介護業界深読み・裏読み
政府主導で、処遇改善は補助金から
「新たな加算」へ
介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!
2021年の年末、いわゆる社会保障分野では診療報酬改定の話題で持ち切りだったが、介護に関しても当然、大きな動きがあった。特に、ここ数回の当欄でも取りあげてきた岸田文雄首相肝いりの賃上げ施策「介護職員処遇改善支援補助金」(以下、補助金)に関する動向は注目を集めた。
それにしても、12月22日に行われた大臣折衝には面食らった。いとも簡単に、「介護・障害福祉職員の処遇改善については、『コロナ克服・新時代開拓のための経済対策』(2021年11月19日閣議決定)を踏まえ、2022年10月以降について臨時の報酬改定を行い、収入を3%程度(月額平均9000円相当)引き上げるための措置を講じることとする(介護:国費150億円程度、障害福祉:国費130億円程度)」と、大きな意味合いをもつ方針が記載されたのだから堪らない。今回の賃上げ施策についてはとにかく官邸発信のメディアによる飛ばし記事が既成事実をつくる流れがとられてきたが、「寸分違わず既報通り」というのもさすがに驚くやら、呆れるやら。介護業界では大変な権威があるとされる介護給付費分科会など、12月24日分は審議さえ省略。持ち回りで補助金に関する方向性を承認したことに加えて、年が明けた1月12日には件の大臣折衝事項を受けて唐突に示された「新たな加算」の提案に、業界団体は「事務負担が増えるのは困ります」と呟くばかりだった。これまでも「役所のアリバイづくり」だとか、「黙認機関」だとか冷ややかな視線が向けられてきた同分科会だが、いよいよ「追認機関」という位置取りに落ち着いたようだ。厚生労働省の案に関係者が承認するという手続き的な存在意義があるので不要論を唱えるつもりはないが、業界関係者として何かしらの役割を期待するのはもはやナンセンスだと思わなければならないだろう。
さて、今秋の臨時介護報酬改定と新たな処遇改善加算だ。消費税が上がったことに連動して行われ2014年や2019年のプラス改定でさえ、いくらかの議論が交わされたものだったが、今回は額面も率もすでに貼り付け済み、1.13%のプラス改定になるらしい。保険料は月あたり約70円上がる見込みだそうで、案の定支払い側からはそれなりの反発が挙がった。今回目立ったのは、それ以外に「認知症の人と家族の会」からも強い懸念が示されていたことだ。これまで長い間、「処遇改善」と言えば葵の御紋のようなもので、誰も文句は言えないムードがあったものだが、それも時代の感覚にそぐわなくなってきたということなのかもしれない。
あわせて、筆者などは浅はかであるから、まあ当然、補助金はそのまま報酬に組み入れされるとして、要件の性格上、介護職員等特定処遇改善加算にオンされるとばかり思っていたし、そういう方向性も関係筋から聞いていた。しかし蓋を開けてみれば「第3の処遇改善」はそのまま「第3の処遇改善加算」になるということで、少しばかり疑問に思ったところだったが、これには2つの理由が想像できる。一つには、介護職員等特定処遇改善加算の算定率の低さが問題視されてきたところ、要件を追加してさらに落ち込ませるわけにもいかない事情。そしてもう一つには、来夏に控える参議院議員選挙に向けて、岸田政権として既存の何かに溶け込ませるより、「独自に加算を創設して処遇改善を進めた」という方が聞こえは良いだろう。機会があれば事の真相は誰かに聞いてみたい。
何年も前、ある財務省関係者は、介護職員処遇改善加算の仕組みに疑問を感じていると話してくれた。「頑張っている職員の処遇を上げるべきで、どんな人も等しくというのはおかしい」「どんな改善をしたのか、ブラックボックスにならないような仕組みを強化すべきだ」……。そんな思いは、介護職員等特定処遇改善加算や大臣折衝事項での「処遇改善に当たっては、予算措置が執行面で確実に賃金に反映されるよう、適切担保策を講じることとする」という文言に息づいている。もとも処遇改善の仕組みは、事業者に財源を預けることへの不信感の産物。使途を制限されるなんて本来は失礼千万なのだが、一部の事業者の振舞いを見る限りさもありなんというところもある。今後はますます財源論が前提になっていくことが明白な以上、今回の臨時改定、処遇改善の背景と今後の推移を十分にウォッチし、2024年以降に何が起きるのかを占う材料にしても損はないだろう。(『地域介護経営 介護ビジョン』2022年3月号)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。