介護業界深読み・裏読み
2021年も予断許さず……ベストを選び続ける目を

介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!

緊急事態宣言が再発令された東京で原稿を書いている。なるほど夜の飲食店は閑散としているように見えるが、一方で通勤時間帯でも、多少気の利いた快速などでは相変わらず乗客を押し込んでようやく発車できる様子は従前と変わらない。最初の緊急事態宣言では手洗いや消毒の徹底、マスク着用による飛沫の防止などを「新しい日常」として定着させようとする姿勢が共有される機会になったが、2回目では菅義偉首相の会見のあいまいさなどからいかにも20時以降に一定以上の人数で会食したり、不要不急の外出をしたりすることさえ避ければそれで良いというニュアンスが広がり、「門限を守る」こと以外に何を制約されたのかいまいちわからないという声が多かったように思う。

そうしたなかで当然ながら宣言すなわち感染縮小につながるということにもならず、初の大台超えとなった大晦日(東京での感染者1337人)から引き続き新型コロナウイルスが猛威を振るう2021年のスタートとなった。

介護施設・事業所においても感染事例は頻発している。東京都が1月14日に発表したところによれば、昨年12月までに発生したクラスターは641件に及び、そのうち90件が高齢者介護福祉施設だった。クラスターまでいかないまでも施設・事業所内で感染発生したケースとなれば数えきれない。都内のある介護事業者は「感染拡大に対応が追いつかない。ようやく予防については自治体などから支援が受けられるようになったが、感染発生時に職員・利用者を全員PCR検査するのは自前。クラスター化したときはもっとかかるのも確かだが、全員分となると何百万円単位になるため踏み切れない。かかり増し経費として請求できるというが、自治体によっては1回限りの請求しか認めず、実際には使えない」と語る。感染拡大を防止する施策は不十分と言わざるを得ない。

また、一時期コロナ禍で他産業から人材が流入するという見方が広がったが、これも介護業界全般を見れば必ずしも見込み通りとは言えない。独立行政法人福祉医療機構が昨年12月に公表した「2020年度 特別養護老人ホームの人材確保に関する調査について」によれば、累次にわたる処遇改善とコロナ禍における全産業の有効求人倍率の低下により、「直接処遇職員の充足状況については64.1%(608施設)が不足していると回答しているが、不足している割合は前回に比べて8.9ポイント低下している」という。しかし実際には、複数の介護事業者から「うまくやっているところもあるが、少なくともうちにはまったく恩恵がない」という声が絶えず届いている。秋口あたりから人の動きが出てきたように感じてはいるが、同時に法人のブランドや地域性、取り組み次第で勝ち負けが顕著に出てきているようだ。

さて、そのようななか、1月18日に開かれた社会保障審議会・介護給付費分科会で、2021年度介護報酬改定による新単価が明らかになった。コロナ禍の影響が顕著だった通所介護は7~12単位と微増。通所リハが数十単位で手厚く処遇されたことを思えばやや物足りないところ、新たな加算を戦略的に取得できるかどうかで明暗が分かれそうだ。施設系は、特別養護老人ホーム(以下、特養)や介護老人保健施設(以下、老健)で約15単位増。100床なら年あたり540万円の増収となり、研修や業務継続計画(BCP)策定など感染症対策をはじめとしたさまざまな義務づけがされる手間を考えても納得感はありそうだが、予想に反してある老健関係者は「老健はコロナの影響で利用者の退所がうまくいかなくなっている。あと数年も続けば一部ではかなり経営が危ぶまれるのではないか。加算関係も現状維持では減収になる仕組みがいくつかあり、舵取りが難しい。春先以降、プラス改定の効き目を疑問視する声も出てきそうだ」と嘆く。ある特養の施設長も、「額面で一喜一憂できない。CHASEに対応できるかどうか次第」と慎重だ。

年末年始、SNS上では多くの介護関係者が2020年の苦労を労い合う姿が見られたが、2021年も変わらず、コロナへの水際対策、先の見えない人材獲得競争、そして現状維持を許さない介護報酬改定と、予断を許さない状況が続きそうだ。いくつにも分かれる選択肢から、ベストを選び続ける目が問われる。(『地域介護経営 介護ビジョン』2021年3月号)

あきのたかお(ジャーナリスト)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。