Dr.相澤の医事放談
第62回
地域医療介護総合確保基金で
「地域に必要な病院」を支援する

地域医療の持続可能性を支えるカギとして、地域医療介護総合確保基金の戦略的活用が問われている。単なる施設整備ではなく、将来の医療ニーズに即した機能重視の支援が求められる。診療報酬による誘導の限界を踏まえ、基金の本来目的に立ち返る必要性について、相澤孝夫先生が語った。

地域医療の下支えに有効な
地域医療介護総合確保基金

2027年度から始まる「新たな地域医療構想」に向け、25年度はガイドラインづくりが始まるようですが、私は、財務的支援も含めた考え方も整理すべきと考えています。特に重要なのが、地域医療介護総合確保基金の戦略的活用です。

財政的政策誘導策としてよく議論に上がるのが診療報酬ですが、医療機関の機能や実績を問わず資金が一律に配分されるため、本当に支援すべき病院に十分な支援が届かず、逆に、支援の優先度が低い医療機関までもが漫然と温存されかねないという問題をはらんでいます。地域医療にとって不可欠な機能を持つ病院を戦略的に守るという目的に十分適しているとは言えません。
地域医療介護総合確保基金は、こうした診療報酬制度の限界を乗り越え、地域ごとの医療ニーズに応じて柔軟かつ戦略的に資金を投入できる仕組みです。この基金を活用して、高齢者救急やポストアキュート機能など地域に不可欠な医療機能を担う中小病院を重点的に支援することが必要です。

中小規模の地域型病院は、急性期拠点病院のような資本集中投下型の経営モデルとは異なり、人件費負担が非常に高い構造にあります。高齢者救急やポストアキュート機能を担う病院では、医療の質を維持するために多職種による支援体制が不可欠で、結果として人件費率が極めて高くなります。人件費は固定費であるため収入減少局面でも柔軟な調整が難しく、経営の脆弱性を高める要因となっています。こうした病院は、急性期拠点病院のような高回転・高単価の医療収入モデルを採ることが難しく、診療報酬だけでは十分な経営安定を図ることができません。

地域の高齢者医療を支える重要な機能を担っている以上、持続的な運営を下支えする仕組みが不可欠です。現場の実態を踏まえ、地域医療介護総合確保基金を活用して地域型病院の経営基盤を戦略的に支援すべきです。診療報酬による点数調整に頼るのではなく、地域の医療ニーズに即して「必要な機能を有する病院を戦略的に支える」という明確な方針のもとで資源を配分するのです。

労を惜しまず議論を積み上げる

本来、地域医療介護総合確保基金は、地域医療構想に基づき、将来必要となる医療機能を支援するために戦略的に活用されるべきもの。しかし現状では、地域の将来像を十分に描かないまま、施設整備や一過性の事業支援に使われてしまうケースが少なくありません。実際、医師用ロッカー室の整備といった、本来の地域医療機能強化とは直接関係しない用途に資金が投じられている例も見受けられます。
こうした使い方では、地域医療を将来にわたって守るために本当に必要な機能を支えることはできず、限られた資源の有効活用も難しくなってしまいます。地域医療介護総合確保基金という大切な資金は、単なる設備整備にとどまることなく地域の医療ニーズに基づいて必要とされる機能をしっかり下支えするために活用すべきです。

さらに、最近の議論の進め方についても問題を感じています。たとえば国政の場では「医療費4兆円削減策」などが取りざたされ、類似OTC薬をまとめて保険適用から外すことで一気にコスト削減を図ろうとしていますが、こうしたやり方に懸念を抱いています。
本来、医療費削減はそんなに単純な問題ではありません。同じ薬でも、使う患者や症状の程度によって必要性は大きく異なります。現場の実態を無視して一括で除外するようなことになると、必要な医療を受けるべき患者にまで負担を強いることになりかねず、かえって健康被害や医療費の増大を招くリスクもあります。一律的な手法ではなく疾患ごと、薬剤ごとに個別に精査し、少しずつ丁寧に適用範囲を見直していくべきです。

医療費削減は避けて通れない課題であることは間違いありません。しかし、単純な制度改変や数値目標ありきの議論では、医療提供体制そのものを損ないかねません。現場の実態を踏まえ、必要な医療を必要な人に届けるという視点を失ってはならないと私は考えています。

医療政策は、拙速な対応や派手な制度改変によって成し遂げられるものではありません。現場の実態に根ざし、一歩一歩、地道に課題を潰していく積み重ねが不可欠です。
たとえ時間がかかったとしても、労を惜しまず、忍耐と我慢をもって着実に取り組んでいく。その先にこそ、持続可能で現実に即した医療提供体制の姿が見えてくるはずです。(『最新医療経営PHASE3』2025年6月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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