医療経営士からの実践報告!病院改善ケーススタディー
適切な予算管理の実行で
慢性的な赤字体質から脱却

まったくの別業界から医療分野に転職した矢野恵美氏。財団事務局の経営企画室に所属し、慢性的な赤字体制からの脱却に向けたアクションを実行することになった。その取り組みと成果について、2024年の「全国医療経営士実践研究大会」福岡大会の演題発表より紹介する。

慢性的な赤字要因を洗い出し状況改善に向けアクション

私は、一般企業でアクセサリーやキャラクターの商品開発に携わった後に当法人に転職し、それまでとはまったく違う世界に飛び込むことになりました。入職後は財務課へ配属され、1年後には経営企画室を兼務することになりました。当時、当法人は慢性的な赤字が続いており、2017年には約3億円のマイナスを計上、一刻も早く赤字から脱却するための対策立案と実行力が求められていました。

赤字となっていた主な要因は2点あります。当時、法人本部が全病院の予算を作成していたために各病院の戦略が反映されず、予算管理本来の役割が機能していなかったことと、中長期計画や収入計画のないまま機器を購入したため設備関係費等が膨大になったことです。これにより医業費用が医業収入を大きく上回り、多大な損失となっていました。

こうした状況を改善するために経営企画室では、①管理会計の見直し、②新会議設置と予算の月次管理、③職員への情報公開――の3つのアクションを実行することとしました。

まず①については、本部が全体の目標利益率を設定し、それをもとに病院の目標利益額として割り当てます。各病院は、所属長や院長と連携しながら重点項目や収入・費用の設定、中長期計画を踏まえた戦略的な予算を策定します。
日々の業務と並行して緻密な予算を作成することは、現場にとっては大きな負担であったと思います。しかし「予算管理は法人全体の利益確保につながる」と説明を続け、徐々に理解を得ていきました。

②として、新たに「予算策定会議」を設置しました。各病院が作成した次年度予算を持ち寄って戦略や目標を共有し、内容の妥当性や病院間連携による収入の最大化について議論を行います。また、「予算管理会議」を毎月開催し、実績の報告と評価を継続的に行っています。予算管理を経営判断に直結させるために理事長・副理事長にも毎月参加してもらい、法人全体としての方向性を踏まえ、目標達成に必要な取り組みを重点的に確認する場としています。

予算の月次管理では、目標未達項目が生じた場合は経営企画室と各病院が改善策を議論して次月につなげるという「PDCA」を運用しました。しかし、次第に「質問に回答するために資料を作成する」ことが目的となるという傾向が見え始めました。そこで経営企画室では、病院がより主体的に目標と実績を追い続けられるよう独自のフレームワークSPOC(Strategically:戦略的に/Pursue:追求/Objectives:観察/Continuously:継続的に)を開発しました(図1)。

図1 独自のフレームワークSPOCを活用

SPOCは問題発生後の改善サイクルを中心とするPDCAとは異なり、病院が掲げた目標に対してアクションの実行→要因分析→次月への取り組みの再設定→を繰り返すことで、戦略的かつ継続的に目標を追い続けるという仕組みです。SPOCを積極的に活用できている病院は着実に成果が現れ、目標達成につながっています。

経営参画意識が高まり組織としての体制も強化

③は、全職員の経営参画意識を高めることを目的とし、毎日病床稼働率を更新するとともに、経営報告を毎月、公開しています。経営報告には全職員が現況を理解できるようまとめのコメントを添えています(図2)。公開当初よりデータ閲覧数は150%増となり、職員の関心が数字としても表れています。

図2 経営報告にコメントを添えてわかりやすさに配慮

SPOCの取り組みや会議での議論の積み重ねによって、次第に病院間で助け合い、補完し合う風土が形成されました。機能別の3病院を有するグループの特性を活かし、個々の病院では困難な状況でも全体として利益を創出する体制の構築に寄与できたと考えています。予算管理を開始した翌年の2020年度には赤字から脱却し、黒字転換を達成することができました(コロナ補助金は含めていない)。

物価高騰や人口構造変化など医療機関を取り巻く環境が厳しさを増すなか、経営企画室にはこれまで以上に継続して改善策を生み出していくことが求められています。
データ分析や課題の可視化に加え、現場とのコミュニケーションを大切にしながら常に新しい挑戦を積み重ねていくことが経営企画室の使命であり、存在意義であると考えています。(『最新医療経営PHASE3』2026年1月号)

社会医療法人加納岩財団事務局経営企画室
兼財務課副課長/医療経営士2級
矢野恵美さん

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