介護業界深読み・裏読み
配置基準緩和への
政策誘導に感じる疑問

介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!

相次ぐ新聞の飛ばし記事への反応は?

昨年12月21日に日本経済新聞で報じられた「1人で4人介護 可能に」という記事は、少なからず業界にショックを与えたのではないだろうか。実際には、その前日に行われた内閣府の規制改革推進会議で、ヒアリングを受けた事業者から「(有料老人ホーム等では)ICTの活用と業務改善によりそのような少数配置も(論理上)可能である」という趣旨のプレゼンがされたまでだったが、記事の取り上げ方として極端にインパクトが強く、恣意的と言わざるを得ないものだった。
これに驚いたある国会議員が厚生労働省に問い合わせたところ、「踏み込んだ議論はない」と回答があったとされているが、早々に年が明けて2月2日、続報となる「介護職員の配置基準緩和へ…ロボット活用など条件、新年度に実証事業」とする記事が、読売新聞に掲載された。
ここでは、規制改革推進会議の実証事業として「介護現場で実際に見守りセンサーや介護ロボットなどICTを活用した場合に、どれぐらいの業務の効率化につながるかを数値化。その上で、配置基準を緩和した場合に入居者の安全確保に問題が生じないかや、職員の負担増がどの程度になるかなど、影響を調べる」とあり、特別養護老人ホームも対象とあった。その結果をもとに「例えば『入居者10人に対し職員3人(3.5人に1人)』や『入居者7人に対し職員2人(3.5人に1人)」など、配置基準よりも少ない人数で介護を担うことが可能かを検討する」という。先の規制改革推進会議で厚労省は「今後の介護報酬改定議論のなかで必要な対応を検討していく」としていたことから、2023年3月頃に開始が見込まれる2024年度介護報酬改定に向けた議論で、大きな検討課題になることは間違いないだろう。

この実証事業について、公募は厚労省が行うということだが、もともと厚労省も、ここ数回の報酬改定ではICT活用や業務効率化による配置基準の見直しはやりたい方向性を示していた。特に2021年度改定では、日本医師会の強い反対がなければもっと踏み込んだ見直しがされていたことは明らかだった。
2月7日に開催された介護給付費分科会では、こうした報道先行型の政策誘導に対して、委員から「財務省などに言われて検討するのではなく、この審議会で先立って議論するべきだ」と不満があがった。この声に厚労省担当者は、「人員配置基準の緩和が決まったわけではない」と答えたが、決して基準緩和を否定したわけではないことに留意すべきだろう。

出てくる数字を現実としてどう見る?

昨年末の日本経済新聞、2月の読売新聞とも、状況だけで判断しても、やりたい側の政府関係者の意向が働いた、いわゆる「飛ばし記事」であることは間違いない。その政府方針、そして人口動態からも、程度はともかくとして人員配置基準の見直しは早晩不可避のものになるだろう。ただ、現状においてたとえば2対1であたっている特別養護老人ホームの例をいくつも見聞きするなか、「4」「3.5」などという数字が現実感をもって受け入れられることがないのは明らかで、進め方として強い疑問をもたざるを得ない。すでに複数の業界団体が反対に向けて動き始めているということでもあるが、やたらに対立構図を生むような行き方は誰のためにもならないのではないだろうか。この温度差を埋めるためには、やはりまだ少なくとも数年間はICTなどについての活用支援に財源を投入し、2対1をどう3対1に近づけていくのか、あるいは2の負担を軽くしていくのかという点にフォーカスすべきだ。

基準緩和することで何が得られるのか

ところで、巷にあふれている「ICTに良いケアができるわけがない」というアレルギー反応は、いかがなものかと思っている。現時点で
は数値で測れない「良いケア」で勝負することは極めて難しいし、入浴回数を例にあげているものを見たが、そんなものは実証事業の結果次第で簡単に胡麻化されてしまうだろう。肝心なのは「基準緩和することが(政策上)得か損か」だ。

さて、その実証事業だが、国が扱う事業で「特段成果はありませんでした」となることは滅多にない。ほぼ確実に、何らかの目星がつけられると考えなければならないが、せめて結論ありきで進められることはご勘弁願いたい。客体となる事業者の皆さまには、調査を通じて、配置基準緩和に向けたリアルな課題を是非あからさまにしていただきたい。その結果、次なる改定議論が本格化する前に、真に必要な検討のための意義あるエビデンス構築がされることを願ってやまない。(『地域介護経営 介護ビジョン』2022年4月号)

あきのたかお(ジャーナリスト)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。

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