制度と経営に強くなる!
実地指導対策専門家からみた
「科学的介護(LIFE)」への警鐘 [3]

介護事業所のリーダーが、今、知っておくべき知識を、業界に精通したC-MASのプロフェッショナルが伝授

科学的介護は利用者のためになるの?本来の目的を見失わないでよLIFE

(前号からの続き)
今までやったことがない業務以外のパソコン作業が増えると、会社の命令とはいえ、俺、なんでこんなことやっているんだろう」と自己嫌悪に苛まれる。いくら上司に「今やっておくと将来役に立つ」といわれても、その「今やっている作業」の目的が見えないと、苦痛以外のなにものでもない。さらにこれが「加算を取るため」とはいっても、実際は加算以上の膨大な量のため、心底考えてしまうという人は多いようだ。上司はLIFE加算について、以下の3つの目的を先に職員に伝えておいたほうがいい。

①LIFEは利用者のため

「売上アップのため」と言われるより、少しは動機付けになるのではないだろうか、そして、利用者のためと思えば、今まで知る機会もなかった医療情報や血液データ、日常生活自立度だけでなく、身長や既往歴も調べなければならないこともそこまで大変には感じないだろう。利用者の興味や関心事は、サービスを開始するようになって以降のことしか知らなかったものが、健常であった頃のものも明らかになり、利用者の知らざる姿に触れる機会にもなっている。
ただし、急いで入力を終わらせたい職員からは、「わからないことは入力しなくていいですか」という相談もたくさん来ている。しかし、わからないことを発見したと自覚できたことも科学的介護の収穫の一つである。ぜひその「わからないこと」を調べるきっかけであることに気づいてほしい。

②地域包括ケアシステムの進化のため

入力したデータはビッグデータとなり、狭い介護の世界から解き放たれた後、その利用者本人の「本望」や「あるべき」介護提供像がもっと具体化されて戻ってくるはずだ。そして、その結果、科学的介護(LIFE)の名のもとに、すべてが自動化されるという夢のような、魔法の杖といってもいい希望の未来が見えていると期待したい。

ただし、職員に「科学的介護は地域のため」と伝えても、入力スタッフはピンとこないだろう。だから、こう言い換えてみよう。「もし、うちの事業所が3年後に入力を始めても、ほかの周りは3年生なのに、自分らは1年生でしかないかもしれない。なぜならデータの蓄積が3年分遅れているから」という、「みんなやっているから」的な日本固有の仲間はずれ思考に訴える方法はどうだろうか。あまりお勧めではないが、後ろ向きな思考回路からの脱却にはなるかもしれない。

③高齢者の価値観変化と介護保険制度改正が伴走型のように推移している

2021年度の介護報酬改定では特養や老健の「新しい加算」に衝撃的な要件が加えられた。その一つが「排せつ支援加算」。簡単に言うと、「すみません、職員さん。わたしトイレに行きたいのですが、ちょっと手伝ってもらえますか?」「○○さん、ごめんなさい。手が離せないので、オムツの中にしてもらえますか?」は、これからは通らなくなる。

また、もうひとつは「自立支援促進加算」。これは、「○○さん、これからは集団生活のルールを守ってください。ほかの人と同様でお願いしますね」という施設本意のルールは認められない。あくまで「入所者本人の習慣や希望を尊重し、可能な限り自宅での生活と同様の暮らしを続けられる」ということは人間として当たり前の尊厳であるし、そこに焦点があてられているが、これまでそうでなかったことに非常にショックでもある。あらためて、私も十数年後、当事者になったときにホッとする日が来るだろうと期待したい。

とはいえ、生産年齢人口が減り続けている日本で、今後はどうしたらいいのだろうか?やはり、介護の科学化が魔法のなのか……。人手が少なくても成立する介護生活や、どこの国にも真似できない、高齢者の膨大なデータと、介護のオペレーション技術がある日本は、世界中から期待されているといっても過言ではない。

今、そこの机でパソコンをパチパチ入力しているあなた。あなたのそれが「日本の介護のマイクロチップ」のひとつになると思えば、やりがいはさらに向上するはずだ。科学的介護には大いに期待したい。(『地域介護経営 介護ビジョン』2021年12月号)

西村栄一
にしむらえいいち●株式会社へルプス&カンパニー代表取締役、ISO9001審査員、大阪市立大学大学院都市経営研究科在籍。人材派遣や米国のウェディング衣装会社で勤務後2004年株式会社コムスンに入社。在宅現場から社内諸問題解決のための面談や外部クレーム処理、債権回収、行政対応強化を経てエリア責任者業務に従事。2010年に介護諸問題解決のため同社を設立。実地指導・監査対策専門のコンサルタントとして、900事業以上の実務的なリスク管理を行ってきた
障害支援グループホーム
プライバシーアパートシェアハウス
りぼん
●大阪府大阪市港区市岡1-12-13 URL:reborn202202@gmail.com
株式会社ヘルプズ・アンド・カンパニー
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