バトンをつなぐ 〜若きリーダーたちへ 人生100年時代の今だからこそ 価値観の変革が求められている

これからの介護現場を牽引していく若きリーダーたちに向けて、これまでの介護を支えた先人が贈るメッセージ。

困難を抱える人への思いが自身の歩みの原点

社会福祉法人小田原福祉会会長の時田純さんは、24歳のときに市役所で生活保護を担当するソーシャルワーカーとして社会人の第一歩を踏み出した。その後、60年以上も介護・福祉畑を歩み続けたのは、そのときの経験が原点であると振り返る。
「貧しい方々が、どれだけ苦労をしているのか。あるいは、世の中がどれだけ生きにくく、肩身の狭い思いをしているのかということを、骨身に沁みて感じました。困難を抱える人たちのために生きようと思い、その思いが今まで続いています」

当時、生活保護費は銀行振り込みではなく、支給日には市役所の窓口に取りに来なければならなかった。とある雨の日、子どもを背中に負ぶい、両手に女の子を2人連れた母親が来ている姿を見て、悲しさを時田さんは感じたという。
「廊下に並んでいる姿を見れば、生活保護の受給者であるということがわかるわけです。どれだけ辛い思いをして並んでいるのかと、考えさせられました。制度も運用するのは人ですから、思いやり、心遣いといったものをどのように制度の中に組み込んでいくのかを考えなければならないと、強く思うようになりました。心は見えないけれども、心遣いは見えますからね」

その後市議会議員を経て、1977年に社会福祉法人小田原福祉会を設立。特別養護老人ホーム潤生園を開設して、介護の道を歩むことになる。
「何のためにこの人生をかけていくのかを考えたときに、私の場合は社会福祉のために最後までソーシャルワーカーとしてありたいと思ったのです。ですから、90歳を過ぎた今でも、毎日現場に出ていますよ」と語る。

重度者への対応強化など新しい考え方が必要

2035年以降、要介護者の増加に伴い、就業人口の5人に1人が医療・介護サービスに従事するという推計も出ている。しかし、それは現実的ではないと、時田さんは話す。
「社会保障費が増大する懸念もありますので、今後は介護サービスも重度者を中心にして、需要を抑制していかざるを得ないでしょう。その一方で、そこから漏れた人が出てくることになりますので、制度自体は狭義の意味で薄く、広く支援する形にしていくことが望ましいのでは」

そのうえでは、意識変革も必要であると、時田さんは続ける。
「高齢者の病気というものは、ほとんど生活習慣病に起因しています。つまり、生活を変えなければ病気になってしまう。自分の健康は自分で守るという価値観に変えていかなければ、日本の社会保障は国民を幸せにすることができないと思います」

医師や医療に依存するような暮らし方は決して望ましいものではなく、むしろ介護予防やリハビリテーションなど、自分のもつ力を最後までどのように活かしていくのか、そこには介護の力が欠かせないという。
そのうえでは、専門性を追い詰めていく今の介護のあり方に警鐘を鳴らす。
「全人的なケアができる専門職が育たなければ、いくつもの複合的な要因があって発症する生活習慣病などのケアができません。部分ではなく、人を全体でみること、教育の部分からそのように変えていくことが必要です」

全人的なケアをしていくうえでは、学びが必要だ。
「若い人たちには、常に学び続けて欲しいですね。自分自身の人間力を高めていく努力は怠ってはいけない。歴史や海外から学ぶことも多くあります」と、時田さん。
時田さん自身、ヨーロッパを訪れて、福祉用具を修繕する店が当たり前のようにあるのを目の当たりにし、日本との違いに衝撃を受けたと振り返る。

新型コロナを事業のあり方を考える契機に

今回の新型コロナウイルス感染症の感染拡大について、「感染予防をしながら事業を行うなかで、多くのことが不要不急であるとわかったと思います。ですから、本当に必要とされる介護サービスを提供している事業者だけが生き残る社会になっていくほうが、これからの世の中は良いと思います」と強調。今回を機に、不必要な介護を提供していないか、自事業所の利用者のケアプランの見直しも必要ではないかと提案する。

加えて、今回クラスター感染などが発生した介護事業所を見ると、日頃の対応の不備が顕在化したのではないかと指摘する。非常時だからではなく、感染症対策は平時から意識をすることで、付け焼刃の対応にならず、何かあっても焦らずに済むというわけだ。

「普段から手洗いが励行されていない、清潔にしていないといったところは、非常事態であっても適切な感染症対策は行えない。普段の姿が勝負を決めてしまうというのが、鮮明になったと思います」と述べると共に、今後も気を引き締めて対策をとることが必要と締めくくった。(介護ビジョン 2020年7月号)

時田 純(社会福祉法人小田原福祉会会長)
ときた・じゅん●1927年、東京都生まれ。福祉施設士、社会福祉法人小田原福祉会会長、一般社団法人日本介護福祉経営人材教育協会副代表理事。1977年、社会福祉法人小田原福祉会を設立。「人は人として存在するだけで尊い」の理念のもと、利用者主体の介護サービスを展開している。