ケーススタディから考える診療報酬
第28回
マイナ保険証利用率が加算を分ける
〜医療DX推進体制整備加算

2024年度診療報酬改定が6月からスタートとはいえ、例年どおり9月に経過措置を迎える施設基準の対応が佳境に入るこの時期に原稿を書いています。そうした施設基準のうち、24年度改定で新しく登場した「医療DX推進体制整備加算」は、10月からマイナンバーカードを用いた保険証の利用率が要件化され、さらにその利用率に応じて加算が1から3に分けられることになりました。この加算について、ある病院で起こったケースを紹介します。

ケース:私たちの地域は高齢者が多いから無理ですよ……

*今回とりあげたテーマについて、実際に現場で起こっている問題を提起します
(特定を避けるため実際のケースを加工しています)

中部地方にある300床規模のケアミックス総合病院でのお話です。この病院の医事課長Aさんは2024年度に新設された医療DX推進体制整備加算について頭を悩ませていました。

Aさん「10月からマイナ保険証利用率が一定以上必要になる新加算ですが、うちの病院ではレセプト件数ベースで4%、オンライン資格確認ベースで25%程度という状況です。当該加算は来年1月まではオンライン資格確認ベースの数値でも大丈夫とされているので、そのときまでは何とか加算を取得できそうなのですが、その先は無理ですよ」

筆者「なぜ、無理だとお考えになるのですか」

Aさん「私たちの病院の患者はほとんどが高齢者です。しかも、後期高齢者が多い。独居の人も多いですし、マイナンバーカードよくわかっていない人もたくさんいます。カードリーダーで途方に暮れている患者さんへの対応で職員は大忙しですし、こんなに病院の現場職員の負担を増やす改定に、私は不満が募るばかりです」

筆者「対応を迫られる現場は大変ですよね。ところで、職員の皆さまはマイナ保険証をお持ちですか。今年発表されたデジタル庁の調査によると『マイナ保険証を持ち歩く人は45.8%になった」ということが報道されていましたが、職員の皆さまは、マイナ保険証を持ち歩かれていますか。そして、職員の皆さまが受診されるときは必ずマイナ保険証を利用するように働きかけていますか」

Aさん「それは考えていませんでした。職員よりもはるかに多い一般の患者さんのことばかりに目が向いていました。職員のマイナ保険証取得率はどの程度でしょうか……。確かに、まだ持っていないという職員がいると聞いています。職員の受診者は少なくないですね。これだけでも変わるのかな」

この病院では、Aさんをはじめとして幹部職員はマイナ保険証に対してネガティブな印象を持ち続けていたため、マイナ保険証利用率を上げる取り組みを積極的に行っていなかったのですが、その後、①職員のマイナ保険証利用率を上げるための啓発活動、②患者導線を踏まえてカードリーダーの設置場所を変え、コンシェルジュを配置(それまではバラバラに配置されていた)、③受付時に「マイナ保険証はお持ちですか」の声かけの徹底――を始めたと言い、少しずつカードリーダーの利用件数は増えているようです。

Aさんがおっしゃるとおり、対応する現場の皆さまにかかる負荷は小さくない改定だと思います。しかし、残念ながら、この新しいマイナ保険証に移行していく流れが「やっぱりマイナ保険証はやめて従来型の保険証に戻ります」となることは現状考えにくく、粛々と対応する方法を考える必要があるようです。

病院によるマイナ保険証利用率の違いは、同じ地域にあってもバラつきがあるようです。もちろん、地域性や患者特性が利用率を左右する要因であることを否定しているわけではありません。しかしそれ以上に、病院として職員を巻き込んだ対応がどれだけできているのかが利用率の違いに現れていると考えます。
クライアントである医療機関の皆さまとお話をしていると、意外とマイナ保険証を持っていない医療従事者の方にお会いすることがあります(それが経営層クラスであることも)。職員の皆さまにマイナ保険証の利用を訴えるのであれば、経営層が自ら進んで持ち歩き、使用することも大切なことではないでしょうか。

医療DX推進体制整備加算で求められているマイナ保険証の利用割合は、10月から12月までと1月以降で異なります(来年4月以降については今後検討し設定される予定)。なんと、基準は2倍になるのです。点数設計がとても大きいとは言えませんが、不可逆的に求められるDX対応の結果であるこの加算について、できるかぎりより高い点数の加算を算定できるようめざしていただきたいと思います。今後の疑義解釈も注視しつつ、対策を練っていきましょう。(『最新医療経営PHASE3』2024年11月号)

結論

マイナ保険証は時代の流れ
職員を巻き込み
院内で対応できるので着手を!

上村久子
株式会社メディフローラ代表取締役

うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、総合病院での勤務の傍ら、慶應義塾大学大学院にて人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。2010年には心理相談員の免許を取得。医療系コンサルティングを経て13年、フリーランスとなり独立

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