マネジメント カウンセリング・ルーム
Vol.18
朝令暮改?
ダーウィンに学ぶ病院経営

<今月のご相談>在院患者数の増減によって、院長からの指示が毎日出るのですが、「退院促進」と言われる日もあれば「在院患者維持」と言われる日もあります。「また方針が変わったの?」と病棟師長につめ寄られますが「経営管理上仕方ない」としか言えず、毎回、憂鬱です。

生き延びるため必要な“調整”
臨機応変が求められる

病院の収入は「診療報酬がすべて」といっても良いほど高い割合を占めます。「医療を提供して収益を得る」というモデルですから、患者数が確保できなければ経営は厳しくなります。外来機能や病床をフル活用して何とか利益を得られるような収支状況であることも事実ですね。そのため、必要な収益の確保のために「病床利用率○%」「在院患者数○人」といった目標値を定めている病院が多いと思います。

昨日は「患者さんのペースに合わせてゆっくり退院支援を」と伝えたのに、今日は「入院依頼が増えているからできるだけ早めに退院を」と方針転換。スタッフからすれば「話がちがう」と思うのは当然です。
病棟師長からも「現場は正直ゲンナリです。昨日は『ゆっくりでいい』と言ったのに、今日は『急いで』。“病院の方針”ってどうなっているんですか!?」と問われます。共感はするものの、目標達成のためには仕方のない部分もあり、現状を理解してもらうしかありません。

病床稼働率は80%を割れば経営が苦しくなり、95%を超えると現場が疲弊します。そのうえ救急車の受け入れ要請もあり、地域の医療機関としての役割も果たさなければなりません。病院経営は、まさに細い網の上を渡っているようなもの。患者受け入れ方針の変更は“気まぐれ”ではなく、病院が生き延びるための“調整”なのです。

とはいえ、現場にしてみれば「朝令暮改」と思えてしまいます。昨日は“のんびり散歩コース”だったのが、今日は“ジェットコースター・コース”。まるで遊園地のよう。実際のところ、患者さんの動向は季節によってある程度は読めますが、日々の動きは天気のようにコロコロ変わります。だからこそ、臨機応変な対応が求められるのです。

迷走ではなく「適応」
状況に応じた柔軟な戦略を

大事なのは、「なぜ今この方針なのか」を一言でも添えること。「今週は入院依頼が多いので早めに退院をお願いしたい」「来週は落ちつく見込みなので患者さんとじっくり向き合えます」。背景がわかれば、「また振り回された」ではなく「必要な判断なんだ」と受け止めやすくなります。そして現場にも、ちょっとした気持ちの切り替えが必要です。繁忙期にはチームワークを発揮し、落ちついているときには忠者さんとの関係を深める。彼に合わせてモード変更ができれば、病院の強みにもなります。

病院は安定した工場ではなく、むしろ、コロコロと変わるお天気や地域のイベントスケジュールを見ながらお弁当の数を調整する店舗のようなもの。晴れの日もあれば嵐の日もある。方針変更は天気予報のようなものなので、昨日と同じ空模様とは限らないのです。
病院における日々の病床管理方針の変化は、迷走ではなく「環境に合わせた適応」です。経営側は理由をわかりやすく伝えること、現場側は柔軟に受け止めること。その両方があってこそ、病院は波を乗り越えていけます。まるでサーフィンのように、大きな波も小さな波もバランスを取りながら前に進んでいくのです。

進化論を唱えたダーウィンは、「生き残るのは最も強いものではない。最も賢いものでもない。環境の変化に最もよく適応したものだ」という言葉を残しています。“朝令暮改”と聞けば否定的な響きがありますが、環境に適応するための戦略と考えれば意味は変わってきます。今日はパターンA、明日はパターンBなど、状況に応じて柔軟に対応する「選択制」だと思えば、少しは気分も楽になるのではない
でしょうか。
ダーウィンに学び、変化を受け入れ、波を乗りこなしながら進んでいく――。それこそが、病院の生存戦略なのかもしれません。(『最新医療経営PHASE3』2025年11月号)

いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民問企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に「医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」「経営企画部門のマネジメント」(ともに日本医療企画)ほか

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