Dr.相澤の医事放談
第71回
医療提供体制を再構築
2040年に向け正しい一歩を
日本病院会の会長を務める相澤孝夫先生は、これまでの医療改革を振り返り「失われた10年」と呼び、このようなことを繰り返してはいけないと声を上げる。2040年に向けて二重苦を背負う医療界において、医療提供体制の再構築に踏み出す。
医療改革の停滞は失われた10年
これまでの日本の医療改革は、数値を設定して物事を縛ろうとする手法が中心でしたが、結果として、現場では不必要な業務が生じるなど根本的な改善には至らなかったと思います。
2013年の社会保障制度改革国民会議では、25年を目安に社会保障を21世紀モデルに再構築する必要性が説かれていますが、あまり変化はないように思われます。私はこれを「失われた10年」と呼んでいますが、このようなことを繰り返していては、全くの徒労に終わってしまいます。
改革が「絵に描いた餅」で終わってしまう原因は、5年後、10年後の明確なビジョンが示されていないこと。本来、まずビジョンがあり、それに基づいて1年ごとの計画が設定されるべきですが、そのビジョンがないまま数値目標だけが設定されるために違う方向を向いてしまっていると感じています。なぜこれまで改革に至らなかったのか、その真の原因を分析する必要があると思います。
40年に向けて二重苦を背負う医療界
皆さんもご存じのとおり、わが国は25年から40年に向けて人口が急速に減少していきます。その一方で、高齢者は継続的に増加するという局面を迎えます。本来は15年から25年までの間に解決すべき問題でしたが、決着がつかないうちに、今度は働き手が急速に減少するという問題に直面し、医療界は今まさに、深刻な二重苦を抱えているのです。
特に、働き手の減少は極めて深刻で、医療提供体制を従来のまま維持しようとすると、看護師や医師の不足は避けられません。しかし、この問題は医学部の定員増や養成強化といった小手先の対策だけで解決できるものではありません。
今後の医療提供体制をどうするのかという根本的議論はもはや避けられないでしょうし、そうでなければ、40年にはより悲惨な現実が待ち構えていると思います。
抜本的な解決には、医療需要の量と質、そして、現在の医療提供のミスマッチを解消する必要があります。そして、限りある資源を有効に使い、適正な医療を国民が適切に受けられる体制をつくらなければいけないのです。
地域の医療提供体制を再構築すべきとき
地域に必要な日常的な医療とは、「いつでもかかれる外来」と「在宅医療」です。まずは、こうした機能について地域の医療機関に“担う意思”があるかどうかを問い、役割を明確に分担させるのが良いでしょう。
加えてもう一つは、そうした機能の「後ろ盾」となる専門的な治療を行う医療機関です。こちらは、紹介で受けて専門的な治療が終われば必ず地域に戻すという機能を持ち、日常的な医療を提供する医療機関と連携して対応します。これらの機能を持つ医療機関に対しては補助金などで支援することで多少の強制力を働かせるのが良いと思います。そうすることで、自然な淘汰も見込めるでしょう。
医療は重要な地域のインフラです。だからこそ、その改革については医療界内部の議論にとどまらず、国民や行政を巻き込んだ大きな転換が不可欠です。複雑怪奇になった医療制度をわかりやすくし、国民が政治を動かす原動力となるよう意識を変えていく必要があります。
また、市町村長や議員が医療を「病院任せ」にしたり選挙の道具としたりすることをやめ、地域の重要インフラとして真剣に関与することが求められます。
脂肪をそぎ落とす覚悟を
現在の日本の医療は「脂肪がついてダブついた状態」になっています。この脂肪を削ぎ落とし、筋肉質でスピード感のある「体制」につくりかえなければ、アジアのなかで医療後進国になってしまう恐れがあります。自由と平等の概念だけですべてを継続することはもはや不可能であり、どこで制限をかけ、どこでうまくバランスをとるかという「落としどころ」を、真剣に考えなければいけないのではないでしょうか。
26年は、40年に向けて正しい一歩を踏み出す1年にしなければなりません。批判だけでなく具体的な方法論を提示し、一般市民の理解を得ながら行動に移すことが、悲惨な未来を避ける唯一の道だと信じています。(『最新医療経営PHASE3』2026年3月号)
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

