ケーススタディから考える診療報酬
第27回
リハビリ・栄養・口腔
連携体制加算算定は誰が旗を振る?
6月から新診療報酬制度になり3ヵ月が過ぎようとしています。今次改定でも新しい加算がいくつか登場していますが、正しく算定できているか確認していますか。今回は、新加算のなかでも目玉とされている「リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算」について、ある病院で起こったケースを紹介します。
ケース:忙しいので私たちでは対応できません!
*今回とりあげたテーマについて、実際に現場で起こっている問題を提起します
(特定を避けるため実際のケースを加工しています)
西日本にある300床規模の総合病院(急性期病棟、回復期リハビリ病棟を有する)のお話です。
この病院では、2024年度診療報酬改定で新たに登場した「リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算」を取得することで、病棟ごとの収入が大きく上がることに注目し、「全病棟算定に向けて動いていこう!」と、毎月1病棟ずつ段階的に届出病棟を増やしていくことを決めました。
まず始まったのは、整形疾患が集まるX病棟。X病棟で当加算の専従者となったリハビリ主任Aさんは、どんなお仕事でも非常に効率的にこなすことのできる優秀な人材です。X棟の算定はAさんともうひとりの専任リハビリさん、専任の栄養士さんを中心に計画作成やカンファレンスが開かれ、順調に算定されるようになっていきました。
翌月から算定を開始する病棟として選ばれたのは、神経系疾患が集まるY病棟。ここの専従はAさんと同じ役職であるリハビリ主任のBさんです。Y病棟でもX病棟と同じようにBさんを中心に算定フローを整えようとしたところ、BさんからY病棟看護師長に相談がありました。
リハ専従Bさん「私はリハビリ部門の管理職です。スタッフの育成やシフト管理など管理職業務も行わなければならず、Aさんと同じような動きを行うにしても、時間がありません。よって、看護師さんに手伝ってもらえませんか」
よく制度を理解していなかったY病棟師長はこの申し出を渋々、了承。計画作成や算定が行えているかどうかの確認、カンファレンス記録の作成などを手伝ったことで、結果として、Y病棟師長が時間外に病棟に残り仕事をしていることが多くなってしまいました。
Y病棟師長の訴えでこの状況を把握した看護部長は、リハビリ部長に話を聞きました。
リハ部長「Bさんはね……、あまり要領のいいタイプではないので仕方がないのです。Aさんができすぎるんですよね。なんにせよ、現状で加算が算定できているのですから良いのではないですか。もう少し経てばY病棟師長もお仕事に慣れてくると思うので、スムーズになるのではないでしょうか。リハ専任者ですか。専任者はBさんがお休みをした際にフォローする役割ですので……。現時点では、Bさんにはこれ以上お仕事をお願いするのは無理です」と状況は変わりません。
看護部長「経営陣から『絶対に加算は取り下げるな!』と言われていますが、この状態では、Y病棟師長が業務過多で倒れてしまうのではないかと気が気ではありません。何より、“専従者と専任者”が病棟にいるはずなのに『加算以外の仕事で忙しいから』と言うのは通用しないと思うのですが……」
この病院のように、管理職を担う専門職が「専従」「専任」者になるケースは少なくありません。
当該加算は届け出る病棟につき「専従の常動リハビリスタッフが2人以上配置されていること(1人は専任でも可能)」という施設基準があります。専従者とは「もっぱらその業務に従事する人」で、今回のケースでは当該加算業務の中心人物と言えます。専任者は当該業務に支障が出ない限りは他業務にも携わることができますが、基本的に当該加算の専従者とともに業務を行う要員であることは間違いありません。そして、専従・専任者は2人ともに「1日につき9単位までは疾患別リハ料の算定が可能」となっており、疾患別リハ料の対象者以外の患者についてのADL維持・向上のための指導等も加算要件となっています。つまり、専従・専任者は現場で患者に寄り添い、加算目的に沿った業務を行う中心人物と定められているのです。このケースの場合、書類上では専従・専任者を置いていることになっていますが、実情はその役割に沿って動けていないため“不適切な運用”となり、問題があるのです。
このような現場に寄り添った業務が中心となる加算は、管理職が専従者を担うことが必ずしも適していないことがあります。他院では、次期リーダー候補の若手を専従・専任者に任命することで、スタッフ教育やモチベーションアップにつなげているようです。
皆さまの病院では、施設基準に則った運用ができているでしょうか。アフターコロナで適時調査も通常どおりになっていますので、正しい体制の構築について、今一度、振り返ってほしいと思います。(『最新医療経営PHASE3』2024年10月号)
結論
診療報酬が示す「役割」の意味を
正しく理解しよう!
株式会社メディフローラ代表取締役
うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、総合病院での勤務の傍ら、慶應義塾大学大学院にて人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。2010年には心理相談員の免許を取得。医療系コンサルティングを経て13年、フリーランスとなり独立