学」に読む
次期改定への難路(2023年6月)

介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!

今年の骨太方針はこれまでと様子が違う

政府は6月16日、「経済財政運営と改革の基本方針2023」を閣議決定した。これは俗に「骨太の方針」といい、次年度予算をどのような方向性で組み立てていくのかを示唆する。当然今年は、来春に控える2024年度介護報酬改定も視野に入れたものになる。

コロナ禍にあったこの3年、「骨太の方針」が果たす役割はそう大きなものではなかった。安倍~菅政権では財務省が主導する今と違い、経済産業省がブレインだったこともあって介護への切り込みは強くなかったし、コロナ禍においてはむしろ財政出動を盛んに打ち出して政権維持を図る向きが続いたことから、当欄でも「骨抜きの方針」などと揶揄される様をお伝えした記憶がある。
しかし今回は打って変わって、財務省の矜持とも言うべき書きぶりが散見される。もちろん解散総選挙が近いと言われたなか政権への配慮もあり、2015年度の介護報酬改定時(△2.27%)のような極端な引き下げ姿勢が見られるわけではないが、それでも久々に読み甲斐のある「霞が関文学」が展開されている。

まず、改定に関する部分を見てみよう。「次期(略)改定においては、物価高騰・賃金上昇、経営の状況、支え手が減少する中での人材確保の必要性、患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ、患者・利用者が必要なサービスが受けられるよう、必要な対応を行う」とある。まずは、この一文に「物価高騰・賃金上昇」を踏まえる旨が明記されたことは大いに歓迎したい。かねてから日本医師会や多くの介護関係団体、そして「介護福祉議員連盟」をはじめとする国会議員筋からも、コスト増をサービス価格に転嫁できない介護報酬への対応が強く求められてきたところ、一定の成果をあげたと言える。ただ、同文中に「利用者負担・保険料負担への影響」も踏まえるようわざわざ書き込んで、安易なプラス改定へ流れないよう釘を刺したのは、明らかに財務省の仕業だろう。その意味ではむしろ、それに続く「その際、第5章2における『2024年度予算編成に向けた考え方』を踏まえつつ、持続可能な社会保障制度の構築に向けて(略)効果的・効率的に対応する観点から検討を行う」という一文の方が、さらに意味深だ。ここにある「2024年度予算編成に向けた考え方」では「2024年度予算において、本方針、骨太方針2022および骨太方針2021に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進する」と記載されており、すなわち「財政健全化目標の堅持」と「歳出改革の努力の継続」を指すとされている。財布の紐を締め、利用者および保険料負担へ響くことを懸念しつつ、「大したものは出せません」と言わんばかりだ。

読めない政府の動き
介護業界への影響は

先月の当欄で、全国老人保健施設協会以下複数の介護団体が、田村憲久元厚労相の手引きで岸田文雄首相へ賃上げ財源の直談判を行ったことに触れたが、一説では財務省はそのことに相当な不満をもっているそうだ。団体が首相へ要望するというのは「最後の切り札」であり、やるなら秋ごろ、改定議論も大詰めの時期にやるのが普通で、言ってみれば「今やる意味がほとんどない」(社会部記者)パフォーマンスを、議論もなく投げ込んできたことに「幹部はかなり怒っている」(同記者)という。岸田首相が打ち上げた「異次元の少子化対策」の財源について、通常なら消費税で対応すべきところ、選挙を前に政権としてそれを回避する(新たな税負担は考えない)という方向性が示されたとき、「ならば医療や介護の歳出削減で」(歳出改革等によって得られる公費の節減等の効果および社会保険負担軽減の効果を活用)とカウンターを出されたのも、その反動だと言われている。件の首相詣に関してある介護団体幹部は「失敗だった。今年はもうダメ(マイナス)かもしれない」と弱気だと聞く。

一方で、岸田政権への支持率はまたしても下落を始めており、同じく6月16日と噂された衆議院解散も見送られた。それを踏まえていたかのように、骨太の方針でも「異次元の少子化対策」財源の出所(社会全体でどう支えるかさらに検討)や、昨年末からもち越しとなっていた利用者負担の見直しについても「介護保険料の上昇を抑えるため、利用者負担の一定以上所得の範囲の取扱いなどについて検討を行い、年末までに結論を得る」として先送りになった。「こうなると秋の臨時国会しかない」(同記者)とされる衆院解散を経て、そうした負担や歳出削減、そして改定がどのような変遷を辿るのか、極めて不透明と言わざるを得ないが、なんにせよ選挙の後になれば票(選挙支援)という人質がなくなるわけで、政権としてはやりたい放題だ。必ずしも介護業界にとって良いリズムになっているとは言えない現状をしっかりと踏まえつつ、今後の展開を見守りたい。(『地域介護経営 介護ビジョン』2023年8月号)

あきのたかお(ジャーナリスト)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。

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