介護業界深読み・裏読み
全世代型社会保障へ進む国と
業界の現在地

介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!

保険制度開始の背景に時代の流れが関係

久々に連休らしい連休となったゴールデンウィークが明けた途端、急速に来年度予算編成に向けた方向性に係る議論が進められ、5月16日に開かれた経済財政諮問会議で「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2022」の骨子案が公表された。ここでは、マクロ経済運営や経済社会活動の再開に向けた感染症対策を軸に、短期・中長期の経済運営を見据えていく旨が示されているが、社会保障分野については「持続可能な社会保障制度の構築」というお題が掲げられている。
このことについて並行して議論が行われてきたのが、政府の全世代型社会保障構築会議だ。この会議でも同様に、5月17日に中間整理が行われた。中間整理の文中では、「『成長と分配の好循環』を実現するためには、給付と負担のバランスを確保しつつ、若年期、壮中年期及び高齢期の全ての世代で安心できる『全世代型社会保障』を構築する必要がある」とした上で、「そのためには、今後、生産年齢人口が急速に減少し、働き方やライフスタイルの多様化が進む中で、少子化を克服し、持続可能な経済及び社会保障制度を将来世代に伝えていくため、社会保障制度の担い手を確保する」等の記載がされており、税収や保険料をもとにした我が国における社会保障制度の成り立ちと人口動態がマッチしていないことへの強い危機感が伺える。

そもそも、我が国の社会保障における保険制度は、来るべき時代を見据えて国による措置的な仕組みから国民負担を原動力にしたものへ転換を図ったものであることは間違いない。しかし、その設計がされたのはまさに我が国が高度経済成長期にあった時期であり、国民所得の伸びが負担感を紛らわせることができた時代的背景があった。介護保険制度に関してはそのずっと後になってのスタートであったため必ずしも施行に反発がなかったわけではなかったが、それでもコロナや戦争によって国民が少なからず先行きを不安視している現代に比べれば、いくらかは逆風も吹きにくい環境だったのではないだろうか。

社会保障制度見直しに対し介護業界の反応は

現在の我が国は、イーロン・マスクに言われるまでもなく、間違いなく将来が危ぶまれている。人口は、国家の力そのものだ。それが失われるということに紐づいて、国や国民を支える制度の力も失われていく。社会保障制度の持続可能性がこんなにも議論の俎上にあがっているのはその危機感に他ならないのだが、介護業界にはまだまだその認識は薄い。

少し前にある介護業界団体が、国民負担を見直して処遇改善や将来のサービス発展のための財源を確保すべきとする提言を行ったが、その際、多くの反発はまあ仕方ないとして、厚生労働省の会合等にも多数関わっている、介護人材課題を日頃生業にしているある著名な事業者が反対の声をあげた。それも、国の将来がどうとか制度がどうとかではなく、自身の生活を例にあげて「これから生活上の負担も増えるし、なぜ若者世代だけが背負わなければならないのか」というような非常にパーソナルな理由での反対だった。筆者は財務省の下請けでもなんでもないので国のために負担せよとか、払って当然とか言うつもりはないのだが、誰だって自分のこと以外に身銭を切るのが嫌なのは同じ、せめてこのぐらいの事業者なら「個」と「公」のそれぞれを問題意識として持てないものなのかと非常に残念に思ったのだが、しかしこれが業界の現在地なのだろうと妙に納得もしたし、むしろ前述したような昨今の不安定な世情を踏まえれば、ビジネス上の立ち回りとしては正しいのかもしれないとも感じた次第だ。

財政健全化に対し見解を示す時が来た

財務省は、来年度予算の編成に向けて毎春「建議」をとりまとめている。今期については大方の予想通り、コロナ禍中だったこの数年には見られなかった財政健全化の主張を強く打ち出しており、介護分野へも「介護サービス経営の大規模化等、介護給付費適正化」を求めている。

家計でも会社の会計でも同じであるが、入りが減るなら出も減らすほかないのは当たり前の話で、これから確実に財源が減るのだから財務省でなくとも効率化や適正化を言い出すのは自然。以前この欄でも書いたように、(4対1等言いぶりがあまりに間抜けだったのは確かだが)効率化にも反対、財源確保のために負担することも反対、これではサービスの縮小に業界あげて突撃しているのと実は同じだ。

介護業界にかかわる誰もが、利用者の生活にそれぞれ役割と責任を持っている。そのことを踏まえて、この先をどうするべきだと考えるのか、どうあるべきなのかをそれぞれが考えなければならない時代が、すでに始まっているのではないだろうか。(『地域介護経営 介護ビジョン』2022年7月号)

あきのたかお(ジャーナリスト)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。

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