介護業界深読み・裏読み
結果ありきの小幅改定で
「問われる」介護業界の意義

介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!

この原稿が掲載される頃には、令和3年度介護報酬改定は大詰めを迎えている。もう間もなく改定率も出ようかというタイミングのはずだが、小幅だとかマイナーだとか言われてきた今回の改定議論が、介護業界にとって歓迎できる結果に着地することを期待している。

さて、原稿作成の段階では、10月9日と15日の介護給付費分科会が直近になる。特に9日の分で、今後の介護業界の方向性を大きく左右しかねない議論が淡々と行われた。ロボット・ICTの活用を前提としたグループホーム(以下、GH)の夜勤配置見直しだ。

そもそもGHにおける夜勤配置の課題は、報道などでも大きく取り上げられた火災による死亡事故などを受けて、日本認知症GH協会側から2011年に「夜勤に起こりうる事故や災害の発生などを考慮すれば、1ユニット1夜勤体制は是非とも位置付けなければならない」として要望書を提出、翌年の改定で要望通り改められたことに端を発する。以来9年間で原則すべてのGHでスプリンクラーの設置が義務づけされたことや、急速に社会問題化した介護人材不足、昨今のロボット・ICT導入の風潮を踏まえ、日本認知症GH協会自身の要望もあり「2ユニット1夜勤」への緩和が検討された。

今回の介護給付費分科会では、結果として緩和に反対する意見が大勢を占めることとなった。最大の反対者は日本医師会の江澤和彦委員。医師会としてというより江澤委員自身が「ケアの質低下」を懸念して強くこだわり、当初は賛成していた他団体も後退した。
決め手となったのは、同日示された資料で、実に7割以上の事業所が「1ユニット1夜勤」を支持する調査結果が明かされたことだろう。それまでの「ケアの質」と「生産性の向上」という空中戦が、いきなり実体をもって結論づけられたようで、現場のニーズは明らかだったというところだ。一方で、それらをなお超えていけるような「ロボット・ICT」のボテンシャルを、現場だけでなく委員も感じていなかったことが読み取れた機会であったし、それは厚生労働省も同様だったということだろう。

今回却下された主な要因は「それでもやるんだ」という政府の姿勢の有無だった。そもそも前回改定で、介護分野においてロボット・ICTがそれだけでドラスティックに世界を変えるわけではないという結論は出ており、意図的な導入と運用が必要だ。ただ、そのためには政府の力強い誘導と事業者の意欲が不可欠。「ロボット・ICTと人員基準緩和」のファーストペンギンになるかも知れなかったGHだが、フォローの風は見た目よりも強くなかった。一方で、それでは人材不足をどうするのか、という議論は手つかずのままだ。

また、かねてから課題となってきたアウトカム評価の部分でも同様のことが言える。「科学的介護」はむしろCHASEやVISITに軸足が置かれるなかで、特にADL維持等加算の扱いが注目されてきた。どちらかといえば安倍政権下の官邸直下で方向づけされたものだっただけに、厚労省にはそれほど思い入れもない代わりに、風向き次第で調整弁になり得るものとして見ていた。そのため非常に小さな単価(6単位)で、ある意味で見直し前提の設定になっており、「取り負け」しないよう事業者から単価増の要望が出るまでは想定の範囲内。あとは匙加減というところだった。
こちらも一部で対象拡大を求められていたものの、概ね想定を超えず、今改定において、結局はVISITやCHASEの本格稼働まで場をもたせるためのものになった。

ある厚労省関係者は「コロナ禍は未曾有の危機。介護報酬もプラスは前提として考えなければならない。しかし、業界団体がまったくシリアスになっていない」「このままでは、プラスといっても色をつける程度になるかも知れない」と嘆く。来年度予算概算要求では緊要経費として「後出し前提+積み放題」のコロナ対策費が見込まれており、介護報酬微増と、たとえば先だっての緊急包括支援交付金のようなものがドンとつくのが「ありき」に見える。世間で小幅々々と嘱かれているのは、何としても勝ち取りたいという意欲の薄さと、ビビッドな政策や対案の欠如によるとしか言いようがない。勝てないときは勝てない。しかし、取れるものも取らないのはわけが違う。出されたものを〇×で考えるだけで、今後どうしていくのかを示せない「介護業界」と呼ばれる漠然した存在。そのものの意義が問われる改定となった。(『地域介護経営 介護ビジョン』2020年12月号)

あきのたかお(ジャーナリスト)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。