Dr.相澤の医事放談
第65回
日常・地域・広域の3医療圏で
地域の安全・安心な暮らしを守る
日本病院会の会長である相澤孝夫先生は、病院経営が厳しい状況を迎えるなか、わが国の医療は正念場を迎えていると危機感を強くする。そのため、国がガバナンスを発揮し、地域の将来の人口構成を考え、地域に適切な医療を提供するために3つの医療圏を設定するなど、今後の病院のあり方を強く示すべきだと訴える。
地域における将来の人口構成を考え行動を
病院経営が厳しい要因の1つに物価や人件費の上昇がありますが、病院医療に対する診療報酬という「評価」がきちんとなされていないことが本質にあります。入院基本料が10年間基本部分が上昇していないばかりか、医療材料のうち、診療報酬で点数がついていないものが全体の材料費の約四十数%を占めていること、病院の機能によって費用構造が大きく異なること、さらに、1病院に勤める常勤換算の従業員数が増加している点を考慮する必要があります。
こうした点を踏まえ、地域の医療ニーズに対応しつつ経営も成り立たせていくには、自分の病院は今後どうしていくべきなのかを考えたとき、機能の見直しが必要不可欠になってきます。
そこでまず考えなければいけないのは、今の二次医療圏という考え方についてです。地域医療構想区域が正しいと仮定したうえで考えると、2040年までにはおよそ半分の構想区域では人口も減り、かつ、高齢者も減少します。つまり、そこでの医療需要は減少していくことになります。
医療需要が減っていくなかで病院が従来どおりの経営をしていくと、きちんとした病院経営は当然、難しくなるでしょう。では、どうしたらよいでしょうか。自分たちの診療圏を拡大し、ある程度の人口を確保する以外に方法がないと思われます。
ただし、診療圏を拡大することで他の病院と競合するとなれば、病院の機能分化をしつつ連携していくか、あるいは撤退するか、統合・合併するか――。大きな判断を迫られることになります。
構想区域の残り半分のうち、ごく一部は人口も増えて高齢者も増加しますが、大半の区域では人口は減り、高齢者は増えます。そうすると、従来どおりの医療を変える、つまり、高齢者対応を強化する必要が生じてきます。加えて、生産年齢人口、つまり働き手が減少するとしたら、医療需要全体がどうなるかを考えて行動していく必要があるでしょう。
その方法としては、病院の統廃合、機能分化、大型の病院を新規に建設して集約化する――などが考えられます。ただし、高齢者が増えることになるので、住んでいる地域の近くに、入院医療をある程度適切に分散させていく必要があります。
3つの医療圏で地域医療を考える
安心して暮らし続けることができる地域とは、そこで生活がきちんとできるということです。これについて国土交通省では、日常生活圈、地域生活圏、拡大生活圏という3つの生活圏の考え方を示しています。
このうち日常生活圏は、歩いて暮らせるコミュニティーレベル。地域生活圏はもう少し大きな広がりで、生活がすべて完結する圏域のことです。拡大生活圏は、前述の2つの生活圏よりさらに広域となります。
医療が、これらの生活圏と同様な広がりをもっていると考えるなら、日常生活圈、地域生活圈、拡大生活圏それぞれに対応した医療圏を考える必要があります。仮にこれを、日常医療圏、地域医療圏、広域医療圏と呼ぶこととしましょう。
日常医療圏とは日常的な外来・往診・在宅等ができる圏域で、かかりつけ医の機能を持った医療機関が対応します。地域医療圏とは、入院が必要になった方を受け入れる病院がある圏域です。そして広域医療圏とは、重篤な疾患や専門的なレベルの治療が必要な方を治療する病院がある圏域です。さらに、広域医療圏2つを連携させた、連携広域医療圏のような形も想定できます。
地域の人口減少が加速度的に進むなか、今後は、生活圏と医療圏をセットにして考えていくことが地域の安心・安全につながると思われます。つまり、生活や医療・介護がきちんと地域に揃うように日本全体を再構成していく必要があるということです。そのためには、国がガバナンスを発揮して、病床数や病院数についても議論を進める必要があります。
日本経済は「失われた30年」と言われますが、医療も同じで、今、まさに正念場を迎えていると強く感じています。人口減少社会では、これまでの二次医療圏という考え方を根本的に見直す必要があります。
国民にきちんとした医療を提供できるよう、早急に行動すべきときにきていると思います。(『最新医療経営PHASE3』2025年9月号)
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

