マネジメント カウンセリング・ルーム
Vol.10
安心・信頼できる空間をつくるための「小さな配慮」

<今月のご相談>患者さんからのご意見で職員の身だしなみへの苦言が多く寄せられています。多様性の受容、ダイバーシティが求められる現代ですし、自己表現の自由さは認める必要もあると思うのですが、どのように注意していけばいいでしょうか。

いつもなら気にならない一言も
心に刺さる患者・利用者

私が医療や介護現場の接遇研修に招かれるときに、必ずお話しする内容があります。それは、サービスを提供する対象者は患者さんや介護、介助の必要な方々であること、心持ちがいつもと違い、痛みや不安や羞恥心、お世話をしてもらうことへの負い目などを常に感じている方々だということ。そして、さまざまな周囲の状況に対して感性が敏感になっている方々であり、いつもなら気にならないような一言が、とても心に刺さってしまうことのある方々だということです。

接遇マナーという視点で言えば、どのような業種、場面であっても、接遇の5原則「挨拶・声かけ」「身だしなみ」「言葉遣い」「表情・笑顔」「態度・聴く姿勢」は共通だと思います。相手を不快にさせないように、この5原則を心がけながら接するのが基本です。

今回のご相談者のお話をうかがうなかで、実際に患者さんから寄せられたご意見をいくつか思い起こしました。

  • 受付の事務員が指輪を沢山付けていた。注意しないのか
  • 検査の人がタバコ臭かった。途中で気持ちが悪くなった
  • 部屋に掃除に来る人が香水か何かわからないが、すごく匂いが強いものを使っている。とても気になる

どれも、「あぁ、患者さんは気になるでしょう」というものですね。この他にも、装飾つきのネイルや個性的なメイク、まとめていない長い髪、汚れたり破れたりしているユニフォームなども不快に感じる方がいるでしょう。

病院職員の身だしなみで大切なのは、清潔感です。衣服はもちろん、爪や足元、髪型、整髪剤や衣類の柔軟剤の香りにも配慮して、患者さんが安心できる身だしなみを心がけていただきたいものです。身だしなみが整っていると安心感を与えますし、信頼して声をかけやすくなります。

職場では「おしゃれ」よりも「清潔感」や「安心感」を優先

身だしなみについてのご意見が多いのは、患者さんの側から見て「ちょっと不安」になる様子があるからではないでしょうか。目の前の自分に注力してくれているのか、不快感を与えないような配慮をしてくれているのかなど、「気遣い」を感じられないことが「不快感」につながっているのではないかと思います。

病院や介護施設などは、患者さん、利用者さんやそのご家族にとって「安心」と「信頼」を感じられる空間でなければなりません。そして、その空間をつくるのは、職員一人ひとりの日々の言動や振る舞い、さらには「身だしなみ」によるところが大きいのです。

ピアスやネックレスといったアクセサリーは、医療安全や感染管理の視点から仕事中は外すことが基本です。直接患者さんに接することのない職種だとしても、患者さんから見れば、「清潔さや衛生面で問題はないだろうか」と不安を感じるきっかけになることもあるのです。

「おしゃれを楽しむこと」は悪いことではありません。仕事とプライベートを切り替えるアイテムでもあります。職場では「おしゃれ」よりも「清潔感」や「安心感」を優先するように働きかけていくのがよいと思います。

患者さんとの信頼関係は、毎日の「小さな配慮」の積み重ねで築かれていきます。私たちの身だしなみは、患者さんへの思いやりの一環です。鏡に映る自分の姿を見て、「患者様に安心を届けられる自分でいられるか」と問いかける習慣を、ぜひ大切にしていきましょう。(『最新医療経営PHASE3』2025年3月号)

いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民問企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に「医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」「経営企画部門のマネジメント」(ともに日本医療企画)ほか

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