Dr.相澤の医事放談
第73回
今こそ改革を断行し2040年の医療提供体制構築を

国によるガイドラインづくりが進められている「新たな地域医療構想」について、日本病院会の相澤孝夫会長は、「医療提供体制のビジョンが欠如しており、かつ、地域に求められる医療機能の整理が不十分だ」と危機感を募らせる。「失われた10年」がまた繰り返されないよう、今こそ改革を実行すべきと提言する。

新たな地域医療構想策定ガイドラインが取りまとめられていますが、どのようにこの国を守り、医療提供体制をどのようにしていくのかというビジョンが描かれていないことが問題だと感じています。
議論の多くは既存の「二次医療圏」が正しいという前提に立っていますが、その枠組みで医療を完結させることが困難な地域が出てきています。にもかかわらず、基本となる医療圏のあり方を放置したまま細部を調整しようとする姿勢は、根本的な解決から目を背けていると言わざるを得ません。

「二次医療圏ありき」では正しい回答は得られない

深刻なのは、都道府県の境界を越えた医療実態との乖離。たとえば岩手県の久慈医療圏では、救急搬送や手術が必要な患者の多くが隣接する青森県の八戸医療圏に依存していますが、行政上の区分は旧来のままです。現場の医師や住民が医療圏の一体化を望んでいるのであれば、都道府県が異なるという理由で「互いに話し合って決めてください」と突き放すのではなく、ガバナンスを発揮して医療圏を再編すべきです。加えて、現実に即して医療圏を再編しなければ、必要な医師数や医療資源の適正量を導き出すことは不可能です。

病院の「数」に固執する従来の考え方も改めるべきです。本来議論されるべきは「病院が一つ必要か」といった抽象的な話ではなく、「どのような機能を持つ病床が何床必要か」という具体的な中身です。現在の構想では「20万人から30万人の人口に対して急性期拠点機能を1拠点置く」といった設定基準が示されていますが、その病院が200床なのか1000床なのかといった具体的な規模感や、果たすべき役割の詳細は不明確なままです。今の姿を少しずつ変えようとするのではなく、将来の人口構造や医療需要から逆算して、病院機能と病床数を抜本的に整理し直すグランドデザインが不可欠です。

医療資源の最適化という観点では手術機能の集約化も避けては通れません。手術を安全に継続するには麻酔科医や専門の看護師、臨床工学技士といった多職種の人材確保と、多額の人件費や整備費を維持できるだけの症例数が必要です。40年に向けて働き手が減少の一途をたどり、地域の「需要」が減るなか、小規模病院があらゆる手術機能を維持しようとすれば、人的・財政的な共倒れを招き、医療費の無駄を増大させることになります。
一方で“何でも集約すれば良い”というわけではなく、どの程度の手術(全身麻酔を要するのか、局所麻酔で対応可能なのかなど)を地域に「均てん化」させ、どのような高度な手術を「集約化」するのかという明確な線引きが求められますが、現在の構想には、その具体的な指針が欠落しています。

「失われた10年」がまた繰り返される

こうした現状を打破するため、医療提供体制の抜本的な見直しを提案します。日常生活圏域で住民の日常医療(一般外来や在宅医療)を守る「日常医療圏」を確立し、関与する市区町村と医療機関が日常医療を守るという約束を交わし、都道府県に報告して日常の医療提供を進めていくべきです。また、入院医療が必要になった場合は入院医療を提供する病院が市区町村と都道府県を交えて協議体をつくり、提供する医療機能についての協定を結ぶ仕組みが必要です。

かかりつけ医機能の観点からは、地域型の病院はその機能を有する必要がありますが、急性期拠点病院のような病院はかかりつけ医機能は放棄し、紹介重点医療機関になるべきです。なぜなら、急性期拠点病院の役割は、地域の一般病院が手に負えない患者を病病連携で確実に引き受ける「バックアップ機能」にあるからです。市区町村と都道府県、地域の医療機関が話し合い、地域全体の医療提供体制を構築していくことが重要です。
当然、医療機関の集約化や集中化は避けられません。都道府県と国が地域の医療提供体制を維持できるように支援する仕組みをつくっていくべきですが、こうした整理が十分とは言いがたい。

国は現在、具体的検討を都道府県に委ねようとしていますが、担当者が数年で交代する都道府県に、ゼロからビジョンを描く能力を期待するのは酷な話です。国が責任を持って「2040年のあるべき姿」を提示して計画策定を進めるべきです。従来の延長線上の手直しを続けるだけであれば、再び「失われた10年」を繰り返すことに。
改革とは、摩擦を覚悟してでも、将来の国民の命を守るために断行されるべきものだと思います。(『最新医療経営PHASE3』2026年5月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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