介護業界深読み・裏読み
岸田賃上げ「3%(9000円)」が
次期報酬改定を左右する

介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!

11月9日の公的価格評価検討委員会で、岸田文雄首相は「看護・介護・保育・幼稚園などの現場で働く方々の収入の引上げは、最優先の課題」「その第一歩として、民間部門における春闘に向けた賃上げの議論に先んじて、今回の経済対策において、必要な措置を行い、前倒しで引上げを実施」すると述べた。これを契機に、岸田首相が掲げる分配戦略の柱である介護職員の賃上げ施策は、加速度的に具体化していくことになった。
同月15・17日に、自民党の政調全体会議が開催、新たな経済対策の案がとりまとめられた。件の賃上げについては以下のように記載されている。

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看護、介護、保育、幼児教育など、新型コロナウイルス感染症への対応と少子高齢化への対応が重なる最前線において働く方々の収入の引上げを含め、すべての職員を対象に公的価格の在り方を抜本的に見直す。民間部門における春闘に向けた賃上げの議論に先んじて、保育士等・幼稚園教諭、介護・障害福祉職員を対象に、賃上げ効果が継続される取組を行うことを前提として、収入を3%程度(月(額9000円)引き上げるための措置を、来年(2022年)2月から前倒しで実施する。

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注釈として、「他の職員の処遇改善にこの処遇改善の収入を充てることができるよう柔軟な運用を認める」との補足が入っている。
この文言がまとめられたのは17日の会合で、15日時点ではブランク。ペンディングを意味する(P)とのみ記載されていた。このことに影響を及ぼしていたのは同月8日にあった財政制度等審議会・財政制度分科会だ。同会議で財務省は「医療福祉分野の雇用情勢」とする資料を提示。「成長の恩恵を必ずしも受けられていない女性・非正規の方々が多い分野において、国による分配機能を強化し、処遇の改善を図ることは意義がある」としたうえで、特に介護分野については「医療・福祉分野で賃金水準が低いのは、保育や介護の現場で働いている方々であり、これらの方々は女性・非正規問題と関連が深い」として処遇改善に一定の理解を示す一方、看護については「女性・非正規問題と関連が深い」としながらも、全産業平均と比べて「相対的に賃金水準が高い」と指摘。岸田首相が先手を打って列挙した賃上げ対象に待ったをかけた。ある政府関係者は、「15日の政調で(P)となったのは看護部分の調整」と話してくれた。

財務省がこうした展開を見せたのは当然、来春に控える診療報酬改定と、その先の介護報酬改定を見据えてのことだろう。上記財政審では続きがあり、「産業別の労働分配率を国際比較すると、我が国の医療・福祉分野における労働分配率は他国より相対的に低く、分配機能を強化する観点から、診療報酬・介護報酬をはじめ、分配のあり方を見直す必要がある」とし、「労働分配率」から次のメスを入れていこうとする様子がうかがえる。介護については、これまでの改定経緯や2つの処遇改善加算を挙げ、「事業者の収入にはなっても必ずしも介護職員の賃金引上げにつながらなかったとの指摘もある」「介護職員の実際の賃金引上げにつながる実効的な仕組みを模索する必要がある」として、処遇改善のあり方を俎上に載せている。

さて、前述した「新たな経済対策」における3%の賃上げは、来秋には処遇改善加算への組み入れが見込まれると報道されている。次の介護報酬改定ではコロナ対策の揺り戻しが来ると言われているが、これにより「加算でプラス、本体マイナス」の基調につながる可能性は高まるだろう。財務省の「事業者の収入ではなく、介護職員の実際の賃金引上げにつながる」ようにとの主張とも一致する。今回の賃上げは、次期改定でマイナス改定を取り付けるための「前払い」のようなものになったと言えるだろう。とはいえ処遇改善分の財源がなければ特段のプラス要素が見当たらない恐れもあり、単純に拒絶するだけではどうにもならないのも間違いない。

あと2年もすれば、次期改定の議論は大詰めを迎える。そのスタートになったのが今回の「3%賃上げ」で、来秋の「加算への組み入れ」議論が前哨戦にあたる。介護従事者の処遇改善は国家的課題であるが、それだけに制度全体の行く末を左右する。額面や要件に一喜一憂する気持ちも理解できるが、介護業界全体として大局観をもってあたってほしいと願うばかりだ。(『地域介護経営 介護ビジョン』2022年1月号)

あきのたかお(ジャーナリスト)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。

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