新型コロナでも安心して働ける介護現場をどう保証するか

今回は、介護事業者における、新型コロナ禍の人事マネジメントにフォーカスする。一部の事業者が始めた待遇の改善例や職員への情報共有などを通して、新型コロナ禍でも安心して働ける介護の現場はどのようなものか、その施策について考えてみたい。

新型コロナで職員激減人事待遇の再考を

緊急事態宣言が解除された日本だが、いまだに新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の拡大は止まらず、介護事業者の多くが感染防止策や感染者発生の際の利用者対応などに追われている。
一方、そういった現状でよく聞くのが「新型コロナ発生で職員の健康観察や欠勤が増え、人材不足となった」「職員の数が足りず、“介護崩壊”が起こるかもしれない」というような人事面の不安の声である。新型コロナの脅威は、介護事業所の労務環境をも問い直させる機会となっているのだ。
一部報道によると、全国で約70カ所の事業所(280施設)に感染が広がり、(日経ヘルスケア調べ)、入所者・職員の感染者は446人にのぼるとされている(うち39人は死亡/5月15日時点での厚生労働省発表)。

そういった状況下の5月、北海道札幌市の社会福祉法人札幌恵友会が運営する介護老人保健施設「茨戸アカシアハイツ」で92名(入所者71名・職員21名)の感染が発生。北海道最大のクラスター(集団感染)となり、大きな注目が集まっている。
そこで問題となったのが、新型コロナ禍での介護職員の不足という深刻な状況である。というのも、同施設では一時、感染者や入居者に対応する職員が足りず、「介護崩壊」間近という危機にも見舞われたからだ。同法人危機管理対策室広報の鶴羽佳子理事は、次のように実状を話す。「確かに、4月末から5月初頭にかけては職員が足りず、切羽詰まった状態でした。看護・介護職合わせて34名の配置基準のところ、全員で11名しかいない状況。その人数で約90名の利用者を看ているので、非常に厳しかったですね」
長く常態化していた人材難に加え、自分が高齢者に感染させてしまう危険性や感染の不安から職員の欠勤が相次いだことが原因だった。「家族から働くことを反対された職員も多く、苦渋の選択で休まざるを得ない職員もいました」と鶴羽理事。

同施設の最初の感染発覚は4月26日。だがそれからも「1日10人以上のペース」で陽性者が判明。それと同時に職員も欠けていき、一時は、法人所属の看護師がいなくなり介護職も6名のみとなる事態を迎えてしまう。その穴は、法人の別施設の看護課長クラスや相談員、または事務長や総務課長までも介護に入る体制で埋めていった。「感染者がどんなに出ても入居者様のため、事業の継続は必須でした。色々な知り合いにも応援を頼み、行政も尽力してくれたので、日頃の連携の重要性を痛感しました」と鶴羽理事は振り返る。

一方、管轄の北海道や札幌市なども、全国老人保健施設協会や北海道老人保健施設協議会などの業界団体に応援を要請。官民一体で緊急事態に向き合っていった。札幌市高齢保健福祉部高齢福祉課の足立広亮課長は、「恒常的な介護人材の不足に加え、感染者発生での風評被害が重なり、職員の確保が滞ってしまいました。札幌市としても継続的な支援の必要性を感じています」と話す。
現在、同施設では、看護職17名、介護職30名が勤務。職員数は感染発生前とほぼ同数に戻り、配置基準より手厚い体制だ。とはいえ、同施設で起こった事態は、図らずも「新型コロナ禍に介護職員を安定的に確保すること」の難しさを浮き彫りにした――。

介護現場などで働く看護師で、ボランティアナースの全国組織キャンナスを率いる菅原由美代表は、新型コロナ禍の職員の現状についてこのように警鐘を鳴らす。「新型コロナという“見えない敵”の中で働く看護・介護職には、相当なストレスがかかるでしょう」
そして、そういった状況の中で重要視すべきは、「現場のリーダーの強い決断力」なのだという。「職員の不安が募る時にこそ、施設長や医師などの現場の長が強いリーダーシップで職員の不安を取り除くことが重要なのです」と強調する。以下に実例を見ていこう。

新型コロナの情報を職員と共有
施設長の采配が活きる

千葉県八千代市の社会福祉法人清明会が運営するケアハウスくつろぎの里は、新型コロナ発生後、施設長が迅速に指示系統を一本化、人手不足の中でも情報共有や職員の采配などで、介護崩壊を免れることができた。
同施設では4月12日に最初の陽性者が発覚。その後、入居者6名と併設デイサービス利用者2名という集団感染が判明。デイサービスなどは事業停止となった。しかし、そのような状況下でも職員が安心して働ける方策を次々と講じていったのだ。

まずは情報共有として、陽性者や体調不良者の状況、その他の入居者の情報をホワイトボードに列記し、職員がいつでも一目で見られるよう体制を整えたという。また、毎朝の朝礼で、保健所などから得た新型コロナの最新情報を伝達。発症前後の感染のリスク、防護服の脱ぎ着の際の注意点なども細かく職員に伝えた。「指示系統のトップである施設長が常に職員の見える位置にいて、いつでも相談に乗れるようにしました。また、陽性者やPCR検査対象者を担当する職員を固定し、他の職員はその他の入居者の支援に集中する。そういった体制をつくったことも良かったのかもしれません」と早川勇夫施設長は説明する。

だが、ここでも人員の状況は厳しかった。感染者発生後、職員の欠勤が相次ぎ、一時、介護職の数は通常の1/3の数に。法人内の他事業所からの応援や在勤者のシフト調整で業務をつないでいき、なんとかことなきを得たが、やはり人材不足の感は否めなかった。しかし一方で、この未曾有の事態を前に職員が「入居者のため、事業を止めるわけにはいかない」と団結してくれたのだという。職員は、保健所の指導を受け、防護服を着て施設から病院へと感染者を送迎するなど、難しい対応も遂行した。そうした幅広い対応で急場をしのぎ、集団感染発覚から3週間ほどで通常運営に復帰できたという。
「この事態を乗り越えられたのは、日頃、職員間のコミュニケーションを大切にしてきた成果だと思います。利用者家族や地域の方からの励ましもあり、施設が一丸となることができました」と早川施設長は感謝の気持ちを述べる。

新型コロナ禍の人材不足に対応
働く職員にも手当

新型コロナ禍で働く職員を賃金などの処遇面で支える事業所もある。
株式会社学研ココファンでは、運営する高齢者向け住宅やデイサービスなどで感染者が発生。そうした実状に伴い、職員に対する「新型コロナ罹患者発生対応プロセス」を作成している。そこでは、感染者が発生しても、保健所などと協議のうえ、できる限りのサービスは継続する前提で、ブロック(エリア)ごとに「緊急応援」に出られるスタッフが策定されている。健康観察で休まざるを得ない職員が出る事態なども考え、残りのメンバーに負担がかからないよう考慮されているのだ。

ケアハウスくつろぎの里では介護職員が団結。防護服の着方などを研修して身に着け、実際に陽性者を病院に送迎した。

賃金面においては、感染者が発生した施設に出勤する職員に対して「防疫手当」を計上。また、感染者発生による事業所の業務停止により自宅待機になった職員などには、「会社都合による休業」として休業手当(平均賃金の6割以上の手当)を支給している。また、本人の希望により欠勤期間を有給休暇とすることも承認するなど、臨機応変な対応を心がけている。「弊社はこれからも、職員の感染症知識を深めるための研修の実施など、職員の安全を保つ方策を順次とっていくつもりです」と経営企画部の西尾彩さんはいう。