介護業界深読み・裏読み
骨太方針と財務省、
そして参院選を考える
介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!
今回の参院選は業界の威信をかけた戦いに
この原稿を書いているのは6月中旬。7月10日に予定される第26回参議院議員通常選挙(以下、参院選)の公示を目前に控え、各陣営佳境に入っている。
参院選は同じ国政選挙である衆議院議員選挙とは違って、全国を対象とした比例代表の仕組みがあることから、各業界から代表が出馬することが多い。介護分野では前回、全国老人福祉施設協議会と全国老人保健施設協会がそれぞれ組織内候補を出したが共倒れになり、今回はその反省から両陣営が協力するかたちで現職の園田修光氏を支援。その他複数の団体が追随している。介護に関係する候補者は複数いるので「一本化」というにはやや踏み込みが足りないところであるが、それでも業界の威信をかけた選挙戦になっていることは間違いないと言えるだろう。皆さまがこの原稿を読んでおられる頃には、その結果が出ている。次号ではまた、そのあたりを振り返ってみたいと思っている。
踏み込み不足だった「骨太方針2022」
さて、この参院選に関連してひとつ触れておきたい。自民党は6月16日に、選挙公約とあわせて「総合政策集2022(J-ファイル)」を発表した。ここでは介護に関する文言として「誰でも公平にケアマネジメントが受けられるように、居宅介護支援費に関しては、介護保険制度で全額を賄う現行制度を堅持します」と記載されている。
当欄でも以前取り上げた通り、財務省はかねてからケアプランの有料化を求めているわけだが、与党として反対の姿勢を示したということで、(驚くほど話題になっていないが)それなりに意義のある出来事である。直接関係する職能団体である日本介護支援専門員協会の頑張りがいかほどだったかは判然としないが、十分評価するに値するのではないだろうか。とはいえ「2022」なので制度改正がされる頃には話が変わっている可能性はあるのだが、今できることとしては上出来だろう。
このことではっきりしたのは、少なくとも財務省として、ケアプランの有料化に不退転の決意で臨んでいるようなことは全くないということだ。もちろん彼らの姿勢として、「削れるところは削る」のは確かなので今後も様子見しながらにはなるだろうが、重点課題について与党と調整できず先手を打たれてしまった、というようなことはおそらくあり得ない。
6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太方針2022)でも、同様のムードがあった。例年この「骨太方針」の策定に先駆けて、財務省の財政制度等審議会で「春の建議」がとりまとめられ、社会保障分野についても厳しい提言がされる。今年も以前取り上げたように、ケアプラン有料化をはじめとした多岐にわたる書き込みがされて議論を呼んだが、いざ「骨太方針」が公表されてみると、採用されていたのは「経営大規模化・協働化」や「費用の適正化」などに留まっていた。「建議」の記載がどの程度「骨太方針」に盛り込まれるかで、「財務省の本気度の物差しになる」(社会部記者)とまで言われるなか、今回は、前述した参院選へ配慮(厳しい改革案に対する有権者の反発を回避)したことが第一にはあるのだろう。
社会保障費抑制に向けて財務省は虎視眈々!?
もう一方で想像できるのは、介護報酬改定のない来年までの間は、財務省にとっても観測気球をあげたり、世論を誘導する準備期間にあたるということだ。「骨太方針」での経営の大規模化や、規制改革推進会議を通じて既成事実化している人員配置基準の見直しについては、今後も揺るがない方向性として書き込みはするが、落としどころはいかようにでもなる。白黒はっきりさせるべき個別具体的な課題(ケアプラン有料化や軽度者向けサービスの地域支援事業移行など)はどこまでできるか見定めている。社会保障費の抑制に関しては再来年の改定で考えれば良い。そんなふうに見ていくと、4月以来財務省がとってきたアクションの背景が自然に感じられるのではないだろうか。業界側からすれば、肝心なのは感情的な反発ではなく、そのアクションへの適切な反応であり、折衝だ。
冒頭で触れた参院選の当選者が、国会議員としてバッヂをつける期間は6年間だ。この長い任期のうちに、当然2024年度の介護報酬改定や介護保険制度改正があり、さらにその後に控える2027年度の見直しにもリー
チする。介護は、関わる人の数のわりに票が少ない業界として有名だ。
いろいろな事情からそのような有り難くない評価を受けていることは重々承知しているが、財務省との折衝ひとつを考えただけでも、他人事では済まされない現状にあることもまた、皆さまにお伝えしたい事実である。参院選の結果に期待したい。(『地域介護経営 介護ビジョン』2022年8月号)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。