【日本医療経営実践協会主催】給食部門の危機を乗り越えるための緊急セミナー
管理栄養士を病棟に出し栄養部門に新たなインカムを産み出す
3月27日、日本医療経営実践協会は宮澤靖氏(日本栄養経営実践協会 代表理事)を講師に迎え、給食部門の危機を乗り越えるための緊急セミナーをオンラインで開催した。テーマは「知っておくべき給食部門の経営管理」。当日は、医療経営士のほか栄養経営士、管理栄養士など約100名が参加した。
病院給食部門の改革は急務
管理栄養士の役割は?
食材費をはじめ物流費、光熱費等あらゆる分野での値上げが続く昨今、病院給食においても価格高騰への対応が大きな問題になっている。
日本医療経営実践協会では、医療経営の現場における病院給食についての関心の高まりに応えるべく、日本栄養経営実践協会 代表理事で東京医科大学病院 栄養管理科 科長を務める宮澤靖氏を講師に招き、今回のセミナーを開催したという。
宮澤氏はまず、入院時食事療養費が20年以上据え置きになっている現状にふれ、病院給食については全面委託・一部委託・直営のすべての形態で収支差額がマイナスになっていると報告。
「このままでは適切な栄養サポートの質の継続、という根本的なところが壊れてしまうのでは」と述べ、病院給食部門の改革が急務であるとした。
続いて病院における管理栄養士の配置について言及し、病床数が大規模になるほど50床あたりの管理栄養士数が減っているというデータを示したうえで、医療従事者への病棟専任管理栄養士に関するアンケートを紹介。
管理栄養士の病棟配置に対して、医師、看護師のほとんどが「よい」と答えており、その理由として「食事に対する満足度が向上する」「チーム医療の実践につながる」が多いとし
「管理栄養士は、『指導件数を増やす』『特別食加算を増やしたい』という目的で病棟に行こうと考えている人が多いかもしれないが、医師、看護師の視点でみるとそこは期待していない。管理栄養士の皆さまには、数字や件数を追いかけるのではなくクオリティを上げることに注力していただきたい」
と強く訴えた。
管理栄養士の病棟常駐に向けた体制づくりが重要
宮澤氏は2022年度の診療報酬改定にも言及し、まずタスクシフト・タスクシェアについて「単なる権限の譲渡、丸投げではタスクシフトにならない」と指摘し、職種間における双方向の情報の共有化が不可欠だと強調した。
具体的な改定内容について「早期栄養介入管理加算」の見直しについては、それまでは経腸栄養を開始しなければ算定できなかったものが、入院後48時間以内に介入さえすれば250点取れるという二階建ての形になったことで、これまで算定できなかった4割程度の患者についても算定できるようになったと報告。
さらに特定機能病院として「入院栄養管理体制加算」の新設により、入院時・退院時それぞれ270点の540点が算定できるようになり、現在月に3000件程度の算定ができていると述べ、大きな収入増につながっていることを報告した。
しかし特定機能病院への調査では、昨年7月時点で「入院栄養管理体制加算」を算定している病院が全体の2割程度、今後も「予定がない」と回答した病院が24.4%に上っているという現状を紹介し、
「これでは特定機能病院から全病棟への拡大は難しい。収入面でも大きなプラスになることはもちろん、患者にとって必要な栄養管理を行うためにも管理栄養士は病棟に常駐しなければならない」
と強調した。
次に宮澤氏は厚労省の資料から「管理栄養士の業務イメージ」を示し「望ましい姿」として病棟配置型の管理栄養士が提示されていることに注目(図)。
管理栄養士に係る診療報酬は患者さんとコンタクトしないと算定できないようになっていることを改めて述べたうえで、
「管理栄養士が1日中厨房と事務所にいても1円も課金されないということを、医療経営士の皆さまにはぜひ理解してほしい。管理栄養士が病棟に出て、患者とコンタクトさせるという院内文化を作っていかなければ、あらゆるコストが高騰するなかで入院時食事療養費は上がらない、という状況を打破することはできない」
と主張した。
中央社会保険医療協議会総会(第496回)令和3年11 月12 日資料より
病院給食の打開策として、給食管理の徹底的な合理化と、臨床栄養管理と病院給食の連携強化をしていかなければならないと訴えた宮澤氏は、最後に管理栄養士の病棟配置が急務とし、診療報酬で方向性が示されてから動くのではなく、今から準備を進めることが重要であると強調。
そのためには給食の生産管理システムを改善、合理化することが不可欠であり、それこそが病院給食の打開策となるとして講演を締めくくった。
ビジネスパートナーである
委託給食会社とどう付き合うか
後半は事前に参加者から寄せられた質問に対して宮澤氏が回答。
「委託業者を選定する際の基準や注意点について聞きたい」という問いに対しては、
「本社のバックアップがどのくらいあるのかは、BCPの観点からも重要なポイントになる。また事業所のマネージャーと面談し、意欲的であるかどうかなど組織の風土や文化を知っておくことも大事」と述べ、
「価格の安さを前面に出してくるようなところもあるが、コストよりもクオリティを考えるべきではないか」
と価格優先主義になりがちな現場の風潮に一石を投じた。
「委託業者からの値上げの要請にはどの程度応えるべきか」という質問には、
「数字のエビデンスとなるデータを出してもらうことが大事。それがなければ評価のしようがない。
しっかりとしたデータをもとに、食材費が従来と比べてどのくらい高騰しているのかをみたうえで適正な価格であれば、希望通りに応えればよいのではないか。
委託給食会社はビジネスパートナーであり、お互いがWin-Winにならなければならない」
と話した。
セミナー終了後のアンケートでは、
「いろいろなデータも含めてご教授いただき、現状を理解することができた」
「病院給食という観点においても管理栄養士が病棟に出向く必要性を感じられた」
「次期改定に向けて今から準備をしなければならないことが理解でき、病院の管理栄養士が少しでも病棟で患者様のために多職種と連携しながら栄養管理に特化していただきたいと思った」
などの意見が聞かれた。
日本医療経営実践協会では、今後も日本栄養経営実践協会や日本介護福祉経営人材教育協会等と連携しながら、医療・介護・栄養の分野を超えた取り組みを行っていく予定だ。
(『月刊医療経営士』2023年5月号より編集の上掲載)