【追悼】徳田虎雄理事長が語る!
病院経営と海外展開の根底にある理念・哲学
7月11日、徳洲会グループの創設者で医療法人徳洲会名誉理事長、元衆院議員の徳田虎雄氏が逝去されました。追悼の意を込め、『医療経営白書2013年度版』(日本医療企画)に掲載した特別インタビューを改めて掲載させていただきます。 ※インタビューは2013年8月13日実施、内容は初出時のもの
離島・ヘき地と途上国の医療に貞献することが使命
私の故郷は、鹿児島県・奄美群島の徳之島です。9歳のとき、病気になった3歳の弟を、夜中に医師に診てもらえず亡くしたことをきっかけに、医師を志しました。医師になってからは、「生命を安心して預けられる病院」、「健康と生活を守る病院」を経営理念に掲げ、年中無休・24時間オープンの病院をつくることが、自分の生きる道だと悟りました。徳洲会は「生命だけは平等だ」という哲学に基づき、「いつでも・どこでも・誰でもが最善の医療を受けられる社会」を目指しています。
2002(平成14)年にALSと診断され、今では手も足も動かず、自分の力では食事も呼吸もできません。しかし、頭はきわめてクリアです。ALSにかかったことによって、雑務をする必要がなくなり、かえって多くの病院建設プロジェクトに専念できるようになりました。これは天の恵みではないかと、今では考えています。
医療は患者さんのためにあります。富裕層のためだけの医療が横行している現状を情けなく思います。「いつでも・どこでも・誰でも」ということは、金持ちでも貧乏人でも、大都会でも離島・ヘき地でも、先進国でも開発途上国でも、同じ医療を提供するということです。
海外で医療を展開しているのは、日本国内の離島・ヘき地と同じように、開発途上国でも損得抜きで医療協力をすべきと考えているからです。途上国は国力が弱いため、日本はもっと医療援助をしていくべきでしょう。徳洲会の使命は、離島・ヘき地と途上国の医療に貢献することです。
徳洲会の海外での医療展開は、大都市圏での利益を離島・ヘき地に投入するという日本での経営方式の延長線上にあります。日本にもまだ医師不足に悩む地域はたくさんありますが、そういった地域に医師を配置するのは容易ではありません。一方、開発途上国には、医師はいるものの、医療設備が不足している地域があります。この場合、医療施設をつくれば医師を集めることができるため、意外とスムーズにプロジェクトを進めることができます。ブルガリアのソフィア徳田病院やブラジルの徳田虎雄心臓病院をオープンできたのは、そういったケースだったからなのです。
•「生命だけは平等だ」の理念・哲学を理解し、実践できるパートナーを見つける。
•徳洲会の病院経営のノウハウを各国で活かし、自立した経営で、永続的に存続できる体制をともに構築する。
•ます、国の中心都市に病院をつくり、そこで得た信用や利益を、その国の貧しい地域に活用する。
•病院経営は、第一に、理念を徹底することが大切である。
•病院経営は、第二に、医療技術、接遇の教育が大切である。
•病院経営は、第三に、数字合わせと節約(イニシャルコスト、ランニングコスト、金利を抑える)が大切である。
•海外での病院建設資金調達の三原則
①まず、国の予算や自己資金があれば、その資金でつくる。
②ODAや国際協力銀行からの融資でつくる。
③総資金の30%は出資金を募り、70%を低金利で借り入れてつくる。
•資金がある国には知恵とノウハウを提供する。
•資金のない国には、資金調達の助けをする。
病院経営における3つのポイント
海外展開においては、外国から1ドルも日本に持ち出すつもりはありません。利益を上げることが目的ではなく、「生命だけは平等だ」という哲学を世界に広げることが目的だからです。利益が出たら、その国の医療・福祉に遠元します。徳洲会の病院建設や医療機器購入のノウハウを提供し、世界各国の病院経営に協力していきたいと考えています。
海外での医療展開では、まず徳洲会の哲学や理念を理解し、実践できる政府要人や医師などのパートナーを見つけるところから始めます。そして、徳洲会の病院経営のノウハウを生かし、現地で自立した経営を行えるようにし、永続的に医療活動ができる体制を構築します。具体的にはまず、国の中心都市に病院をつくり、そこで得た信用や利益を、その国の貧しい地域に投じるといった流れです。
病院経営は、第一に経営理念を徹底することが大切です。真理に基づいた理念を明確にし、職員のモラルを高め、具体的な目標を掲げ、全職員一丸となって患者さんのための医療に徹するのです。徳洲会の職員は、毎日の朝礼で理念を唱和しています。これは海外でも同様です。ソフィア徳田病院では開院前、約130人の医師や看護師が来日し、徳洲会の理念を学びました。
病院経営にとって二番目に重要なのは職員教育です。医療技術・接遇の教育を徹底し、人間性の向上にも努めます。
第三は、数字合わせと節約です。病院経営にかかるイニシャルコスト、ランニングコスト、金利はできるだけ抑えるべきです。徳洲会では、国内の病院は国公立病院の2分の1~3分の1のコストでつくっています。国内の病院建設資金は、すべて銀行からの借入でまかなってきました。海外の場合は、①まず、その国に予算や自己資金があれば、それを充てる、②次に、ODAや国際協力銀行などから融資を受ける、③総資金のうち30%は出資金を募り、70%は低金利で借り入れる、という方針を掲げています。現実的にはアフリカ開発銀行、国際協力銀行、世界銀行などからの資金調達が多くを占めます。
原点に立ち返り、真の医療に徹底的に取り組む
資金のある国には知恵とノウハウを提供し、資金のない国には資金調達の手助けをするというのが基本姿勢です。開発途上国での医療展開によって、利益を上げるべきではないと考えます。日本の製薬メーカーや医療機器メーカーは営利法人であるため、途上国に進出してビジネス展開するのは構いませんが、非営利法人たる医療法人は金儲けのために途上国に進出するべきではありません。最近では医療を成長産業と言っているそうですが、私はそういった考え方は間違っていると思います。医療の原点は救急医療にありますが、日本の医療界はもう一度その原点に立ち帰り、真の医療に徹底的に取り組んだほうがよいのではないでしょうか。
徳洲I会は現在、救急医療から慢性期医療、予防医療、高度先進医療、さらにはゲノム(全遺伝情報)を活用したオーダーメイド医療、オンコロジー(腫腸学)、治験・臨床研究にまで取り組んでいます。今後も世界中に「生命(いのち)だけは平等だ」の哲学を掲げる病院をつくるため、仲間とともに全力投球していきます。
私の人生の勝負はこれからです。