Dr.相澤の医事放談
第61回
「地域型病院」を体現した相澤東病院
急性期と在宅の架け橋を務める

2027年度から始まる「新たな地域医療構想」では「医療機関機能」が新設され、各病院は自院の機能を報告することになる。その機能の一つに、「高齢者救急・地域急性期機能」がある。このモデルケースとして注目を集めているのが、相澤東病院だ。相澤病院から分離する形で誕生した同院だが、「急性期と在宅の架け橋」を体現すべく、さまざまな役割を果たしている。

急増する高齢入院患者
特有のニーズにどう応える

「新たな地域医療構想」では、各医療機関に対して「医療機関機能」を報告することを求めるとしています。具体的な機能としては、構想区域ごとに確保すべき医療機関機能として、「高齢者救急・地域急性期機能」「在宅医療等連携機能」「急性期拠点機能」「専門等機能」、広域な観点で確保すべき医療機関機能として「医育及び広域診療機能」が示されました。

それぞれの病院が地域で果たしている役割をどこまで明確に切り分けられるかという議論はあるものの、実際、急性期医療の現場では「急性期拠点機能」と「高齢者救急・地域急性期機能」は分けたほうが患者、医療機関双方にとって望ましいということは実感しています。

私は「急性期拠点病院」と「地域型病院」という整理をしていますが、置き換えると、前者が相澤病院、後者が相澤東病院ということになります。相澤病院の状況を見ると、明らかに高齢患者が増えています。退院患者の年齢構成では、2008年度に70歳以上患者が50%を超え、22年度には60%が目前です。30歳以上に限っても、その割合は30%を超えています。

急性期病院で治療した後の在宅復帰率を年齢別に見ると、違いが明らかです。75歳未満では約90%が自宅退院、転院は4%程度、施設入所は2%ほどにすぎません。これに対し、75歳以上になると、自宅に直接退院できるのは4%程度。転院は約18%、施設入所も10%に達します。「急性期医療を終えても自宅に帰ることができない」という現状は、このことからも明らかです。

さらにつけ加えると、高齢化に伴って疾患構造も変化しています。相澤病院が所在する長野県内の患者の状況を見ると、循環器系の患者は減少し認知症、呼吸器、関節症の患者が増加、かつ、治療の場所が入院から外来へ移行したことなどから在院日数が減少していることも明らかになりました。
つまり、入院需要が減少しているのです。もっと言えば、「相澤病院で医療を提供することが必ずしも最善ではない高齢患者が、一定数おられる」ことが、現場の実感だけでなくデータでも裏づけされたわけです。こうしたことから、次の2つの課題を設定しました。

「相澤病院で急性期治療は終了したが、自宅へすぐには帰れない高齢患者をどうするか」
「急性期拠点病院のような重装備な病院への入院が必要でない高齢患者(軽度急性期)をどうするか」

内科系急性期を中心に対応
介護施設との連携も強化

そこで生まれたのが、16年2月1日に開院した相澤東病院です。当時502床だった相澤病院から42床を分けて立ち上げました。使命として「在宅療養の安全・安心を守るべく、急性期医療と在宅医療の架け橋となる」ということを設定しました。

具体的な役割としては、▽集中的リハビリテーションの提供や訪問系サービスの充実によって早期の在宅復帰を後押しする、▽急性期拠点病院に入院するほどではなく、内科系急性期が大半を占めることになる高齢患者について、直接入院を引き受ける、▽相澤病院からの転院を引き受ける体制を設け、慢性期病院や介護施設との連携も深めて在宅復帰の受け皿の一端を担う――などを想定しました。

全床を地域包括ケア病棟としたのが16年6月1日で、その後の入院経路を大まかに見ると、相澤病院からの転院が63%強、ER・一般外来経由が7%、登録医等からが27%、相澤東病院の外来からの入院が3%ほどとなっています。最近の傾向としては、登録医等からの入院割合が増えています。
疾患種別を見ると慢性心不全・うっ血性心不全、脊椎圧迫骨折・骨盤骨折、廃用症候群、脳卒中などが上位を占めています。そのほかにも、悪性腫瘍・血液腫瘍やパーキンソン病、認知症の方々なども目立ちます。

運営していくなかで新たに設けた役割もあります。その一つが、介護施設から相澤東病院に直接ご連絡をいただき入院してもらうというものです。有料老人ホームや特別養護老人ホームなど、介護施設に入所している方々が相澤病院に救急搬送されているケースがあり、かつ、相澤東病院でも、退院先がそういった施設という方々も一定数いることがわかりました。
そこで、いくつかの介護施設と相談して提携を結びました。入所者の具合が悪くなった場合、直接、相澤東病院にご連絡いただき、必要に応じて相澤東病院の病院救急車で搬送する仕組みを設けたのです。(『最新医療経営PHASE3』2025年5月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

TAGS

検索上位タグ

RANKING

人気記事ランキング