Dr.相澤の医事放談
第59回
「病床数の適正化」を進める
医療機関への給付金に対する違和感
日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会、日本慢性期医療協会の病院5団体は1月23日、「病院経営は破綻寸前 地域医療崩壊の危機」と題した緊急要望を福岡資麿・厚生労働大臣に申し入れた。相澤孝夫先生によると、その主眼は「入院基本料の引き上げ」にあるという。入院医療を維持するためにも、これが不可欠だと力説する。
「病院経営は破綻寸前」
5団体で要望申し入れ
日本病院会は1月23日、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会、日本慢性期医療協会と連名で「病院経営は破綻寸前地域医療崩壊の危機」と題した緊急要望を福岡資麿・厚生労働大臣に申し入れました。
内容は、
▽直近の病院の経営状況を考慮し、地域医療を守るため、緊急的な財政支援措置を講ずる、
▽病院の診療報酬について、物価・賃金の上昇に適切に対応できる仕組みを導入する、
▽社会保障予算に関して、財政フレームの見直しを行い、「社会保障関係費の伸びを高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という取り扱いを改める──
ことの3つです。
従前から、病院経営が危機的状況であることは繰り返しお話ししてきましたし、厚生労働省の審議会や政治家の皆さんとの会合でも訴えてきましたが、なかなか伝わらないという思いをもっています。
入院医療の維持には
「入院料」引き上げしかない
たとえば、診療報酬改定のたびに「入院基本料の引き上げ」を求めていますが、実現したという手応えは全くありません。病院が提供する医療と、その体制を維持するのに必要な費用については考慮されていないと言わざるを得ません。
確かに、手術などの手技料については精緻な評価体系が組まれる、それなりに診療報酬上でも評価されているかもしれませんが、そもそも、手術は手技だけで成り立つわけではありません。手術室の維持・管理や設備調達のための費用がかかり、材料についても、購入費用だけでなくそれを適切に管理するための費用が発生します。外部委託の場合は委託費が伴います。
そして何より、入院患者さんに適切な療養環境を用意しなければならず、設備維持にも当然、費用がかかり、物価高騰のあおりもあり、それらは上昇し続けています。
日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会が実施した「2024年度病院経営定期調査」では18年度から23年度の医業収入と経費の変化を追跡していますが、それによると、医業収入の伸び率が+9.9%であるのに対して医業費用は+13.6%。
さらに、経費の変化では、給与費は+8.2%であるのに対してその他経費は18.9%。福祉医療機構の調査では、22年度における急性期(一般病院)の医業利益率は▲2.3%ですが、医業収入の伸びと費用の伸びを比べれば、その結果もうなずけるでしょう。
この差異を埋める、言い換えれば費用の上昇分を吸収し、経営を安定化させるには入院基本料を引き上げて収入を増やすしかないというのが私たち病院団体の主張なのです。
これまでも消費税率の引き上げの際にはその分を初・再診料と入院基本料に上乗せしたり、他産業との賃金差が顕著になったことを受けてベースアップ評価料を設けたりと、個別の案件が浮上するたびにそれに応じた手立てを講じてきましたが、病院経営の安定化には寄与してきませんでした。
極論すれば、実質的に入院基本料は「据え置き」が続き、「入院医療はそんなにお金をかけなくてもいいよね」という考えが示されているとさえ言えるのです。
病院自らが声を上げ
国民にも理解を求めるべき
1月10日の四病院団体協議会新年会員交流会で、私は「一人ひとりの国民に病院が何に困っているのかを知っていただこう」と呼びかけました。もちろん、これまでもその取り組みを怠ってきたわけではありませんが、日本医師会などに「丸投げ」してきた点は否めません。
しかし、日本医師会の先生方は診療所の方々が大半で、入院医療提供のためにどのような費用がかかるのかといったことを肌身で感じるのは難しいと思います。そうした先生方に依存しきるのではなく、「病院は自分たちの窮状をきちんと発信すべきである」という問題意識を込めて申し上げたのです。
病院がそうした姿勢を見せてこそ医師会の先生方も立ち上がってくれるのではないでしょうか。「一揆・反乱なりを起こしてでも訴えないと」ともお話ししましたが、この状況を放っておけば、病院だけでなく地域医療も崩壊しかねません。
こうしたお話をすると、一部からは「財源確保が不可欠」といったご意見が上がりますが、それと病院経営のひっ迫を発信するのは別の話。入院医療を維持するには医業収入を上げること、その手立ては入院基本料の引き上げであることを訴えるのです。そのために必要な財源確保については別の議論であると、私は考えています。(『最新医療経営PHASE3』2025年3月号)
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。