ケーススタディから考える診療報酬
第31回
協力対象施設入所者入院加算と経営改善
冬は入院患者が増える傾向にある季節です。連携している施設からの入院患者も多くなるのではないでしょうか。2024年度診療報酬改定で、そんな連携した施設からの入院患者に対する評価として新設されたのが「協力対象施設入所者入院加算」です。今回は、当該加算について地域による反応の違いから、戦略的な施設との連携を考えます。
ケース:協力対象施設入所者入院加算が追い風に
*今回とりあげたテーマについて、実際に現場で起こっている問題を提起します
(特定を避けるため実際のケースを加工しています)
ある200床未満のケアミックス病院(急性期一般入院料1、地域包括ケア病棟入院料1)のお話です。
この病院では新加算を経営改善の追い風にしようと、病院一丸となって取り組んでいます。
院長先生「協力対象施設入所者入院加算を届け出ましょう。今まで連携履歴のある施設はもちろん、地域にあるあらゆる施設に手紙を出して、連携を呼びかけてみましょう」
トップの“鶴の一声”。で届け出をすることが決まり、この加算は地域連携室が主導となって施設基準などを整えることになりました。
2024年度介護報酬改定では、介護施設に協力医療機関との連携が義務化されたという背景もあり、医療機関側からの一方的な“お願い”ということではなく、医療と介護施設が連携を行うことで相互にメリットがある改定になりました。
そのことも後押ししたのか、前向きな返事があった施設は20以上にのぼり、そのほとんどの施設と協力対象施設入所者入院加算に対する関係性を築くことになりました。
上村「すごいですね。多くの施設と月に1回、どのようにカンファレンスを行うことにされたのですか」
連携室「月に1回、院内で施設の方を招いて勉強会を行うことにしました。院内で講師ができる人材はたくさんいますので、すぐに年間スケジュールを立てることができました。介護施設の皆さんにとっても、医療の勉強がリアルでできる機会はありがたいようで、とても喜ばれています。勉強会の後、連携室のメンバーが手分けをして連携先の施設とカンファレンスを行っています。半年経過しましたが、それまでよりも良い関係性を築くことにつながっているのではないかと思います」
表に、制度設計について一部抜粋したものを示していますが、一番ネックになると思われるのは、施設基準にある「1月に1回以上の頻度でカンファレンスを実施」という文面だと思います。そもそも、ICTを活用できる環境にあれば年に3回以上のカンファレンスで良いのですが、病院はもとより、施設側の環境が整っているケースは多くはないため、必然的に月1回のカンファレンスを行うことになるはずです。
1 往診が行われた場合600点
2 1以外の場合200点
【対象医療機関】
在宅療養支援病院、在宅療養支援診療所、在宅療養後方支援病院、地域包括ケア病棟入院料に係る届出を行っている病棟又は病室を有する病院
【算定要件】
患者の病状の急変等により入院が必要となった場合に、当該介護保険施設等の従事者の求めに応じて当該患者に関する診療情報及び病状の急変時の対応方針等を踏まえて診療が行われ、入院の必要性を認め入院させた場合に、入院初日に算定する。
※当該保険医療機関と当該介護保険施設等が特別の関係にある場合、協力対象施設入所者入院加算は算定不可
【施設基準】
(2)次のいずれかの要件を満たすもの。
ア 次の(イ)及び(口)に該当していること。
(イ)入院受入れを行う保険医療機関の保険医がICTを活用して当該診療情報及び病状急変時の対応方針を常に確認可能な体制を有していること。
(口)介護保険施設等と当該介護保険施設の協力医療機関において、当該入所者の診療情報及び急変時の対応方針等の共有を図るため、年3回以上の頻度でカンファレンスを実施していること。
イ 介護保険施設等と協力医療機関として定められている医療機関において、当該入所者の診療情報及び急変時の対応方針等の共有を図るため、1月に1回以上の頻度でカンファレンスを実施していること。
通常、施設から入院になる場合には施設職員が患者と一緒に来院するケースが多いため、そのときにカンファレンスを行っても良いのですが、月に1回定期的にそれが実施できるかとなると不確実ですし、単純に、業務が増えることに対する抵抗感もあり、届出に二の足を踏む病院も多いようです。
また、とある病院では「施設は足元を見てくる」として、「連携先だから絶対に受け入れるべきという態度の施設があるはずだ」「入院させたら後は丸投げされるのではないか」という懸念も多くうかがいます。ケースの病院に問うと「確かにそういう事象がないわけではない」とのことですが、何よりも、施設との関係性がより良くなることで得られる病院側のメリットのほうが大きいと語ります。
少しずつ届け出る病院は増えているようですが、皆さまの病院では、この加算を届け出ているでしょうか。より良い地域連携構築のみならず経営改善の追い風にするための方法を、この加算から考えてみてはいかがでしょうか。(『最新医療経営PHASE3』2025年2月号)
結論
施設との連携を進め
集患と収入アップを図っていこう!
株式会社メディフローラ代表取締役
うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、総合病院での勤務の傍ら、慶應義塾大学大学院にて人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。2010年には心理相談員の免許を取得。医療系コンサルティングを経て13年、フリーランスとなり独立