制度と経営に強くなる!
「顧客志向」という言葉の
奥深さ・力強さ

介護事業所のリーダーが、今、知っておくべき知識を、業界に精通したC-MASのプロフェッショナルが伝授

保険外サービスを行う「目的」を定める

A社は現在、リハデイを展開するとともに、自費運動支援サービスに取り組んでいます。両事業とも高い稼働率を維持している……と、ここまでの話だけだと、大変優秀かつ先進的な事業者ではあるものの、それほど目新しい取り組みでもないかもしれません。ですが、実は、A社のビジネスモデルには他にはない、思わず「なるほど!」と声を上げてしまうぐらいの特長がありました。実はこのA社、自費サービスの集客営業についてはなんと、「ほぼやったことがない」と話します。では、どのようにして顧客を集めたのでしょうか?
今号ではA社を経営するB氏の視座に焦点を絞り、お伝えします。

「この事業の目的はどこにあるのですか?」
高齢者向け自費運動支援サービスの展開を検討されている経営者に出会うたび、私が投げかける質問です。彼らの回答は、おおむね次の3点に集約されます。「ニーズがありそうだから」「少しでも売り上げを上乗せしたいから」「将来の見込み顧客と早めに接点をつくっておきたいから」……。実は、B氏の考えは、上記3つのいずれにも当てはまりません。では彼の目的とは一体何なのでしょうか?それは「既存利用者の願いをかなえる」。ただこの一点だけでした。
「要支援の方は運動の機会を増やすことさえできれば認定から外れる可能性は高いし、何より本人もそれを望んでいる」。日々、利用者と触れ合うなか、B氏はこのような想いを強く抱いていました。とはいえ、要支援の方に週2回、3回と来ていただくことは経営的に難しい……。そこで生まれたのが、「週1回、利用者向けに保険外で運動支援サービスを提供する」というアイデアでした。
B氏はこの案をもって、要支援1のCさんのところへ向かいます。「前回うかがった『週にもう1回多く通いたい』というお話、いろいろ検討してみたのですがやはり経営的に難しく、Cさんのご希望に添うことは難しい状況です。本当に申し訳ございません」「ただ、我々としてもCさんには絶対に元気になっていただきたい。そこで、たとえばデイが休みの日曜日に運動支援サービスを提供させていただく、ということを考えたのですが、いかがでしょう?介護保険適用外となりますので、1回約3時間、3,000円程度いただければ、われわれも喜んで対応させていただきたいのですが……」。「そんなの、お願いするに決まってるよ!」B氏からの提案を受けたCさんはその場で即答。「かしこまりました。では、せめて、週末のご利用時にも送迎はやらせていただきますね」という流れに。
こうしてまずは要支援の方を中心とした「ご利用者のための保険外サービス」が始まったのです。

保険事業の矛盾に対する「経営者の決断」とは

予想どおり、さんの運動機能はどんどん回復。そんななか、Cさんの回復ぶりを見ていた要支援2の利用者(Dさん)がCさんに尋ねます。「最近、ずいぶん元気になってきたんじゃない?」「週末に1回、自費の運動支援サービスを受けているおかげかな」「あぁ、あのサービスか。そんなに元気になるのなら、俺も行ってみようかな」。こうして運動支援サービスが賑わい始め、一人、また一人と利用者が認定から外れるという、とてもうれしい状況が起こっていったのです……。
と、この話、このままキレイに美談で収まる訳ではありません(苦笑)。勘の鋭い皆様なら既におわかりのとおり、要支援1の方の認定が外れるということは、すなわち既存事業の売り上げが落ちるということ。経営者であれば、この矛盾に悩むことも当然あるでしょう。しかしB氏は、この事実に直面しても、自らの軸がぶれることはありませんでした。「顧客サービス業としてはこれが正しい姿だ」と確信していたからです。
そのうえで、B氏は、「当社は“介護保険から卒業できる”デイサービスです」という新たな価値を地域に発信することにしたのです。結果、「保険内サービス」と「保険外サービス」が両輪となり、事業全体が好転するという好循環ができ上がり、両事業とも高稼働率を維持できる仕組みが確立されていった、という訳です(=だから、保険外サービスのための営業は行う必要がなかった、という訳ですね)。

B氏の事例は、つい「自社(自分)志向」に陥りがちな我々に対し、「顧客志向」という言葉のもつ重要性・深さを教えてくれているように思います。顧客価値をぶれさせることなく追求する一方で、事業として継続可能なモデルをどうやってつくり上げるか?ここでどれだけ「妥協なく脳ミソに汗をかけるか」が、新たな価値を生み出す源泉となります。「わが社は徹頭徹尾、顧客志向を貫いているだろうか?」……。ぜひ一度、わが身を点検してみていただければ幸いです。(『地域介護経営 介護ビジョン』2022年9月号)

原田匡
はらだ・ただし1970年生まれ。京都大学法学部卒業。日本社会事業大学専門職大学院福祉マネジメント研究科ビジネスマネジメントコース卒業。「他業界の経営支援で培った知見」「自らのデイサービスでの実体験」「福祉業界の経営支援で培った知見」を融合させながら、「ケアビジネス研究会」を基軸とした実戦的な経営支援活動を行っている。2011年から本格開始した福祉経営者向けセミナー・研修実施回数は累計1,359回に及ぶ(2021年12月末日現在)。著書としては「介護元気化プロジェクト(エル書「房)」「介護事業所の経営の極意と労務管理・労基署対策・助成金活用(日本法令)」。業界誌への寄稿も多数。福祉経営者経営幹部を中心に5,600名超の読者数を誇る無料メールマガジン「ケアビジネスSHINKA論」の編集責任者でもある
株式会社ケアビジネスパートナーズ
●東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階 TEL:050-6877-6335
◆介護事業に特化した経営・税務の専門家集団

C-MAS介護事業経営研究会
Care-Management Advisory Service

▼お問い合わせ・ご相談はこちらから
介護事業経営研究会 本部事務局
●東京都豊島区東池袋1-32-7 大樹生命池袋ビル7F
株式会社 実務経営サービス 内
TEL:03-5928-1945    URL:c-mas.net

TAGS

検索上位タグ

RANKING

人気記事ランキング