“その人らしさ”を支える特養でのケア
第34回
郷土食をスタートして1年
目先を変えるエッセンスになっています

外出する機会が減っている高齢者施設において、施設内での生活に変化を与えるものの1つが行事食です。 昨年から取り組んでいる「郷土食」は行事食のなかでも人気が高いと感じています。

行事食の1つとして昨年から郷土食をスタート

今年は「外出自粛」や「ステイホーム」と毎日のように耳にしますし、コマーシャルなどでも「自宅で過ごしている」演出が目立ちますね。何となく遠出するのも気が引ける……と感じる方も多いのではないでしょうか。
当施設でも、大勢での集まりはもちろんですが、外出を伴う行事も中止しています。春の花見や秋の紅葉ドライブなど、施設の外に出ることはご利用者の気分転換の1つ。今は園庭の散歩が唯一の外出となっており、個人的には寂しく感じています。

ご利用者の皆さんがテレビの旅番組などで行楽地を見て「いいね」、「きれいな景色だ」などとおしゃべリしているところを見ると、普段から外出が難しい皆さんは、すでに別の楽しみ方を見つけているのだなぁ、と思います。

給食の行事食もご利用者の皆さんには変化の1つ。毎月1回は行事食を提供できるよう工夫していますが、暦の上の行事がない6月と10月は毎年悩みの種でした。もともと、10月はハロウィーンのおやつを提供していましたが、ご利用者にはハロウィーンが浸透しておらず行事らしさに欠けていました。

また、施設の開所当時からさまざまに形を変え発行してきた「給食だより」(現在は「旬の献立カレンダー」)で献立の紹介をしてきましたが、そのなかには「○○県の郷土料理」や「○○国の料理」などと紹介することもありました。その時に郷土料理のおもしろさを感じたこともきっかけとなり、昨年から行事食の一環として「郷土食」の提供を始めました。

「郷土食」といっても、地元の料理ではなく日本各地の名物や伝統食、時にはB級グルメなどです。
各地の郷土料理はその土地の特色や食文化を反映しています。郷土料理を紹介するホームページを頼りにさまざまなレシピと出会い、給食に出すかどうかよりも個人的な興味が先に立ってしまい、仕事が進まないのが悩ましいところです。

郷土食の提供は6月と10月の年2回実施していますが、6月は西日本、10月は東日本のものとテーマを決めています。
せっかくだから目先の変わったものを、と思えば特徴的な料理になりますし、かつ給食にアレンジできるもの、となると制約も多いのですが、各県の公式ホームページをはじめ市町村やJAのホームページなども参考に献立とレシピを選んでいます。
献立の候補を決めたあとは、実際に調理する厨房側と擦り合わせを行います。
普段の献立の手順で材料を変更するだけのものから初挑戦のものまでさまざまですが、参考レシピとそこから得た自分のイメージ、さらに実際の調理手順を想定して擦り合わせ、提供可能であるか検討しています。普段は扱わない食材や価格的に手に入らない食材が出てくるのも郷土食ならではの悩みですが、手に入るものを使ったアレンジを厨房責任者とともに検討し、調理師も出来上がりや調理手順をイメージできるようにしています。厨房との摺り合わせが終わると、献立担当者にレシピを送って月間献立に反映してもらい、献立作成は終了です。

余談ですが、普段も出来上がりのイメージはなるべく画像で提供するようにしています。ウェブサイトの画像から自分のイメージに近いものを選び印刷したりスマートフォンで見せたり……と、なるべく具体的に伝えるようにしています。まれに、食事時のユニットで配膳済みのお膳を見て「今日の献立って何だっけ?」と思うことがあります。そんな時は「出来上がりのイメージが伝わってなかったなぁ」と反省するのです。

普段の行事食よりも利用者の目を引く効果が

さて、毎月末に翌月の「旬の献立カレンダー」を作成しています。郷土食の月はどこの料理か、特徴や由来、普段食べているものとどこが違うのかなどのコメントを入れ、各ユニットに配布しています。また、当施設では毎日昼食の献立を全館放送(事務員が担当しています)しているのですが、その際に「今日は○○県の郷土料理です」と紹介しています。この放送により、提供当日のユニットでは献立の内容やその土地の話題などが食事時の会話のきっかけになっているようです。

昨年の様子から、ご利用者に好評だったメニューは「とんこつラーメン」。醤油ラーメンは通常の献立でも時々提供しているのですが、特に男性に人気で、今年の6月にも郷土食メニューの一環として提供しました。
今年新しく取り入れたメニューは「つけあげ」。鹿児島県のさつま揚げです。普段食べているさつま揚げは白身魚が原料ですが、つけあげはイワシのすり身に多めの砂糖、と新潟ではなじみのない取り合わせが新鮮でした。また、和歌山県の「かきまぶり」というちらし寿司は「田植え休みのごちそう」という紹介文に興味を惹かれ採用。当施設のご利用者は農業に従事されていた方も多く、昔を思い出すきっかけにしてほしいと感じたからです。野菜の具材を中心にした素朴なちらし寿司ですが、錦糸卵の黄色と紅しょうがの赤が鮮やかで介護職員からも「見た目がきれい」と好評でした。もちろん、どちらも味がよく、本場のものものも食べてみたい!と私の「腹の虫」が鳴いています。
この号が発売される頃には10月の郷土食提供が始まります。東日本の郷土料理として北海道の三平汁や秋田の稲庭うどんなどを予定しています。

行事食の一環としてスタートした「郷土食」の提供ですが、普段の行事食以上にご利用者の目を引き、また厨房側のモチベーションにもつながっているように感じます。季節の節目を感じる行事だけでなく、目先を変えるエッセンスとして、さまざまな観点から行事食の提供に取り組んでいきたいと思っています。(『ヘルスケア・レストラン』2020年10月号)

横山奈津代
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る