介護業界深読み・裏読み
続くコロナ禍、ワクチンも財政支援もない「籠城戦」

介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!

2月に入って、新型コロナウイルス感染症の感染者数が激減した。緊急事態宣言下で市民の行動変容が生まれたことによる成果だと見る向きもあるが、実際はフリーキャスターの辛坊治郎氏が指摘するように、「今年に入って政府は、保健所による濃厚接触者の全数調査を諦め、高齢者などハイリスク者中心の検査に改めた。結果、感染者の多い若年層の陽性者が減って『感染者数』が激減した」というところだろう。筆者も複数の行政関係者から同じ内容の話を聞いている。辛坊氏が「陽性率が減った一方、陽性者の中の高齢者比率が高くなったのはそのため」と解説するように、逆に言えば無症状の若者層をフォローする仕組みがなくなった。そのことによって感染リスクはさらに潜伏し、予防の困難性は一層高まったと言える。介護施設・事業所における感染事例は減るどころかますます頻繁に見聞きするようになっている。もうすぐ春を迎えるが、気温や湿度が上昇して感染状況が一定の落ち着きを見せれば、あれこれ紛れていくに違いない。しかし少なくともそれまでは、介護事業者は自衛を徹底するしかないというのが実情だ。

介護労働安定センターが2月8日に公表した「令和2年度介護労働実態調査(特別調査)『新型コロナウイルス感染症禍における介護事業所の実態調査』中間報告」では、介護分野における昨年末時点での状況が報告されている。感染多数地域(北海道、東京、愛知、大阪、福岡)においては、実に4割以上の事業所で「事業所内外に感染者や疑いのある方がいた」と回答しており、その不可避性がうかがえる。そのうち最も高い割合を示したのが「利用者に感染の疑いがある方がいた」(18.7%)、次いで「利用者の方が感染した」(12.2%)ということであり、介護施設・事業所に新型コロナウイルスが入り込むことがすなわち重症化リスクに直結するということが見てとれる。

こうした状況を踏まえて政府は、やはり2月に入って「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」を変更。1都3県をはじめとする10都府県における緊急事態の延長とともに、「医療・介護従事者、入院・入所者等関係者に対し、今後はPCR検査のみならず、抗原定性検査やプール化検査法など幅広い検査の実施に向けた取り組みを進める」「感染多数地域における高齢者施設の従事者等の検査の集中的実施計画を策定し、今年3月までを目途に実施するとともに、その後も地域の感染状況に応じ定期的に実施するよう求める」こととした。感染をいち早く小さな火種の段階で発見し、拡大を防ぎたい意向だろうが、スクリーニング検査は基本的に抗原定性検査で行うこととしており、PCR検査に比べて正確性に劣る。十分なピックアップができるかと言えば心許ない。体裁は整えるものの実際はワクチン頼りという政府の本音が見え隠れする。

一方でワクチンだが、2月14日にファイザー社のものが国内でも特例承認され、いよいよ本格稼働が目前となった。介護施設においても接種予定者(従事者含む)のリスト提出などを経て、4月を目途に証明書発行を受けるなど手続きに追われることになる。問題となったのは優先接種の対象となるサービス種別だ。大別すると「介護保険施設」「老人福祉法による施設」「居住系介護サービス」「高齢者住まい法による住宅」となっており、いわゆる在宅系サービスは含まれていない。

これに対して1月半ば、日本介護福祉士会が起こしたアクションに全国老人保健施設協会や全国老人福祉施設協議会等が追従、最終的には8団体連名で「在宅系サービスもワクチン優先接種の対象に含めるべき」とする要望を行ったが、官邸側から却下されている。事情を知る関係者は「当初は在宅系サービスも含まれる見込みだったが、方針が変わった。却下はワクチンの絶対量や効率性を考慮した菅義偉首相周辺の意向」という。それを受けて、全国介護事業者連盟も広範囲に要望活動を展開し、せめてクラスター発生リスクの高い通所系サービス、短期入所系サービスだけでも加えるべきと求めているが、2月半ば時点で答えは出ていない(3月に入って、自治体裁量により可能とする動きが出てきた)。

感染が発生すれば、事業収益への影響も大きい。前述した介護労働安定センターの調査で、2020年3~5月の対前年比事業収益で、感染多数地域では約半数の事業所において影響があったとしており、そのうちわずか(1.7%)ではあるが「50%以上の減少」と答えている。

こうした状況にさらなる財政支援を求める声は根強いが、ある与党幹部は「介護報酬もプラスにしたばかり。これ以上の財源を求めることは逆効果」と消極的。ワクも財政支援も届かない介護事業者は、言わば後詰の来ない籠城戦を強いられるかたちだ。
ある施設長は「暖かくなれば感染も落ち着く。それまで待つしかない」とこぼす。これまでになく、待ち遠しい春となった。(『地域介護経営 介護ビジョン』2021年4月号)

あきのたかお(ジャーナリスト)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。