介護業界深読み・裏読み
報道先行で議論が活性化……
介護保険部会は大詰めへ

介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!

各紙が報じたことで議論も進みだした

10月31日に開かれた社会保障審議会・介護保険部会に先駆けて、新聞各紙が一斉に「65歳以上の介護保険料について、高所得者は増額、低所得者は減額とする厚生労働省方針」との内容を報じたことは、大きなインパクトがあった。少なからず介護保険部会の審議にも影響を与えたことは間違いなく、その前段階までは、前回の当欄で「深まらない」と書いたように、軽度者外しやケアプランの有料化等注目を集めてい改革案については、業界内外から反対意見が強く出されたことで概ね結論に近づいており、2018年の介護保険制度改正で一部導入された介護保険の利用者負担2割・3割の適用範囲をどうするのかが数少ない焦点と見られていた。しかし、前述の報道を経た介護保険部会当日は、委員から、被保険者範囲の拡大について物価高騰などの影響が大きい現状では難しいとする一方、「年齢を問わずサービスの受給が可能であるという趣旨を明確にするため」等の理由から「検討すべき」との意見が複数あげられたほか、懸案だったいわゆる介護保険サービスの自己負担割合に関しても「応能負担」の推進が概ね支持されるなど、利用者のみならず国民負担の増についての議論が活発に交わされることになった。
もちろん、これらの論点が介護保険部会において重要なテーマであることは今に始まったことではないのだが、報道が先行して目が覚めたのか、それまで各論のなかで我田引水の意見をひたすらに繰り返してきた様子からはまるで別人のようなやりとりが見られ、大変興味深く拝聴させてもらった。

発破をかけられた審議の結末に期待

このことに気を良くしたわけではないだろうが、財務省のスタンスにも若干の変化が見られた。次年度予算の編成に向けた「建議」のとりまとめに向けて、社会保障に関する課題を改めて整理した11月7日の財政制度等審議会・財政制度分科会では、「利用者負担の見直し」「ケアマネジメントの利用者負担の導入」「多床室の室料負担の見直し」こそ従前の主張を維持しているものの、「要介護1・2への訪問介護・通所介護の地域支援事業への移行等」では、「第9期に向けて移行を検討すべき」というこれまでの書きぶりに「段階的にでも」という文言が書き加えられ、事実上本格的な移行の見送りを容認したかたちになった。もちろん、部分的な移行の可能性は残っているが、時間的余地から考えてかなり実現性は低いと見て良いだろう。
財務省に限らずどこの組織でも同じようなことはあるのだろうが、厳しい改革案をプロパガンダとして走らせ、危機感を煽ったうえでバーター的に本命の政策を受け入れさせる、常套手段中の常套手段である。しかし、相手が財務省となると、介護業界としても、見せ球とわかっていてもいちいち反発しなければ「改革案」が断行されかねないだけに質が悪い。毎度毎度、放火魔と火事場泥棒が同じ人のような手法が長年繰り返されていることに目を覆いたくもなるが、今回に関しては良い結果になったのではないかと思っている。この原稿が皆さまのお手元に届く頃には、介護保険部会の審議も大詰め、取りまとめを大方終えているはずだ。結論を楽しみに待ちたい。

将来を決める審議会は公平無私であるべき

さて、介護保険部会と言えば、個人的に大いに興味をもったのが、11月14日の会合で扱われた、訪問や通所を組み合わせた「複合型サービス」を新設する案だ。特に地方部での在宅サービスが継続困難になっている問題意識をもとに、事業者側の効率性を高める目的で、少し前から検討が始められていたものだが、言ってみれば「泊りのない小規模多機能型居宅介護」のようなものと想像する。フル稼働できなくなっているデイサービスや訪問介護事業所が増えてきているなかで、ハード面はもちろん、管理者をはじめ人員の配置等ソフト面でも“兼ねて”いく考え方を進める取り組みは大変意義深く、泊りがないことで事業者側の負担を軽くするのも評価できる。厚労省はかねてから在宅サービスの介護報酬をまるめにしたいと考えていると言われているが、その足がかりとなるのか、今後の進展が待たれる。

前段の応能負担に関する議論にも言えることだが、介護保険部会に限らず、業界の将来を占う審議会たるもの、こうでなくてはならないと思う。常々感じているが、アレはイヤだ、コレはけしからん、僕は私はこうしてほしいというような既得権益の背比べはもうたくさんだ。国の会議とは未来に向けたあるべき姿を公明正大に話し合う場であり、我が国の介護保険制度のあり方そのものに大きな責任をもつのが介護保険部会である。山積する課題それぞれにどう向き合い、どんな答えを出すか。委員各位には、改めてその重みを胸に、引き続き審議に臨んでほしいと願ってやまない。(『地域介護経営 介護ビジョン』2023年1月号)

あきのたかお(ジャーナリスト)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。

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