介護業界深読み・裏読み
「オール介護」で6万票の衝撃……
園田氏落選に思う

介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!

再選めざした参院選
「オール介護」の効果は

永田町では、およそ産業規模5兆円あたり1人の国会議員が輩出される、というのが定説だった。それも、もはや過去の話だと言わざるを得ない。7月10日に行われた第26回参議院議員通常選挙で、全国老人福祉施設協議会(全国老施協)、全国老人保健施設協会(全老健)、全国介護事業者連盟という3大団体をはじめめぼしい業界・職能団体がこぞって推薦し、「オール介護」を標榜して再選をめざした園田修光氏が、6年前の選挙から約1万票減らした9万3,429票で落選した。3年前の角田充由氏に続き、接戦にさえ持ち込むことができなかった。

傍から見ていても、敗因はいくつもあった。敢えてあげるとすれば、大きく2つになるだろう。一つは、地元鹿児島で著しく票を減らしたこと。6年前に約3万9,000票だったものが、3分の2(約2万6,000票)にまで落ち込んでいる。これにはいくつか理由が考えられるが、園田氏の支援母体は40年近く前の保徳戦争と言われる時代にさかのぼるもので、かなり高齢化が進んでいた。また、6年前は「鹿児島の園田」として投票したものの、蓋を開けてみれば「介護の園田」だったことで地元関係者から不満が聞こえてきてもいた。これは業界団体に関係する国会議員の“初当選あるある”だろう。

2つ目の敗因は、これが本質になるが、「勝てる選挙」としてイメージがまん延してしまったことだ。特に、業界内で盛んに繰り広げられた「オール介護」のキャンペーンは最悪だった。選挙で勝つために最低限必要なのは陣営の信頼関係と危機意識だが、6月22日の出陣式時点で「厳しい選挙だと思っていなかった」という発言があるなど緩みは顕著だった。また、陣営の幹部クラスが敗戦後に自身のブログで、介護業界の政治に対する意識の低さを他責的に批判しているが、これも「勝てると思っていた」証拠。地元の票を除けはおよそ6万票という数字そのものは6年前の選挙と変わりないが、前回と違って「オール介護」でありながら増やせなかったことは確かに問題視されるべきだ。しかし、大元の母体である全国老施協の業界全体へのシェアは、介護給付費に占める特養の割合(約2割)から割り出すと、わずか1割程度。最大の業界団体である全国老施協でそうなのだから他の団体は推して知るべしで、もともと安定的な基盤にはほど遠い。そもそも「オール介護」と考えるには足の置き場が違っていた。実際、SNS上では選挙に興味がなく、あったとしても熱心に園田氏を応援している層は多くなかった。また、各県の選挙管理委員会のホームページにはその県で各比例候補者が何票獲ったかが掲載されているが、園田陣営で中心的な存在だった全老健の東憲太郎会長の地元三重県でも園田票はわずか1,656票。ほとんど「オール介護」の効果は見られない。

今回の選挙結果から業界の本質を見直すべき

さて、ここで考えるべきこととして、介護業界団体の組織内候補者が不在となった、少なくとも次の参院選までの3年間のうちに、2024年度の介護報酬改定を迎えるということがある。このことについて、「園田氏が当選して以来の改定はすべてプラス、次回はマイナスに違いない」と考えている関係者が大変に多いが、ほとんど無関係と言って良いだろう。単純に、7年前に大負けした報酬改定(マイナス2.27%)で削り過ぎたため微調整が続いているだけで、介護報酬を含む国の予算折衝は、園田氏一人がいたから特段のプラスがあるような甘いものではまったくない。ここで問題として指摘したいのは、「オール介護」思想にも顕著と言える「園田任せ」の姿勢が改められるかどうか、という部分だ。筆者はむしろ園田氏に同情的で、多くの業界団体が園田氏に任せきりで思考を停止し、たとえば厚生労働省との折衝のようなレベルまで園田氏に依存していたことは大きな怠慢であったと考えている。園田氏は、菅義偉前首相や田村憲久前厚生労働相とのパイプをもっと大きな視野で活用し、政府や与党内でもっと活躍すべきだったし、本人もそうしたかったのではないだろうか。しかし実際には、「団体の世話」に終始した6年間になってしまった。このあり方から業界が脱却できなければ、単に「失われた3年間」を過ごすことになるのは間違いないだろう。

実態はどうであったにせよ、「“オール介護”で6万票」。これでは多くの政治関係者は介護業界を一人前には扱わないし、園田氏のように地元で3万・4万票を獲得できる稀有な候補者を介護業界が抱えられる可能性は、もうほとんどない。もっと言えば、介護業界が単独で国会議員を輩出することは、未来永劫ないとさえ感じている。大失敗作だった「オール介護」キャンペーンは業界に大きな影を落とす罪深いものであったが、今回の結果を他責で終わらせることなく、抜本的に体質を改める機会に出来るかどうか。そこにこそ、介護の未来がかかっている。(『地域介護経営 介護ビジョン』2022年9月号)

あきのたかお(ジャーナリスト)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。

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