介護業界深読み・裏読み
改正議論の本丸
「給付と負担」の議論が深まらない

介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!

否決を見越してか軽度者外しを議題にせず

9月26日に開催された社会保障審議会・介護保険部会は、事前段階から一部で注目が集まった機会だった。テーマとして「給付と負担」を取り上げ、かねてから財務省筋の指摘によりクローズアップされていた利用者負担の原則2割化や、ケアプランの自己負担導入、軽度者に向けた介護保険サービスの地域支援事業への移行(以下、軽度者外し)などが取り扱われると見られていたからだ。
しかし、厚生労働省はこの日、少しユニークな手法をとった。実際、これらの課題について資料に掲載はしたものの、あくまで「給付と負担に関する指摘事項について」という括りにより、「新経済・財政再生計画改革工程表2021」(令和3年12月23日経済財政諮問会議)や「歴史の転換点における財政運営」(令和4年5月25日財政制度等審議会)で「指摘がありました」とする表現にとどめた。かたちのうえで俎上にはあげたものの、「議題としてフォーカスするわけではない」というスタンスで臨んだのだ。
いささか拍子抜けしてしまうような取り扱い方だったことは否めないが、少なくとも、厚労省として、これらの議題に乗り気ではないことが表明された出来事だったとは言えるだろう。

厚労省がこうした取り扱い方を選択した理由は、間違いなく、当初段階から介護保険部会委員をはじめ業界内外から反対意見が相次いだことにあるだろう。介護保険部会や介護給付費分科会では、慣例として、開催日までに委員に対して事前の議題説明(事前レク)が行われることになっているが、たとえば軽度者外しに関してなどは、その時点ですでに経済団体や、いわゆる支払い側を除くほとんど全員が反対の意思表示をしていたといい、議題にあげたとしても総スカンをくらうことは明らかだったという。もちろん、議題になってはいなくとも反対意見は出されていて、取りつく島もなかったということには変わりがなかったのだが、逆の見方をすれば、厚労省として正式に議題にあげてしまうと「介護保険部会で否決された」という事実ができあがってしまい、審議報告がされるまでの3カ月強の間、財務省との調整が改めて必要になる可能性を見越して回避したかったという本音があるのかもしれない。

動き出す団体・政府に対し動きが見えない厚労省

さて、各団体の動きも次第に活発になってきている。議論のとりまとめがなされる年末に向けてさらに賑やかになるだろう。軽度者外しについては、ほかの課題と合わせて、認知症の人と家族の会が反対に向けてオンライン署名を集めたり、介護保険部会委員でもある座小田孝安氏が理事長を務める全国介護事業者協議会等が与党に対して慎重な検討を求める要望活動を行うなどのアクションが出てきている。
また、この原稿を書いている時点ではまだ明らかになっていないが、複数団体が連名で反対表明を出すという話も聞いている。

ケアプランの自己負担導入については、当然のことながら、日本介護支援専門員協会が一貫して反対していたり、全国老人福祉施設協議会が一部自己負担導入に賛成の意向を示したあと批判を受けて撤回したりしたほかはあまり動きがないが、それでも、賛成論者の少なさから一気に進むことは考えにくいだろう。こう考えてみると、今回の制度改正の本丸というべき「給付と負担」の議論が一向に深まっていないことがわかる。逆に心配になるのは、制度改正の取れ高だ。たとえば、ケアプランの自己負担導入で約500億円。軽度者外しでターゲットになっているとされる訪問介護の要介護1~2の給付費が3,500億円と言われていて、仮に1割が生活援助として地域支援事業に移行された場合は350億円。足して850億円で、このぐらいは削らないと財務省の掲げる社会保障費削減目標を達成する足しにもならないはずなのだが、現状を見る限り、本気で取りにきている感じは全くしない。永田町関係者も「老健局がどうしたいのか全く分からない」「(今夏に就任したばかりの)大西証史老健局長は、事情が良く分かってないのでは」など怪訝な目を向け始めている。
こうした状況を踏まえてか、9月28日に開催された政府の全世代型社会保障構築会議で、担当する山際大志郎・全世代型社会保障改革担当大臣から、制度改革について厚労省で審議し、報告するよう求めがあったという。また、岸田文雄首相も10月18日の衆議院予算委員会で、利用者負担の引き上げについて前向きな姿勢を示している。

だんだんと強まる政府からのプレッシャーに、厚労省はいつまで「のらりくらり」を続けられるのだろうか。業界からの後方支援も必要になってくるだろう。年末に向けて、議論の行方が引き続き注目される。(『地域介護経営 介護ビジョン』2022年12月号)

あきのたかお(ジャーナリスト)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。

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