Dr.相澤の医事放談
第63回
地域の医療・経済を持続させるため
必要な支援・機能強化を求める

5月、日本病院会の会長に再任された相澤孝夫先生は、新たな2年間の任期に向けて、病院会として重点的に取り組むべき5つのテーマを掲げた。厳しさを増す医療財政や地域医療の再構築、病院機能の明確化など、制度的・構造的課題に対し、現場実務者としての視点から実行性ある提言を示す。

①緊急財政出動による病院経営支援

最優先で取り組むべきは、今年末、つまり、2025年12月までに政府による迅速な財政出動を実現することです。23年度、24年度と続けて病院経営は悪化し、赤字決算の病院が60%を超える水準に達しています。特に地域の中小病院では、次の決算を迎える26年春以降、金融機関からの融資が止まる懸念が現実味を帯びています。

病院が経営破綻してから支援を始めても遅いのです。必要なのは、今のうちに手を打つことです。これまでも「ベッドを減らしたら補助」「福祉医療機構からの無利子融資」といった「紐つき支援」が示されましたが、私は、そうした削減前提の施策には違和感を覚えます。なぜなら、むしろこれからの医療提供体制を考えると、長期入院を要する高齢患者が増えるなか、病床の維持・拡充が必要になる可能性があるからです。それよりもまず、現在の病院のひっ迫した経営状況に支援の手を差し伸べていただくこと――。それこそが最優先です。

②入院基本料の大幅引き上げ

00年に現行の体系になって以降、06年の7対1入院基本料導入を皮切りに何度か見直しは行われてきましたが、その多くは消費税対応や個別加算の包括化などの財政技術的な措置にとどまり、本体自体の価値が時代に即して見直されたことはありません。

物価や人件費、そして医療材料費が上昇するなかで、現行の基本料水準では医療の質を維持できません。たとえば、1日2000円の上乗せを14日入院で計算すれば2万8000円、これを400床規模の病院が年間通じて運用すれば億単位の差が生じます。それほど重要な財源です。ほかの公共料金と同じく、社会的コストを勘案したうえで診療報酬に正しく反映する制度に改めていくべきです。

③病院総合医の育成支援

85歳以上の高齢者が持続的に増加するなか、多様な傷病に対応するには特定の診療領域に偏らない医師の役割が極めて重要です。こうした背景のもと、地域の病院で日常的な診療に従事しながら全身状態を把握し、横断的に患者を診ることのできる医師、「病院総合医」の育成が急務です。

これは、専門医とは異なるキャリアの一環として、診療の現場を通じて対応能力を高めていくものであり、現実に即した医師像といえます。市中病院において実地診療を継続しながら学び続けられるリカレント教育の仕組みを構築し、国としてその体制整備と運用を強力に支援すべきです。

④地域を守る病院の診療報酬上の評価

高齢者の多疾患併存や急性増悪への対応が日常化するなか、地域の医療機関には24時間365日体制で外来・入院を一体的に担う役割が求められています。とりわけ、地域の中小病院は「7対1」型の急性期拠点病院とは異なり、より現実的な人員配置と機能分担によって限られた資源のなかで地域医療を支えています。

こうした医療機関における病棟として「地域包括医療病棟」が新設されました。急性期から在宅復帰までを一貫して担う体制として期待されていますが、現行の診療報酬上の評価がその特性を十分にとらえきれているかどうかには、検討の余地があります。たとえば、廃用症候群の発生率を一定水準以下に抑えるといった評価指標が設けられていますが、病棟の実情や患者像に照らして適切かどうか、再評価が必要ではないかと考えます。
また、これらの病棟を含む「ケアミックス型病院」についても、多様な医療ニーズを受け止めているにもかかわらず、7対1を基準とした従来の報酬体系では評価の枠組みに限界があります。地域包括ケア病棟、回復期病棟、10対1相当の急性期病棟など、機能に応じた柔軟な報酬設計が不可欠です。

地域で暮らし続けることを支える医療のあり方を再定義し、それにふさわしい報酬体系を設けることこそ、地域医療の持続可能性を高める第一歩なのです。

⑤地域経済のインフラである病院の維持

全国に約8000ある病院では、およそ250万人が働いています。その人件費が地域に還元されることで地域経済を支える役割を果たしていることは、言うまでもありません。病院の存在は雇用、経済、教育など多面的な地域インフラにもなっているのです。

病院の閉鎖は医療の空白だけでなく、地域経済の喪失につながるのです。「地方創生」を掲げる以上、地域病院の存続と経営安定は不可欠です。今後は、医療介護総合確保基金をはじめとする公的資金を戦略的に投下し、「病院を地域に残す」ことを政策の柱に据えるべきだと強く訴えたいと思います。(『最新医療経営PHASE3』2025年7月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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