医学切手が語る医療と社会
第2回(確認用)
新型コロナウイルス感染症に関連する切手
―切手を通して見る国際的連帯と公衆衛生

郵便切手は、郵便料金を前納で支払った証として郵便物にはる証紙であるとともに、郵便利用者に対しアピールできるメディアであるという側面も保持しています。この連載では、医療をモチーフとした切手について、そのデザインや発行意図・背景などを紹介していきます。

はじめに:新型コロナウイルス感染症対策と切手

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、2020年以降、私たちの日常生活に大きな影響を与えました。その中で、各国はさまざまな形で感染予防や医療従事者への感謝、ワクチン接種の重要性を国民に訴えかけました。メディアやSNSが日々新しい情報を発信する中、切手という小さな紙片もまた、これらのメッセージを伝える手段の一つとして活躍しました。

切手は、郵便物に付けられるシンプルな道具でありながら、そのデザインやメッセージには大きな意味が込められています。新型コロナウイルスに対する対応では、各国が独自のテーマを掲げた切手を発行し、感染防止策を広めたり、医療従事者への感謝を表現したりする役割を果たしました。
これらの切手は、日常的な郵便の一部として国民に直接手渡されるため、非常にパーソナルかつ広範なメディアとして機能しています。

たとえば、ある国ではマスク着用の重要性を訴える切手が発行され、別の国ではワクチン接種の呼びかけをテーマにしたものが発行されました。それぞれの切手は、その国の社会的な文脈や公衆衛生の取り組みを反映しており、単なる郵便料金の支払いツールではなく、社会へのメッセージを伝えるシンボルともなっています。
ここからは、各国が発行した切手についてそれぞれ見ていきたいと思います。

新型コロナウイルス感染症1: 中国(2020年発行))
―武漢から世界へ団結の呼びかけ

新型コロナウイルス感染症をモチーフにした切手1: 中国(2020年発行)

新型コロナウイルスの発生地である武漢を背景に、中国は2020年に「国民の団結」を呼びかける切手を発行しました。武漢はパンデミックの初期に最も影響を受けた都市であり、この切手には国民が一丸となりウイルスに立ち向かう姿勢が強調されています。
切手のデザインには、武漢市民の忍耐と団結の象徴が反映されています。

新型コロナウイルス感染症2: チェコ(2020年発行)
―マスク着用の啓発

新型コロナウイルス感染症をモチーフにした切手2: チェコ(2020年発行)

チェコでは、2020年には色とりどりのマスクが描かれた切手が発行されました。パンデミックが進行する中で、マスクの重要性が強調され、人々に対して日常的な感染予防の徹底が呼びかけられました。
この切手はもっとも基本的な感染対策の励行を求め、公共広告としての役割を果たした一例です。

新型コロナウイルス感染症3・4: バハマ(2020年発行)
―ソーシャルディスタンスと手洗いの重要性

新型コロナウイルス感染症をモチーフにした切手3: バハマ(2020年発行)
新型コロナウイルス感染症をモチーフにした切手4: バハマ(2020年発行)

1906年、オランダでは結核予防をテーマにした寄付金付き切手が発行されました。この切手には、当時結核の治療に有効だと考えられていた日光、水、大気、栄養を象徴するデザインが施されています。額面の倍の価格で販売され、収益は結核撲滅活動に使用されました。

バハマは、カリブ海に浮かぶ美しい島々で構成される国で、観光業を中心とした経済を支えています。2020年、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大する中、バハマでも感染防止策を国民に呼びかけるため、ソーシャルディスタンスと手洗といった感染症対策などをテーマにしたミニセット4種が発行されました。ここではそのうち2枚を紹介します。バハマは観光に依存しているため、感染予防策の徹底が特に重要視されたのかもしれません。

新型コロナウイルス感染症5: インド(2022年発行)
―ワクチン接種の推進

新型コロナウイルス感染症をモチーフにした切手5: インド(2022年発行)

インドは、2022年にワクチン接種をテーマにした切手を発行しました。世界的なワクチン接種キャンペーンの一環として、インド政府は国民に接種を呼びかけ、切手を通じてそのメッセージを広めました。ワクチンがパンデミックの終息に向けた最も有効な手段であることを強調するこの切手は、接種への必要性を説き、国民の参加を促すデザインとなっています。
なお、インドの切手には通常、ヒンディー語と英語の二言語が使用されています。これはインドの多様性を反映しており、一部の例外もありますが、切手における国名や情報はこの二つの言語で表記されることが一般的です。

新型コロナウイルス感染症6: リベリア(2022年発行)
―医療従事者への感謝

新型コロナウイルス感染症をモチーフにした切手6: リベリア(2022年発行)

リベリアは西アフリカの国で、19世紀にアフリカ系アメリカ人の解放奴隷が移住して建国されました。長い歴史の中で、内戦やエボラウイルスの流行など、幾多の困難を経験してきましたが、公衆衛生分野では特にエボラ対策で培った経験が、新型コロナウイルスへの対応にも大きく役立っています。同国では2022年に医療従事者に感謝を示す切手が発行されました。この切手は、パンデミック中に医療の最前線で活躍した医師や看護師、技師など、多職種の医療従事者を描いています。
さらに、デザインには医療従事者の肌の色の多様性が示されており、リベリア国内の多民族社会を象徴するものともなっています。この切手は、医療従事者への感謝を示すだけでなく、彼らの貢献を通じて国民の健康と安全を守った姿を表しており、国民全体の医療に対する感謝の思いを強く反映しています。

まとめ:切手に込められたメッセージと収益的側面

新型コロナウイルスのパンデミックは、世界が一体となって取り組むべき課題であることを感じさせました。各国が発行した新型コロナウイルス関連の切手には、それぞれの文化や状況に応じたメッセージが込められています。これらの切手は、感染予防策の啓発や医療従事者への感謝を表現するだけでなく、世界が一つに繋がり、共にこの危機に立ち向かう姿勢を象徴するものとなっています。
反面で切手が重要な外貨獲得手段になっている国は、1つの好機と捉えて新型コロナウイルスに関連する新切手を発行しているような事例もあります。このあたりとどう向き合っていくかは医学切手収集をする上で悩ましいところでもあります。
(2024年11月掲載)

医学切手研究会(日本郵趣協会)
医学切手研究会は、公益財団法人日本郵趣協会(JPS)の研究会の1つで、医療や公衆衛生に関連する切手を研究・収集している専門グループである。特に、医学的な発見や公衆衛生に対する啓発活動を目的とした切手の発行背景や、社会的影響を探ることに注力する。同研究会では、メンバーによる定期的な研究発表が行われており、医師や医療従事者、切手収集家が集まり、それぞれの視点から医学切手や関連する郵趣材料について考察している。また、機関誌「STETHOSCOPE」を年4回発行し、最新の研究成果や医学切手に関する情報を提供している。

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