介護業界深読み・裏読み
2024年度報酬改定議論は
業界側の能動的なコミットが重要だ

介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!

収支差率は減少し給与費の割合は増加

厚生労働省は2月1日、社会保障審議会介護給付費分科会介護事業経営調査委員会を開催し、「令和4年度介護事業経営概況調査」(以下、概況調査)の結果を公表した。

当日提出された資料では、「各サービス施設・事業所の経営状況を把握し、次期介護保険制度の改正及び介護報酬の改定に必要な基礎資料を得る」ことを目的に、1万6,830施設・事業所に対して2020年度決算および2021年度決算を調査し、そのうち8,123施設・事業所から有効な回答を得たとしている(有効回答率:48.3%)。それによると2021年度決算収支差率(税引き前、コロナ補助金含む。以下記載する%はすべて同様)は全サービス平均で3.0%となり、対2020年度決算では0.9ポイントの減。各サービスにおける収支差率では、▽介護老人福祉施設が△0.3ポイント(1.6%→1.3%)、▽介護老人保健施設が△0.9ポイント(2.8%→1.9%)、▽通所介護で△2.8ポイン卜(3.8%→1.0%)、▽グループホームでは△0.9ポイント(5.8%→4.9%)――となるなど、濃淡はあれどそれぞれに減少傾向が見られる。

一方で、福祉用具貸与(+1.9ポイント(1.5%→3.4%))や居宅介護支援(+1.5ポイント(2.5%→4.0%))、小規模多機能型居宅介護(+0.6ポイント(4.1%4.7%))などは増収となっているが、厚労省担当者それらの要因に係る詳細な分析は「これから」としている。

同時に同調査においては、各介護サービスの給与費割合についても報告があり、たとえば介護老人福祉施設で+0.3ポイント(63.9%→64.2%)、通所介護で1.7ポイント(63.0%→64.7%)となるなど、ほとんどのサービス種別で収入に対する給与費の割合が上昇している結果となった。

総括するとすれば、一部を除き2021年度介護報酬改定でのプラス改定や、コロナ関連の補助金分を上回る減収あるいはコスト増の傾向が明らかになったということができるだろう。特にコロナ禍で利用控えやサービス休止など直撃を受けた在宅サービスでは非常に大きな影響が出ていることがわかる。

課題を解決するには業界側の姿勢も肝要

さて、これまでも繰り返し書いてきたとおり、今年は2024年度介護報酬改定に向けた審議が行われる1年である。介護報酬に関しては、介護保険法において「サービス等に要する平均的な費用の額を勘案して厚生労働大臣が定める基準により算定した費用の額」と記載されていることから、その改定にあたっては各サービスの収支差率が参考とされることになるが、概況調査が直接の材料になることはなく、改定前年度に行われる「介護事業経営実態調査」(実態調査)が目安となる。改定率が決定されるのは年末頃だが、それに先駆けて10月頃に公表される実態調査の結果が大きく方向性を左右することになるのが通例だ。

ただ、自然に受け止めれば、今回の概況調査で明らかになった厳しい経営状況に、昨今の物価・光熱水費等の高騰による影響がさらに乗ってくることが予想され、2015年度改定(△2.27%)のように、実態調査の結果をもって極端な誘導がされる可能性は低いと考えて良いだろう。そのうえで、今回の改定議論で懸念しておかなければならないこととしては、やはり生産性向上の推進やそれに伴う人員配置基準の見直し、処遇改善関連加算の統合等に伴う調整のあり方が考えられる。それぞれの条件設定によっては、全体を俯瞰すれば半歩前進・一歩後退のような“活かしづらい”改定がされることもあるかもしれない。

とはいえ、それを踏まえても、今回の改定議論が大きくネガティブなムードに向かうことも考えにくく、年内とも噂される解散総選挙の時期やその前後の政権の考え方にもよるが、一部で信じられているような「族議員が落選したのでマイナス改定に確定」というようなことは起きないと、少なくとも現時点では言えるのだろう。むしろ、物価・光熱水費の高騰や給与費の増加について、どのように報酬上の評価を求めていくのかなど、しっかりと業界側から改定にコミットしていくことが重要となる改定議論になるように感じている。例年であれば3月頃には介護給付費分科会で改定のお題目が大枠で示されているはずだが、出てきたものに良い悪いを繰り返すのではなく、直面している課題をどう乗り越えるのかについて確実に俎上に載せていく“能動的な”議論を大いに期待したい。

最後に、報酬改定に向けたスケジュールをおさらいしておこう。当然、国の予算審議とリンクしてくるわけだが、まず6月にいわゆる骨太方針で粗方の方向性が示される。それを受けて8月末に各省庁との間で次年度予算の概算要求がやりとりされ、秋から冬の調整を経て、年末頃に政府予算案のとりまとめとなる。ここで改定率なども出てくることになる。今年も賑やかな年末になるのだろう。(『地域介護経営 介護ビジョン』2023年4月号)

あきのたかお(ジャーナリスト)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。

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