迫られる世代交代の波 ニチイ学館MBOの狙いとは? Part3
介護業界・経済界の事情通は語る 介護業界の巨人ニチイの現状と経営体制の未来

これからニチイ学館が変革していくとして、どのような将来が考えられるのか。介護業界や財界に通じたジャーナリストたちに、現状と将来を分析・展望してもらう。

経営陣の人間関係はどうなっているのか?

ニチイ学館という会社が、昨年亡くなった寺田明彦氏のカリスマ性により牽引されてきたこと、今回のMBOも寺田氏亡き後の事業継承と経営体制強化の一環であることはわかった。それでは今後、どのような方向に進もうとしているのだろうか。ここでは、介護業界の流れに詳しい事情通の話を伺いながら、ニチイ学館の今後について展望してみたい。
まず、今回のMBOには、経営者一族の確執があるのではと予測するのは、元シルバー新報編集長で介護福祉ジャーナリストの川名佐貴子氏だ。寺田明彦氏は、長男の大輔氏をまず後継者として育成していた。

「ニチイ学館は、上場企業ですが、体質は同族経営の中小企業と変わらない。順調に出世していた大輔さんを中国事業専従にした時はまるで追い出すようだった。明彦さんとの不仲が原因だったと聞いています」

代わって、社内では弟の剛氏が取り立てられていった。大輔氏が指揮をとっていた中国進出をはじめとするグローバル事業は不振。今回の退任はそうした事業の失敗の責任をとってのものとも考えられる。8日の発表では、大輔氏は副社長退任後も経営者一族として助言等の関与は行うものとされていたが、影響力が大きく減るかもしれない。

「遺産相続の話などもありますから、一族内での確執があれば、経営的には大きなリスクです。まず、それらを経営から排除しようと、森社長、大輔さん、剛さんとの間で合意になっても不思議ではありません」

経営の脱ファミリー化に向けた動きであり、大輔氏の副社長退任は、中国事業の不振の責任をとるとともに、自ら脱ファミリー経営のために身を引いたという見方もできるだろう。

企業としての強みを改めて活かす経営へ

脱ファミリー経営化を促進するという見方を、さらに強調するのが経済ジャーナリストの佐藤正敏氏(仮名)。雑誌や夕刊紙で企業の経営事情などをテーマに執筆活動を行っている財界の事情通だ。

「今回の発表前、寺田一族の資産管理会社である明和の株保有率は24・7%であり、それも含めた寺田一族の株保有率は44%でした。MBOを行うにあたって、経営陣とともに受け皿会社BJC-44を設立した米国の投資会社ベインキャピタルは、まず明和が所持していた株を取得しました。同時に大輔さん、剛さんを含めた寺田一族からは、TOBに協力するとの言質も得ています」と、佐藤氏は現状を説明する。米国の投資会社を引き入れてのMBOやTOBを仕掛けたのも、脱ファミリー経営を推進しているという姿勢を見せているともとれる。TOBが実施されて以降、ニチイ学館の株価は東証一部でストップ高をつけることもあり、好調である。そうなると、TOBが失敗する余地はなさそうだ。

ただ、米国の投資会社が入ったことで、「ニチイ学館自体が、海外資本の手に渡るのではないか」と危惧する声も業界にはあるようだ。米国企業も日本の医療・介護業界に参入を果たしたいが、現状では目立った形で日本進出は行われていない。さまざまな参入障壁があり、それを突破するには、法人・企業の買収が手っ取り早い。介護では医療よりも障壁は低く、かつても外資が市場に参入した例はある。ニチイ学館のようなトップ企業を買収できれば、日本での介護事業の展開は非常に容易になる。
だが、外資による買収話については、「米国の投資会社を入れて受け皿会社をつくったのは、MBOやTOBに慣れているからとも、将来的には海外資本への売却も考えているからとも言われます。ただ、現状ではどれも憶測の域を出ず、現状では何とも言えませんね」と、佐藤氏はいう。

一方、脱・寺田明彦を図ることは、現状のニチイ学館の経営陣にとっては重要であり、8日のMBOの説明資料には「故・寺田明彦会長」後を意識する文言が多く並んでいる。そして、今後の事業の柱を特に「医療関連」、「介護」、「保育」に定め、経営改革を図ることも述べられた。
「ニチイ学館はいろいろと手を広げ過ぎたきらいがあります。現在はこの3分野の事業のほかに、『ヘルスケア』、『教育』、『セラピー』、『グローバル』の4分野があります(図表1)。医療関連と介護は、超高齢社会ですから抜群の売上高や営業利益を誇っています。しかし、ほかの分野は… (残2647文字/全文4387文字/介護ビジョン 2020年7月号)


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川名佐貴子さん
かわな・さきこさん●元シルバー新報編集長。介護現場の取材経験も豊富な事情通。現在は介護福祉ジャーナリストとして自由な立場から発言

佐藤正敏さん(仮名)
さとう・まさとしさん●業界紙を振り出しに、鉄鋼、電機、金融、介護などさまざまな業界を担当した経済ジャーナリスト。現在はフリーで雑誌、夕刊紙などで活躍

鈴木隆明さん(仮名)
すずき・たかあきさん●財政、年金、社会保障や各種製造業に通じた某出版社所属の経済コラムニスト。マクロ経済学や哲学にも明るい