介護業界深読み・裏読み
2022年度改正へ着々の
財務省、介護はどう臨む

介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!

例年以上の大混乱を招いた2021年度介護報酬改定がようやくひと段落した頃、厚生労働省関係者から筆者に以下のようなメールが届いた。「細かな解釈や効果の検証は当然必要だが、改定については区切りをつけ、これからは2022年度の介護保険制度改正に向けてしっかり準備をしていかなければならない」……議論の場となる社会保障審議会・介護保険部会が再開されることを見据えて、省内では静かに対応が進められている。

これに先駆けて、財務省は早々に牽制球を投げた。4月7日に開かれた財政制度等審議会・財政制度分科会で、「骨太2021に向けて」と題する議論を行っている。新型コロナの政策対応と経済状況を踏まえながら、我が国の実質GDPについて「2021年1~3月期は感染再拡大の影響でマイナス成長となる見込みだが、2021年度中にはコロナ前の水準に戻る」と見込む民間予測を紹介。倒産・雇用についても「雇用の維持と事業の継続のための政策対応の効果もあって、一部業種を除き、企業の生産能力は維持。リーマンショック時と比較して、倒産件数や失業率の上昇は抑制されている」とし、経済の復調をアピール。歳出削減に後顧の憂いはないと言わんばかりだ。

報道によれば財政審会長の榊原定征氏は、「団塊の世代が後期高齢者になることを踏まえれば、経済構造の転換による生産性の向上、社会保障の受益と負担のアンバランス是正がますます重要になる」と指摘。「日本の経済・財政が抱える構造的な課題にしっかりと切り込む。今後のあるべき姿を「示す」と意欲を示したという。
財政審と言えば、昨年秋の「令和3年度予算の編成等に関する建議」(2020年11月25日)が異例の内容だったことは、過去に当欄でも触れた。通常であれば「マイナス改定でなければならない」と強硬な姿勢を示すはずの介護報酬改定について、(国民負担増を踏まえて)「プラス改定をすべき事情は見出せない」とするに留まった。その後の推移を見れば、財務省としてもプラス改定を容認していたということがわかる書きぶりだったのだが、その一方で同「建議」では、「当審議会としては、第8期介護保険事業計画に向けた制度改革が補足給付及び高額介護サービス費の見直しに留まったことは遺憾であり、利用者負担のさらなる見直し、ケアマネジメントへの利用者負担の導入、多床室の室料負担の見直し、軽度者へのサービスの地域支援事業への移行といった積み残された制度改革の実現に向けて、早急な取組を求めたい」と付記している。こうした動きの裏を返せば、コロナ改定とも言える昨年の流れには下手に抵抗をせず、本丸をこれからの制度改正に置くことで、しっかりと歳出削減の道筋をつけようとしているということだ。そしてその後には2024年の診療報酬・介護報酬同時改定が控えている。立て続けのプラス改定後であるだけに、マイナス改定の見込みは濃厚。当面は財務省にとって働きどころと言って間違いないだろう。

特に、▽ケアマネジメントの利用者負担の導入、▽軽度者へのサービスの地域支援事業への移行については、厚労省は前回も押し切られる寸前だった。ケアマネジメントのあり方は今回の報酬改定でも問われたところだが、ケアマネジャーの役割と質、処遇の天秤はなお揺れ続けている。介護保険部会でもやはり大きな争点になることは間違いないだろう。軽度者向けサービスについても、真に自立支援に寄与し、重度化を防止するサービスがどういったものであるのか、現場からの再定義が叶わなければ、移行の流れは変えられない。

前回の当欄で、科学的介護情報システム(LIFE)について取り上げたが、厚労省としては今後、その仕組みのなかでいかにエビデンスを示し、根拠に基づいて財務省と折衝することができるかが焦点になる。LIFEについては「走りながら……」と、唱えながら何とか着地をめざす現状にあるが、もしこの3年間で十分な浸透と活用が叶わなかったとき、徒手空拳でマイナス改定の波と戦うことになるだろう。

厚労省だけでなく、介護業界として自らの価値の証明にどう向き合っていくのかが注目されるところだ。(『地域介護経営 介護ビジョン』2021年6月号)

あきのたかお(ジャーナリスト)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。

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